第6話 お嬢様とデート(強制)
放課後。
帰宅部の俺ははやく家に帰ろうと鞄に物を詰め込んでいた。
朝倉陽、あなたを――お嬢様の専用抱き枕に任命します。
昼休み。鈴木が残したあの言葉が、未だに頭から離れない。
正直言っている意味は分からない。だけどなんだか嫌な予感がした。
今日はできるだけ、氷室と鈴木には会わないようにしよう。
そう決意してそそくさと帰宅の準備をしていたのだが、ひと先遅かった。
「陽はいるかしら?」
教室の入り口から、凛と響く女子生徒の声。
全員の視線がそちらへ向く。そして、ざわつきが広がる。
そこに立っていたのは、氷室だったからだ。
やばい……目が会った。
俺を見つけるなり、彼女はすたすたと教室の中へ入ってくる。
そして俺の机に座り、キスでもすんじゃないかぐらいの距離まで顔を近づける。
「………な、なんっすか?」
「今日、付き合いなさい」
唐突すぎる誘いに、俺は固まる。
「……遠慮しておこうかな」
「却下よ。主の言うことは絶対なんだから」
「……いつから俺は家来になったんだよ?」
「まゆから聞いていないの? 今日から陽は私専用の抱き枕として、共に一夜を過ごしてもらうわ」
「いやいやちょっと待て! 俺、抱き枕になるとか一言も言ってないぞ!」
「なんでもするって、言ってたわよね?」
「…………うっ」
その言葉に、思わず口を閉ざしてしまう。
……言った。確かに、言った。
くそ、あのとき「なんでもする」なんて軽口を叩かなければ……!
「私の抱き枕になる以上、まずはお互いのことを知る必要があるわ」
「お互いのこと?」
「当然でしょ?同じベッドで寝るんだから多少は相手のことを知らないと」
氷室は口元を少しだけ緩めると、堂々と宣言した。
「というわけで、今から行うのは信頼関係を構築するプロセス……堅苦しい言い方が苦手ならデートと呼んだほうがいいかしら?これから、私と陽がそれぞれ行きたい場所を一か所ずつ出し合って、順番に回るの」
デートの言葉に、周りの生徒のざわつきが大きくなる。
なんせ氷室は超がつくほどの美少女。数多の男子は彼女に告白をし、撃退をって言う話だ。
どうする…………この状況?
いっそう、逃げてこの場をやり過ごすか、と考えたが、
「拒否権はあなたにありません。万が一逃走の意思が見られる場合、拘束も辞しませんよ」
俺の後ろから気配もなくすっと現れたのはメイド。
……選択肢はないのね。
「……喜んで行かせていただきます」
「ふふっ、いい返事ね。それじゃさっそく行きましょ」
結局、なぜか俺はお嬢様とメイドに連れられて、街に出ることになった。




