15. 汽車と煙
「――つまりはもう同じことは起きないのですね」
頷くシエルテに、エリースは安堵する。
「……結局、父は何をしようとして森で魔術研究など」
町まで戻ったシエルテ達は、ブレナンの本屋でエリースに報告を済ませた。――ただし、あの小屋で見つけた研究資料と、そこに書かれた動機を除いて。
「魔術師というのはそういうものだ。大体が過ぎた欲望のためか、出来るからやってみたいというバカしかいない。……君の父親がどうだったのかはともかく、娘の君がこれ以上気に病むことはないよ」
「……はい」
「……」
肩を落としているように見えるエリースの姿をわずかな間見つめた後、シエルテは着ているローブの内側から紙を取り出し、レジカウンターに置いた。
「ではこの依頼書に、達成確認の署名をお願いする」
紙は魔術師組合長から渡された依頼書であり、その右下にある署名欄をシエルテの細い指が差した。
エリース・ブレナンの署名を確認し、「確かに」とシエルテは依頼書を丸めてリィナに手渡した。
「それと、リィナ」
「はい。こちら患者治療の追加料金です」
依頼書を受け取ったリィナが、別紙をカウンターに出して金額と署名欄を示した。
「金額等ご納得いただけたならサインを。依頼料、追加料金共にお支払いは魔術師組合にお願いします」
金額を確認し、サインを書き終えたエリースは疲れを感じさせる笑顔でシエルテ達を向いた。
「改めて、ありがとうございました。あの……是非またいらしてください」
返事は二つだけ。
挨拶を済ませるとエリースに見送られ、三人は本屋を後にした。
「――それでは念願の生地屋さんへ行きましょう!」
商店通りに戻るなり、リィナは弾んだ声でそう言った。
「アーシェルさん案内をお願いします」
「もちろんです」
約束通り生地屋に案内されたリィナは、店内商品に目を輝かせた。
色分けされた棚に丸められた生地の数々。模様や刺しゅうも豊富にあり、磨かれたボタン、色とりどりの糸――。
それらを手にしたリィナは迷うことなく次々と購入していった。支払ったのはシエルテだった。
「ふう、満足です」
買った生地を小脇に抱えたリィナは、満面の笑みでトランクを開け、生地をトランク内の闇に入れた。
「……ずっと訊いてみたいと思っていたんですけど」
「何をです?」
荷物持ちをしてもらっていたオリーから生地を受け取り、それもリィナはトランクへと放り込む。
「そのトランクは、あの『魔女の蔵』じゃないですか?」
リィナがシエルテの顔を見る。
シエルテが答えた。
「そう、魔女の蔵だ」
やっぱりと感激するオリーの前で、リィナはトランクの金具を閉めた。
「……そろそろアイエラの街に向かおうか。魔術師組合に依頼の達成報告をしておきたい」
シエルテの言葉にリィナが頷いた。
「箒で行きますか?」
「いや、せっかくだから汽車にする」
「あの! 汽車で行かれるならわたしも一緒に。いいですか?」
手を挙げて訊ねるオリーに、シエルテはかまわないと答えた。
「このまま駅へ行こう」
喜ぶオリーと共に、シエルテ達はそのままシズルの駅へと向かい、黒煙を吐きながら到着した汽車に乗り込んだ。
「――そうでした。ネペタ様にこれをお返ししようと」
汽車の箱座席でシエルテの向かいに座ったオリーは、リュックから小屋で見つけた研究日誌を取り出し、シエルテに差し出した。
シエルテが意外、という顔をする。
「てっきり欲しがるかと」
「わたしの専攻、魔術史なので」
そうか、と呟くとシエルテは受け取った研究日誌を窓の外に出した。
「【燃えろ】」
風にバタバタと音を立てる研究日誌に火がついた。
「……くだらない」
燃え上がった研究日誌はシエルテの手にやけどを負わせることなく燃え尽き、汽車の黒煙に紛れて風に流れていった。




