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17. 魔女の世界

 突き飛ばされたオリーは、次の瞬間、リィナに抱きとめられていることに気付いて、何度かまばたきをした。

「大丈夫ですか?」

「ええ……あれ?」

 オリーは辺りを見回す。

 日が差し込む窓のそばにはロッキングチェアが置かれ、灰掻き棒が備え付けられた暖炉のある室内だった。

 天井からは火の入っていないランプが下がっており、床はよく磨かれているからだろう飴色をしている。

 具合の悪さで目が回り、座り込みそうになったことまでは覚えていたが、見える景色が明らかに先程までとは違っていた。

「さっきまで組合に……」

「アーシェルさんの具合が悪すぎて、ここに運んだんですよ」

「ここ……?」

「はい。ここはシエルテ様のお屋敷です」

 言われた意味がわからず、オリーは窓に近づき外を見た。

 オリーの目に映ったのは屋敷を囲う木々と、その先で陽の光を反射させた海――ではなく湖。

 アイエラの街だとしたらあり得ない光景に、オリーは口を開けたまま外の景色を眺め続けた。

 はっとする。

「まさか、ここは『魔女の蔵』の中なのでは!」

 そうです、とリィナは事もなげに答えると、そのままこの部屋のドアへと向かった。

「具合良さそうですし、せっかくなのでお屋敷内と周り案内しますね」

 オリーは勢いよく何度も頷いた。

「先程の部屋は一応客間……というより元客間で、廊下をこちらに行くと玄関ロビー。あちらへ行くとダイニングとキッチンに繋がっています。あ、二階にはこちらから……」

 嬉々として屋敷内を案内するリィナにオリーも続く。

 古い貴族の屋敷を思わせる広さと内装。

 魔女シエルテの屋敷は、屋敷そのものがアンティークという景色だった。

「――おい。帰ってきてたのか小娘」

 声がしてオリーとリィナが同時にそちらを見た。

 廊下の途中、天井から下がったランプの下に黒い塊がいた。

「今さっきです。それよりヴァイスさん、ランプが壊れるからぶら下がるのやめてくださいと前にも言いましたよね?」

 それがランプに掴まりぶら下がったカラスだと気付き、オリーは口に手を当てた。

 オリーの見ている前でカラス――『ヴァイス』の口が開き、人の声で話し出した。

「どうしてオレが小娘の言うことを聞かぁねばならないんだ」

「アーシェルさん、せっかくなのでカラスの串焼き食べていきますか?」

「え、ええと……」

 困惑するオリーの前で、リィナが何かを掴むジェスチャーをしてみせた。

「まず頭を掴んで捻って殺し、体中の羽根という羽根を毟って洗い――」

「お、おい小娘」

「塩コショウをしてハーブをもみ込んだ後で、口から太い木串を突っ込んで――」

 ヴァイスがバサバサと羽ばたき飛ぶと、器用にリィナの肩に留まった。

「古い屋敷だかぁらな、労らねばな」

「わかればいいのです。――アーシェルさん、こちらシエルテ様の使い魔であるカラスのヴァイスさんです」

 戸惑いながらもはじめましてと挨拶するオリーに、ヴァイスは「カァ!」と鳴いてみせた。

「わっ」

「恐れ入ったかぁ。顔に変なものをつけた娘」

「ヴァイスさん失礼な! 変なものじゃなくてそれはメガネです。目が良く見えるようにするための道具です」

 リィナの話を聞き、ヴァイスは愉快そうに羽ばたき、カァカァとくちばしを開けた。

「娘に見えて老婆だったかぁ」

「あの、使い魔様。わたしのこれは単に本の読みすぎてして、年を召して目が見えなくなった方々とは違うのです。……まあ、お年寄りも目が見えなくなればメガネを使うのですが」

「ならばお前は若くして老婆のように――」

「――丸焼き」

「む」

「アーシェルさんに謝ってください」

「……悪かったな娘」

 形だけの謝罪を受け取り、オリーは改めて使い魔ヴァイスをまじまじと見つめた。

「使い魔自体珍しいですが、魔女の使い魔様とは……」

 使い魔とは魔女、魔術師などと契約をした、主には小動物をいう。

 契約内容も三食昼寝付き程度から様々だが、魔女や魔術師から与えられる“力”もまた様々だった。

「ネペタ様とはどんな契約を?」

「大した内容じゃない。そもそもオレが契約してやっているのよ。仕方なくな」

「――ふむ。なるほど仕方なくだったか」

 突然聞こえた声に、ヴァイスは硬直した。

 ヴァイスの後ろ、廊下に浮かんだ四角く黒い闇からシエルテが姿を現した。

「や、やあ、魔女。お早いお帰りだな」

 シエルテは焦った素振りをみせるヴァイスを半眼で一瞥(いちべつ)し、オリーを向いた。

「具合はもういいのか?」

「あ。はい。ご心配をおかけしました」

 オリーは廊下の壁に掛けられた古い絵画に目をやる。

「とても立派なお屋敷ですね」

「そうかな」

「はい。ここにはお二人で――いえ、使い魔様も含めてお三人で住まわれているのですか?」

 いいや、と声を上げたのはヴァイスだった。

「オレともうひとりは外で暮らしているぞ」

「な、なるほど」

 そういえば“外”も魔女の蔵だった、とオリーは思い至る。

「……ふむ。外の案内がまだならば、ついでだ。もうひとりも紹介しようか」

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