ドッペルゲンガー
「はあ、はあ、はあ」
空は真っ黒な雲に覆われている。降り続く雨は激しく一粒一粒の雨粒なんて見えやしない
そんな中、一人の男が包丁を持って駆けていた。
中学生だろうか 酷く焦った様子で懸命に逃げていた。
それもそうだろう 両手で握りしめている血に濡れた包丁で彼は自分を殺したのだから
この男がどうなっているのかを知るには、この日の朝から語るべきだろう。
「はあっ、はあッ、ああああああッッッっっっっっ」
〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「君に決めたァ!!!!」
「ポケ○ンかよ!!!!」
朝、変わらない日常 三枝中学校3年生の俺こと三山武は五月の麗らかな日々を謳歌していた。
日常最高平常運転こそ至高 もうずっと五月が続いてくれ、絶対に受験なんてしたくない。
そんな気持ちを抱えながら今日もまた学校に通っていた時、すれ違ったその黒い外套の男が指をさしながら大声で叫んできた。そう、声が大きすぎて叫ぶの方が正しい表記になるのであろう。
それにしても良い返しをしたものだ 全世界は俺を讃えるべきだろう。絶対有り得ないが
男はそのまま学校と反対方向に去っていった
なんだったのだろうか、まあいいか。
「あー それにしても学校行きたくないなぁ」
それでも一日行かずに授業がわからなくなって高校も行けなくなるのトリプルコンボだけは避けなければならない
「やっぱ行かなきゃいけないか」
三山は男と逆の方向、つまり中学校に歩いて行った。この時、三山は一度でいいから振り返ってみるべきだった。反対方向には、男を追って中学生ーーつまり『三山武』が歩いて行った。両方とも、そのことには気づかなかった
〜〜〜〜〜 F 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午前中の授業は数理国英。この4つの授業で帰ることにした。だって6時間目の音楽も、7時間目の美術も試験本番では使わない。腹が痛いことにして途中で帰ることににした。そういえば親友の二人が俺を疑わしげに見ていたが俺は何かしただろうか
給食を食べずに、曇天の空の下で唯一バックを背負って歩く
空の暗さに影響されて俺の心も暗くなる。この症状は早く帰ってゲームでもしないと直らないだろう。
「ただいまー」
家に着く、普通の2階だての一軒家である。扉には鍵がかかっていなかった、まずいなぁ鍵をかけ忘れたか
靴をいつも片付けている棚に入れーーーーーーー
「ん? なんだこりゃ」
俺の靴がすでに一足棚の中に入っていた。なんだ?いや、学校指定の靴だから親友である優政か夢彦でも来ているのか?でも学校にいたしなぁ・・・・・まあいいか。
「入るぞぉー」
気だるげな声で2階にある自分の部屋に入る。そこには "俺がいた"
〜〜〜〜〜 T 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
「おい、あんた‼︎ちょっと待てよ!!!!」
走ってみるが、追いつけない。 男が脇道に入ったときに見失ってしまった
「はあ、はあ、はあ、疲れた・・・」
学校行きたくないなぁー 疲れたし・・・よし!ズル休みしよう。家に戻り鍵を開けて中に入る。両親が警察だと知れ渡っているこの家に入る泥棒などいるわけない。むしろ入ったら逮捕者が増えて両親が喜ぶだろうな
"悪はずっと悪だ"が心情だしな。あゝ無情みたいにいつか川に飛び込むんじゃないだろうか?
自分の部屋に入り、スマホを起動
親友の優政に電話をかける3コールでつながる
「優政、先生に俺は体調が悪いから休むと言ってくれ」
『おい、何言ってんだ!?ふざけてんのか?』
怒っている、というより戸惑っている声色。なんだ?今日俺がいなかったらいけない行事でもあったか?いやないな。音からして廊下のようだが。
「確かにズル休みだけどさ お前も・・・」
『いや、そうじゃあない・・・お前、今教室に行って行ったぞ』
「は?」
『いやマジな、・・・おい夢彦、ちょっと教室に三山いるか見てくれないか・・・・ああ、ありがとう・・・・おい、やっぱお前教室にいるぞ。』
「おいおい・・・ドッペルゲンガーか?」
『ないない・・・と言いたいが今ここにいるから信じるしかないな。あともし本物なら・・・・・・・・
本物殺しはお前を殺しにくるだろうな
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜
「はあああああああああっッッッっっ」
“俺”は俺に向かってナイフ・・・いや、包丁を持って振ってきた
そうか、これはドッペルゲンガーだ。ドイツの民間伝承のとおりなら俺を尾殺しにくるはずだ。
「偽物が!!死ね!」
さらに偽物が包丁を振るってくる。
「ひい、うああああああああああああああッッッっっっっっっ!!」
無我夢中で手を動かした。いつの間にか、『三山武』の包丁を奪っていた。
いつの間にか、包丁は三山武の心の臓をえぐった。いつの間にか、『三山武』は死んでいた。
「え・・・あ・・・・・兄さん・・・・?」
マズイ、なんでここに妹が・・・・っっ
「い、いやさ、これは僕の偽物で・・・」
何を言っているんだ僕はッッッっっ!!ど、どうにか誤魔化さないと・・・けどアイツ何を見てるんだ?妹の視点はナイフより下だった。妹が見ているのは俺の千切れた小指だった。何故気づかなかった?それは簡単だ。血が流れていなかった。痛みもなかった。何故だ?そんなことは分かっていた。
俺が、俺こそが本人殺しなんだ
ーーーーそして、俺はそれに耐えきれるような“心”を持っていなかった。
気づいたら外に出ていた・・・空は雨模様をとっくに過ぎており ザーザーと、ザーザーと涙を落とし続けていた。雨は包丁にこびりついた血を少しずつ落としていった。
どれだけ走っても自分が自分を急かす。“あのパトカーはお前を捕まえたいんじゃないか“と。
そして走って走って走った先にその男はいた。
ーーーー初めまして、ドッペルゲンガー 俺と同じ者よ。
黒い外套を着、朝に話しかけてきた者が。
【終わり】