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抱き心地1000%の俺、なぜか女子に「一緒に寝よ」と誘われる  作者: ハルちゃん


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2/12

第2話 今日は、お泊まりですか!?

 その日の夜、俺は自分の部屋でひとり、天井を見上げていた。


 昼の出来事が、まだ頭から離れない。

 今日保健室で、月ノ瀬夢乃と一緒に添い寝をした。

 あいつの寝顔、吐息、匂い……忘れようとしても無理だった。

 あと、ひなたから食らった腹パンのダメージがまだ残っている。


 「……あいつ、マジで何なんだよ」


 布団に顔を埋めたそのとき、突然チャイムの音が鳴った。


 ――ピンポーン♪


 誰だよ、こんな時間に。親は帰るのは遅いはずだし、今日宅配便が来る話も聞いていない。

 玄関を開けると、そこに立っていたのは――


 「やっほ~」


 制服姿のまま、にっこり笑って挨拶しているのは、月ノ瀬夢乃だった。


 「は……? え、なんで……!?」


 頭がフリーズしていると、ポケットからスマホの通知音が鳴る。


 『陽。言い忘れてたんだけど、今日は夢乃ちゃんが来るから仲良くしてね^^』


 『は?』とすぐさま返信。


『実はお母さんと夢乃ちゃんのお母さんは、小学生からの友達なのです!でね、今日久しぶりに一緒に飲みに行くから、今日だけ夢乃ちゃんをうちで預かることにしたの^^』

『勝手に決めてるんじゃねぇよ!俺、夢乃と話したことないぞ!』

『それじゃよろしくね^^』

『おい!』 


 こいつ無視しやがった。

 普段ならなんとも思わない^^も、今日はなんだか腹が立つ。


「ん~?どうしたの~陽くん?」


 さっきから携帯を扱っている俺に不信に思った夢乃が首を傾げる。


「え?あ、いや、急だったからよ………もしかして今日うちに泊まるのか?」

「うん。ママが陽くんの家に泊まりなさい言ったから~ちゃんと着替え持ってきたよ」

「……親父も今日帰り遅いから、俺と二人っきりで夜過ごすことになるんだぞ?」

「大丈夫だよ。私チャーハンつくるの得意だよ。」

「別に飯の心配はしてぇねよ。だから家にはお前と俺しかいないんだぞ?いいのか?」

「もちろん、オーケーだよ~」


 本人は泊まる気満々だ。

 せっかく来てくれたのに、ここで追い返すのは可哀想なので、


「そ、そうか、じゃ狭い家だけど上がってけよ」


 俺は夢乃を家に入れることにした。

 ……本当に家に入れてよかっただろうか?


○○〇


「おじゃましま~す」

 

 靴を脱ぎながら、夢乃がリビングをきょろきょろと見回す。


「ここが陽くんの家か~。なんか、落ち着くね~」


 今日会話をしたばかりの相手が、当たり前のように家に上がっている。

 まだ現実感がない。何を話せばいいのかもわからず、俺はただ立ち尽くしていた。

 すると、夢乃がこちらを振り向いてくる。


「ねぇねぇ、陽くん。お腹空いてる?」

「え?」


 言われてみれば……

 俺が答えるよりも先に腹から鳴ってしまった。


「まあ……腹減ってきたな」

「それじゃ、私に任せて~! キッチン借りてもいいかな?」

「え、あ、うん。別にいいけど……」


 夢乃はさっそくキッチンへ向かう。

 どうやら家に来る前に買い物もしていたらしく、レジ袋から卵やネギを取り出しては、楽しそうに鼻歌を口ずさんでいる。


「……まさか、作るのか?」

「うん。今日泊まらせてくれるお礼をしないとね。陽くん、チャーハン嫌い?」

「いや、むしろ好きだけど」

「よかった~♪ じゃあチャーハン作るね。陽くんはダラダラしてていいよ?」

「いや、さすがに全部任せるのは悪いだろ。俺も手伝う」

「えへへ、ありがとう。じゃあ……陽くんは玉ねぎ、お願いしていいかな?」

「おう! 任せとけ!」


 とは、言ったものの。料理なんてやってことない。

 包丁なんて持ったのは小学生の料理実習ぶりだ。

 正直指を切りそうでめちゃくちゃ怖いが、女子の前でカッコ悪い姿は見せれない。

「細かく刻めばいいんだよな?」

「うん」


 まな板と包丁を用意し、俺は勢いよく玉ねぎを刻み始める。

 

 ――五分後。


「……あああああああっ!! 目が!目がぁっ!」

 

 涙が止まらない。視界がぼやけて、玉ねぎどころじゃない。


「夢乃さぁぁん!助けてくださいぃぃっ!」

「ぷっ……あははっ、陽くん、泣いてるの?」

 

