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抱き心地1000%の俺、なぜか女子に「一緒に寝よ」と誘われる  作者: ハルちゃん


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第13話 私ってエロい?

 カリカリカリ

 ペンの走る音が静かな教室に響く。

 宿泊施設についた俺たちはさっそくテストを受けていた。

 どうやら生徒の学力を計るためのテストみたいのだが、生徒全員渋々受けていた。

「テストを始める」と聞かされたときは俺含め全生徒ブーイングをしていたが、担任先生の阿部ちゃんの「じゃ文句あるやつは帰っていいよ」と強烈な一言で全生徒を黙らせた。

 合同勉強会。

 勉強があるのはネックだが。それだけ我慢すれば、クラスメイトとのお泊まり会やらキャンプファイヤーや楽しいことが盛りだくさんなイベントだ。

 何もしないで帰ったりしたら死ぬまで後悔するだろう。

 というわけでテストを受けているのだが…………


「だるすぎる……」


 目の前のテスト用紙を睨みながら。不満を漏らしていた。


 化学基礎テスト第33問

 リトマス紙が赤から青に変化するのはどれか。

(ア)水道水

(イ)レモン水

(ウ)炭酸水

(エ)アンモニア水


 答えはエだな。

 …………エか?

 エだよな?

 13問連続答えがエなんだが……嫌な心理戦をしやがって。

 一応前の問題も振り返ってみるか。


「ん~」


 俺がエの呪縛に囚われていると、横に座っている夢乃が唸っていた。

 どうやらこいつもテストに苦しめられているようでペンが進んでいなかった。


 そういえば夢乃って頭いいのか?


 完璧美少女と謳われる氷室は学年上位。

 その氷室に仕えている鈴木も、もちろん成績優秀。


 でも、夢乃だけは未知数だ。

『眠り姫』って呼ばれるくらい授業中よく寝てるし、普段はゲームばっかやってる。

 ……正直、学力はあまり期待できない気がする。

 そんなことを考えながら夢乃の横顔を見ていたら、視線に気づいたのか、ぱちりと目が合った。


「ねぇ、陽くん」


 テスト中にも関わらず、夢乃が話しかけてくる。


「なんだ? ちなみに答えは教えねぇぞ。カンニングの協力者とか思われたら嫌だからな。それと20問から33問まで全部エで当たってるぞ。さっき見直したら問題なかったし」

「……答え教えてるよ?」


 俺がサムズアップを決めると、夢乃はじっと俺を見つめて、ぽつりと言った。

 冷静かつ真顔。

 どうやらテストの答えを聞きたくて話しかけたわけじゃないらしい。


「そんなことより、陽くん、大大ピンチだよ」

「そんなことよりって……今テスト中だぞ?どうしたんだよ、そんな焦って」

「あのね……私がやったギャルゲーには、こんなテストを受けるイベントなんてなかったの。ゲームだったらね、とっくに水着イベントが始まってるはずなのに……ねぇ、どうすればいいかな……?」


 俺は一瞬固まってしまった。


「……黙ってテスト受ければいいんじゃないのか?」

「そうじゃないよ~これじゃ陽くんを落とせないよ~陽くんを攻略するために、私、一生懸命ギャルゲーを研究したのに……」

「攻略って……」


 夢乃は可愛く口を尖らせ、悔しそうにしていた。

 攻略ってあれか……あぁ、氷室との勝負の話か。


「なぁ、なんでそこまで頑張るんだ?気持ちは嬉しいけど、俺を惚れさせたって得なんかないだろ?」

「ん~?もちろん陽くんのことが好きだからだよ」


 夢乃は少し頬を赤くしながら言った。

 真っ直ぐな瞳と真っ直ぐな言葉に、思わず息が詰まる。

 ……こいつ、なんで平気で好きとか言えるんだ。

 こっちまで顔が熱くなるじゃねぇか。

 耐えきれず、俺は思わず顔をそらした。


「陽くんと一緒に寝るとね、すっごく幸せな気持ちになるんだ。ぽかぽかしてて、日向ぼっこしてるみたいで……だから陽くんの彼女になって、ずっと陽くんの一緒に寝たいんだ」


 両手で頬を包み、夢乃はうっとりした表情を浮かべる。

 聞いたのは俺なのに……なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。

 耐えきれず、話題を変えた。


「ギャルゲーで勉強するのが間違いなんじゃないか?ギャルゲーって女の子と恋愛するゲームだろ? 俺、男だし」

「……!」

「そもそも水着イベントって……今5月だぞ? 寒くて死ぬわ」

「そんな……」


 そんな……そんな……そんな

 夢乃の声がエコーになって聞こえる気がした。


「じゃ、じゃあ……私がギャルゲーを研究した意味は……?」


 夢乃は完全にフリーズした。

 手に持っていたペンが、ぽとりと床に落ちる。

 ……いや、そこまでショック受ける?

