24. 魔道具屋の孫娘
「何故ここに?」
そう問うシエルテに、男は港で働く人間らしい荒れた手を振り「店番だよ」と軽く答えた。
「港の仕事と自警団がない時は、姉ちゃんに頼まれて店番してるんだ。どうせ客来ないけどって」
「姉?」
「姉ちゃんが魔術師なんだよ」
男が得意げな顔をする。
「しかも驚くなよ、魔女の弟子の孫なんだよ」
「……なるほど」
「あれ?」
本当に驚く気配のないシエルテに肩透かしを食らって、男は頬を掻いた。
「一見さんの魔術師なら、ビビってくれると思ったんだが」
「君と君の姉はあの子の孫か。あの子は?」
「あの子? 孫……もしかして、ばあちゃんのこと? なら死んだよ。あー、三年くらい前か……ばあちゃんの知り合いか」
「……どんな最後だった」
「老衰だよ」
「……そうか」
シエルテはため息をひとつ吐き、それから店内を見回した。
補充されずに商品が少なくなった台や商品棚には日が当たり、掃除もしていないのか埃が薄く積もっている。とてもしっかりと管理されているようには見えなかった。
「……」
「――あ〜面倒くさい。せっかく追加の呪術セット持ってってあげたのに。ちょっとエダン聞いてよ」
突然聞こえた女の声に、シエルテは声がした窓の方に視線を向ける。そこには、箒から降りて窓枠に立つ黒髪ショートの女がいた。
「この間、呪術セット売りつけた村の屋敷のメイド、もう要らないって言うのよ。だったら出張費くらいよこしなさいよって思わない?」
男――エダンが苦笑する。
「姉ちゃんお客いるから、あんまりさ」
エダンに言われて、女は切れ長の目をちらりとシエルテにやる。
「子供?」
「孫娘の方か」
「孫娘?」と眉をひそめる女に、エダンは「ばあちゃんの客らしい」と答えた。
「ふーん……何の用?」
子供だと侮っているのか、苛立ちを隠せないほど幼稚なのか――。
不機嫌さを隠すことなく顔に出しながら、女は箒を窓際に立て掛けた。
「あの子に聞きたい事があって来たんだが、ふむ。君はあの子の後継者か?」
「あの子って誰? おばあちゃんのこと?」
半眼で表情を変えることなく頷くシエルテに、女は気味の悪さを感じて口の端を引きつらせた。
「何この子……」
「孫娘。君が後継者なら、あの子が封印していた魔術の事も知っているだろう?」
「何のこと?」
「……」
シエルテがそうかと呟き、ため息を吐いた。
「店内の様子を見た段階でわかっていたが、知識もやる気も足りないな」
馬鹿にされたと頭にきたのか、女が眉をつり上げた。
「アンタねぇ。私はあの『黄金小麦のアイデーム』の弟子の血筋なのよ!」
「知っている」
「でしょ! ――え、知ってるの?」
段々と頭が冷えてきたらしい女が、シエルテに訝しげな視線を向けた。
「……そういえば、おばあちゃんに用があって来たって言ってたし……アナタ、何者?」
「私はシエルテ・ネペタ。魔女だ」
「ま――」
姉弟が同時に声を上げた。
驚き椅子を倒して弟は立ち上がり、姉はぽかんと口を開けて立ち尽くした。
――次の瞬間、姉は我に返ると同時に床に額をつける勢いで平伏した。
「トリアナ・クロムウェル。独身です!」
「そんな事は聞いてない」
「……姉ちゃん」
「こほん。改めまして、このクロムウェル魔道具店の店主をしている魔術師トリアナ・クロムウェルと申します」
「弟のエダン・クロムウェルです。……なぁ、ほんとに魔女――痛っ!」
並んで平伏していたエダンの頭をトリアナが叩いた。
「やめなさいよ! ――失礼しました。えっと、シ、シエ……」
「シエルテ・ネペタ」
「そうシエルテ・ネペタ様。ちなみに、そのぉ、どちらの魔女様の系譜で」
冷たい月の弟子だとシエルテが告げた途端、姉弟の顔からあからさまに血の気が引いていく。
「そ、それって俺がガキの頃に、悪い子のところには恐い魔女が来るぞって脅されたあの」
「その魔女だ」
「……」
姉弟二人で顔を見合わせ、「おいくらぐらいお渡しすれば」とトリアナが言った。
「そういうことをしにきたわけじゃない。さっきも訊いたが、あの子――祖母から何も聞いていないのか?」
「な、何も……?」
トリアナは小さく震えながら首を傾げる。
「ふむ……君達はこの街の歴史を知っているか?」
口ごもるトリアナに代わり、エダンが答えた。
「大昔は漁村で、のちに辺境伯領の領都になったんだったか。たしか、百年くらい前に他国に占領されて、奪還戦をやって取り戻した」
シエルテが頷く。
「その頃から、敵が残した魔術があるらしい」
「らしい、ですか?」
「店主である君の先代と先々代から聞いて知っているだけで、私は実物を見ていないから。――その魔術について、どこにあり、今どうなっているのかを君に聞きたかったんだが」
シエルテの見つめる半眼に、トリアナは力いっぱい首を振った。