 笑いをこらえきれず、夢乃が肩を震わせる。


「笑いごとじゃねえぇっ……これマジで拷問だぞ……!」

「ふふっ、しょうがないなぁ。じゃあ、こっちのネギ切ってもらおうかな?」

「そっちも目に染みるだろ!」

「がんばって♪」


 夢乃が見せた笑顔は、まるで戦場に向かう兵士を送り出す司令官のようだった。

 下ごしらえが終わると、俺は大人しく役目を交代する。

 料理経験ゼロの俺が炒めたら、どう考えても黒焦げエンドなので、ここは潔く夢乃に任せることにした。

 俺はキッチンの隅で、邪魔にならないように見学を始める。


 じゅー…………


 フライパンに卵を流し込むと、夢乃は真剣な表情でヘラを操り出した。

 手元に一切の迷いがなく、リズムよく炒めていくその様子に、つい見入ってしまう。


 「……すげぇ、なんか、手慣れてるな」


 予想以上に本格的だ。

 ちょっと前まで保健室で俺に抱きついて寝てたやつと、同一人物とは思えない。


 そして――


 「いただきまーす!」


 夢乃がちゃちゃっと仕上げたチャーハンは、黄金色に輝いていた。

 仕上げに青ネギをぱらりとかけた姿は、まるでラーメン屋の一皿みたいな完成度。

 俺はスプーンを手に取って、ひと口。


 「はむっ」


 パラリとほどけた米粒に、卵のコクとハムの塩気が絶妙に絡み合う。

 シンプルなのに、止まらない。というか……うまい。マジでうまい。


 「うまっ!」


 思わず叫ぶと、夢乃が嬉しそうに笑った。


 「よかったよ~」


 自然と目が合って、ふたりしてくすっと笑う。

 でも、正直に言って、予想以上だ。うますぎて、俺は気づけばリスみたいに口いっぱい頬張ってしまう。

 ……そういえば、よく考えたら、これって女子の手料理じゃないか?

 そう思った瞬間、なんだか妙に意識してしまった。

 さっきまでがっつくように食べていたのが嘘みたいに、スプーンの動きがふっと止まる。

 ――これ、夢乃が作ってくれたんだよな。

 そう思うと、もったいなくて急いで食べるのが惜しくなった。

 一口ずつ、ゆっくり味わうように、噛みしめるように、慎重にスプーンを運ぶ。

 すると、夢乃がふと口を開いた。


「今日、陽くんと一緒に寝たい」


 ……は?

 スプーンを持った手が固まる。脳内で、何かがバチンと音を立ててショートし、持っていたスプーンが床に落ちる。


「……え?」


 ようやく出た俺の声は、情けないくらい裏返っていた。

 夢乃はというと、何事もなかったかのようにチャーハンをもぐもぐ咀嚼している。


 「いや、え、ちょ、お前今なんて……?」

 「ん? 今日、陽くんと一緒に寝たいって言ったよ?」


 言った本人は至って真顔。むしろ、純粋な目でこちらを見てくる。


「……お前……マジで言ってるのか?」

「本気だよ。今日ね、陽くんと一緒に寝たらすっごく気持ちよかったの。いつもは寝ても寝ても眠たいのに、今日はスッキリしてて……なんかすごい不思議な感じだった」

 

 その声には、ふざけた様子なんて一切ない。

 本当に、素直な気持ちを口にしているだけなんだと分かってしまうから、余計に困る。


「ねぇ、いいでしょ?私、寝相いいほうだよ?」


 やばい。何か言わないと。このままだと、押し切られる。

 でも「ダメだ」とも言い切れない。なんか……断ったら傷つけそうで。

 かといって「いいよ」とも言えない。俺が精神的に持たない。

 ……そうだ。


「じゃあ……ゲーム、しようぜ」

「ゲーム?」

「サッカーのゲームだ。アルティメット・イレブン。俺が勝ったら、お前は一人で寝る。負けたら……一緒に寝てやってもいい」


 夢乃がぱちくりとまばたきをして、それからにっこり笑った。


「いいよ。受けて立つよ~」


 よし。勝負に乗ったな。

 夢乃には悪いが、このゲーム、アルティメット・イレブンは3日間連続で徹夜するほどハマり込んだゲームだ。

 オンラインで無双しまくっているし、まず夢乃に勝算はない。

 そう思った束の間…………


 キックオフから30秒。いきなりゴールを決められる。


「え、ちょ、おい。なんでそんなうまいの?」

「ん?フツーにやってるだけだよ~?」


 2点目、3点目……次々と点を決められる。

 なぜだ。こっちは歴代のレジェンド選手が集まった最強チームだぞ。

 負けるはずがない……負けるはずが。


「陽くんそこオフサイドだよ~」

「くそぉ!」


 対戦が始まってから30分後。ホイッスルが鳴り勝負が決着した。

 最終スコアは0対13。これがもし現実に起こったら、観客はブチ切れて途中で帰っているだろう。


「ふっふっふっ、陽くんもまだまだだね」


 夢乃は勝ち誇った顔をしている。

 こっちは膝から崩れ落ちそうだった。


「……お前なんでうまいの?」

「私もゲーム好きなんだ。休みの日でも学校が終わった日でもずっとゲームしている。アルイレ面白いよね~私もこれ300時間ぐらいやってるよ~」

「やりすぎだろ!?」


 そういえば、夢乃はみんなから『眠り姫』って呼ばれているほど、学校で寝ているんだったな。

 まさか、こいつがいつも寝ている理由は……

 ゲームのしすぎかよ!


「ねぇ陽くん……」


 夢乃は俺の服の袖をちょこんとつまんで、上目づかいで見つめてきた。


「一緒に寝よ?」


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