 可哀想だから、とりあえずペン拾ってやるか。


「ねぇ、私って……エロいかな?」


 予想外すぎる質問に、思わず机に頭をぶつけた。


「にゃに!?」


 さらに反射的に妙な声まで出てしまい、叫び声が静かな教室に轟いた。

 周囲の生徒たちが一斉に振り向き、テストの監視役の阿部ちゃんは怖い笑顔を見せた。


「……朝倉君」


 阿部ちゃんの冷たい声が教室に通る。

 陽は慌てて背筋を伸ばし、咳払いをした。


「す、すみません……クモがいて……つい……。ほら俺、こう見えてクモ触れないんですよ……」


 阿部ちゃんは額に手を当て、深い溜息をつく。


「バレバレな嘘はいいから……お願いだからテスト中は静かにしてねー」

「はい……」


 僕が恐縮して席に戻る。

 俺の感想を聞きたい夢乃はまた小声で囁いた。


「ねえ陽くん、どうかな?私ってエロいかな?」


 ……こんな状況でその質問ってどういう神経してるんだよ!?

 今はテスト中。もちろん周囲は静かにしてる。

 こんなこんな会話誰かに聞かれたら、どうするんだよ?


「そ、そんなこと聞いてどうするんだよ……?」

「だってぇ。ギャルゲーで勉強してもダメだったから、次はプランBに切り替えようかなって」

「……プランB?」

「うん。よく分かんないけど、男の子ってエッチなことに弱いんだよね?だから陽くんに、エッチなことして攻略しようと思って。アニメだったら裸エプロンとかあるじゃん? ああいうの試してみようかな~って」


 その瞬間──ガタンッ!!

 後方から、椅子が派手に倒れる音がした。

 振り返ると、同じクラスの藤原さんが真っ赤な顔で口元を押さえていた。

 ヤバい聞こえてたみたいだ。


「藤原さん、あなたもですか?」

「す、すみません! ク、クマがいたので……!」

「クモの間違いじゃなくて?」

「クモでした!!」


 もちろん、藤原さんも阿部ちゃんに怒られた。

 ……ごめん、藤原さん。テストの邪魔して。


「でもね。私の体がエロいのか分からないんだよね」


 夢乃は、真顔でそんなとんでもないことを言い始めた。


「……は?」

「だって、自分の体って分かんないよ? 胸が大きいのかとか、足がきれいなのかとか……。だから陽くんに見てもらったほうが早いかな~って思って」


 ……いやいやいやいや。

 なんでそんな当たり前のテンションで爆弾投下してくるんだよ。


「見てもらったほうが、って……お前……」

「だってぇ、エッチな体じゃなきゃ、プランBできないし?」

「そ、そんなの……自分で考えろよ……!」


 声を抑えるので必死だ。

 ここでまた叫んだら退場だ。

 夢乃はペンを持ちながら、きょとんとした顔で俺を見つめる。


「え~、陽くんが一番適任だと思うんだけど?」

「……いや、なんでだよ」

「だって……陽くんにエッチなことをするんだし。陽くんの好みじゃなかったら意味ないじゃん」

「……!」


 俺の中の羞恥心が完全にキャパオーバーし、思わず夢乃を無視して、テストに集中しようとした。

 しかし夢乃は諦めなかった。俺の制服をちょん、と引っ張る。


「ねぇ陽くん。やっぱり私ってエロ……」

「分かった!!!分かったから勘弁してくれ!」


 その瞬間、俺は口パクの限界を超えて、思わず声が漏れた。


 バンッッ!!


 俺が机に手をついた音が予想以上に大きく響き、教室の空気が一瞬で止まる。


 ……やべ。


 ゆっくりと、ゆっっくりと、音のした方向に阿部ちゃんの視線が向く。


「……朝倉くん?」


 やばい。

 やばい。

 やばい。

 さっきより明らかにトーンの低い声で呼ばれた。

 目が笑ってない。いつもより三割増しで怒ってるのが分かる。


「いまのは……その……」

「今度はクモが出たの?それともクマが現れたの?」

「本当にすみません……」


 阿部ちゃんは額を押さえ、深いため息をつく。


「朝倉くん。テスト中に2回も騒ぐのはさすがにアウトだよ」

「す、すみません……」

「というわけで、今日、宿舎の大浴場の掃除。決定」


 ぎゃああああああああああああ!!!

 叫びたかったが、叫んだらもっと怒られるので心の中で叫んだ。


「それじゃ静かに、テストに集中してね」

「……はい」


 周囲からひそひそ声が聞こえる。

 うわぁ……風呂掃除……ご愁傷様……


 夢乃は「んぅ?」と不思議そうに首をかしげる。


「陽くん……どうしたの?」

「……お前のプランBのせいだよ」

「えっ!?じゃあ……私のせいで風呂掃除……?」

「そうだよ……」


 夢乃は唇をきゅっと結び、しばらく考え込んだあと、小さく手をあげた。


「阿部せんせ~……陽くんの罰、私も一緒に受けていいですか?」

「だめです」


 即答だった。

 夢乃はしゅん……と肩を落とす。


「ありがとな。気持ちだけ受けっておくよ」

「陽くん、ごめんね」


 夢乃がしょんぼりと謝る姿を見て、

 ……正直、怒る気にもなれなかった。

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