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第5話 伐採、設計、そして小さな職人との出会い

嵐の夜が明けて、迎えた静謐な朝。

雨露に濡れた木々の葉が、朝日を浴びてキラキラと輝き、森全体が息を吹き返したようだ。

昨夜、雨風をしのいだタープの下で、俺とコロポムは身を寄せ合い、そして、温かい光を湛えるキラミンは、まるで小さな守護精霊のように、静かに宙を舞っていた。

あの嵐が過ぎ去った今、俺の心には、確固たる決意が宿っている。


「絶対に、雨風に負けない、温かい家を建てるんだ」


それは、単なる気まぐれな願望ではない。

共に過ごすコロポムとキラミンを守り、この異世界で生きていくための、必要不可欠な「砦」なのだ。

そして、いつか、もっと多くの仲間たちと、笑って暮らせるような、そんな場所を作りたい。


俺は、昨夜から頭の中で描いていた、ログハウスのイメージを、改めてノートに書き出した。

間取り、必要な木材の量、屋根の形、窓の位置……。

YouTubeで見た様々なログハウスの動画を参考に、俺なりの理想の家を、少しずつ具現化していく。

まるで、子供の頃に夢見た秘密基地の設計図を描いているようで、胸が高鳴った。


「まずは、木材の確保だな……」


設計図を眺めながら、俺は、この計画の最大の難関に、改めて直面する。

この森にそびえ立つ、巨大な木々。

直径50cmを超えるような木を、果たして俺は、たった一本の斧とノコギリで、何本切り倒せるのだろうか?

週末の限られた時間の中で、家一軒分の木材を揃えるには、一体どれほどの歳月が必要になるのか、想像もつかない。


試しに、昨日嵐で倒れた、手頃な太さの木の枝を、斧で割ってみようとした。

エイッ!と気合を入れて斧を振り下ろす。

鈍い音と共に、刃が木に食い込むが、なかなか深くまではいかない。

何度も何度も、汗だくになって斧を振り続けたが、結局、小さな薪を数本作るのが精一杯だった。


「ぜぇ……はぁ……こりゃ、骨が折れるどころじゃないな……」


情けないほど、体力がない。

都会で長年、運動不足の生活を送ってきた代償が、今、重くのしかかっている。

このままでは、ログハウスどころか、まともな小屋を建てることさえ、難しいかもしれない。


「何か、もっと効率的な方法はないのか……?」


俺は、地面に座り込み、腕を組んで頭を悩ませた。

チェーンソーがあれば……いや、この世界には電気もガソリンもない。

電動工具も、エンジン式の機械も、今の俺には無縁の存在だ。

人力だけで、この森を開拓し、家を建てる。

それは、途方もなく困難な道のりのように思えた。


「ポム……?」


俺の落ち込んだ様子を察したのか、コロポムが心配そうに、俺の足元にすり寄ってきた。

その小さな体に、そっと手を伸ばし、優しく撫でる。

コロポムの温かさが、少しだけ、俺の心を癒してくれた。


ふと、キラミンが、俺たちの頭上で、いつもより強く、そして速く、光を明滅させていることに気づいた。

そして、ある特定の方角を、まるで示しているかのように、 केंद्रितして光を放っている。

コロポムも、その光の示す方向をじっと見つめ、少し警戒したように、小さく唸り声を上げている。


「どうしたんだ、2人とも? あっちに、何かいるのか?」


彼らの様子から察するに、その先に、何か尋常ではない存在がいるのかもしれない。

不安よりも、好奇心が勝った。

もしかしたら、この状況を打破する、何かヒントがあるかもしれない。


俺は、念のために斧をしっかりと握りしめ、コロポムとキラミンを先導に、彼らが示す森の奥へと、慎重に足を踏み入れた。

深い森の中は、昼間でも薄暗く、足元には落ち葉が積もり、時折、得体の知れない動物の鳴き声が聞こえてくる。

キラミンの優しい光が、心細い道を照らしてくれるのが、せめてもの救いだ。


しばらく進むと、周囲の木々の様子が、明らかに変わってきた。

鬱蒼と生い茂った木々の中に、不自然な空間が広がっている。

まるで、巨大な何かが通り抜けたかのように、木々が薙ぎ倒され、太い幹が途中で折れている。

嵐の爪痕にしては、範囲が広すぎる。

そして、その中心に近づくにつれて、微かに、規則的な音が聞こえてきた。


コン、コン……コン……


一体、何の音だろうか?

息を潜め、音のする方へと、さらに近づいていく。

そして、開けた場所に出た瞬間、俺は、信じられない光景を目の当たりにした。


「モキュッ……モキュッ……」


体長30cmほどの、木彫りの人形のような生物が、倒れてしまった巨大な木の枝のそばで、小さな両手を懸命に動かしている。

頭には、どんぐりの帽子をちょこんと乗せ、背中には、小さな木の葉でできたリュックサックを背負っている。

その姿は、まるで絵本から飛び出してきた、小さな森の職人のようだ。


よく見ると、その小さな職人は、木の枝に小さな木片を当て、何かを一生懸命に打ち付けているようだ。

だが、その力では、とても太い枝を動かすことなどできないだろう。

何度も何度も、小さなハンマーのようなものを振り下ろすその姿は、懸命でありながらも、どこか滑稽で、そして、とても愛らしかった。


俺が、その不思議な光景に目を奪われていると、小さな職人は、ふと、こちらに気づいた。

つぶらな琥珀色の瞳が、俺と、そして俺が手に持っている、真新しい『コーホク』の斧を、じっと見つめている。

その瞳には、警戒の色はほとんどなく、むしろ、強い興味と、ほんの少しの憧憬のような感情が宿っているように見えた。


その瞬間、俺の頭の中で、様々な考えが駆け巡った。

この小さな職人は、一体何者なのか?

言葉は通じるのだろうか?

そして何より――あの、俺が途方に暮れている、木材の伐採と加工という、巨大な問題を解決してくれる、頼もしい「助っ人」になるのだろうか?


俺は、ゆっくりと一歩、前に踏み出した。

この森で出会った、最初の異世界住人との、記念すべき邂逅。

それは、俺のログハウス計画にとって、そして、この異世界での俺の生活にとって、かけがえのない、大きな転換点となる予感がした。

俺は、言葉にならない期待と、ほんの少しの緊張を胸に、その小さな職人に向かって、そっと、手を差し出した。


「やあ……」

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