この二次元住める世界じゃなかった
『この二次元、住める世界じゃなかった』
俺の名前は山田太郎。
世にも珍しい、顔も人生もドブ川に落としたような、正真正銘の**”無能”**だ。
ニートで、風呂もめったに入らない。
俺の人生のすべては、パソコンのモニターの中にあった。そこには、俺が愛してやまない、最高にクールで美しくて、誰よりも強いエルフの美少女、リリスが笑い、戦っている理想の世界があった。
そして、ある日、本当にその世界へと転生する。
やった、ついに俺の人生が始まるんだ! リリスに会える!
だが、そこからが絶望の始まりだった。
この世界は、どうやら”ゲーム”ではなく”現実”らしい。
最初に連れてこられたのは、冒険者養成学校だった。
「さあ皆さん! 冒険者になるためには、仲間との連携が不可欠です! パーティを組んで、ダンジョンに挑みましょうね!」
俺を案内してくれたのは、ゲームのキャラクターみたいに可愛らしい先生だった。
だが、現実は違った。
俺の周りだけ、誰もいない。
勇者志望のイケメンも、魔法使いの美少女も、みんな楽しそうに仲間を見つけていく。
俺は声をかける勇気もなく、ただ一人、教室の隅で震えていた。
「ねぇ、あなたも早くパーティを組まないと、このままだと落第よ?」
心配そうに声をかけてくれる先生の視線が、逆に俺の心を抉る。
ああ、そうだった。俺は、人と接することができない。現実世界でも、学校ではずっとぼっちだった。
それでも、強くなるしかない。リリスに会うために。
俺は魔法の修行に挑んだ。初級魔法の呪文はたった一言、「ファイア」。だが、俺の口から出たのは、微かに熱い息だけだった。
「馬鹿にするな! そんな吐息で火がつくか!」
魔法の先生は俺を罵倒した。俺は、魔法の才能すら無かった。
次に剣術に挑んだ。剣を握ると、手が滑って地面に落とした。剣の重さに耐えられず、腕が震える。
「スポーツもできないのか、この役立たず!」
道場の師範は俺に唾を吐きかけた。俺は、戦う才能すら無かった。
現実世界で俺の匂いを嗅いだペットに逃げられたのと同じように、魔物にも「うわ、くさっ!」とでも言われているのか、全く懐いてくれない。俺は魔物使いにもなれなかった。
そして、ようやく憧れのリリスに出会えた。
「触らないで、キモい」
俺の汚い顔と体を見たリリスは、冷たい言葉と視線で、俺の心を突き刺した。
それでも、俺は諦められなかった。
リリスは、俺の人生そのものだったんだ。せめて、せめてキスだけでも。
俺は最後の力を振り絞り、リリスに襲いかかった。
だが、俺の腕がリリスに届くことはなかった。
「その汚い手で、リリスに触るな」
俺の目の前に現れたのは、あのゲームの主人公、俺の分身であるはずの最強の勇者だった。
「お前は、この世界の汚点だ。消えろ」
勇者は容赦なく、俺を地面に叩きつけた。腐りかけのゴミと、汚い水たまりの中に。
俺には、どこにも居場所がなかった。現実でも、二次元でも。
生きる意味を失った俺は、誰にも知られず、ひっそりと二次元の世界で命を絶った。
目を開けると、そこは光も色もない、無機質な世界。
ああ、そうだった。
俺は、現実世界でも、とっくに死んでいたんだ。
これは、俺の人生の続きじゃなかった。
ただ一つの点として、永遠に存在し続ける俺の、最後の悪夢だった。