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荒神~ARAGAMI~   作者: 弱キック
7/7

7話

ざっくり説明すると変身ヒーローものです。

デビルマンに割と影響受けてるけど、あんな壮大な世界や重厚なテーマではないです。

シリアス風味だけど軽い読み物なんで、もし目に留まったら読んでいただけると嬉しいです。

【九月五日 午前九時三十五分 鬼頭組本部 雅人の自室】

 何の前触れもなく起きた組長の自殺というトラブルは、関連組織である諫早組の組長が前日に死亡したこともあり、三流ゴシップ誌が嬉々として陰謀説などをでっち上げた。しかし予想したほどの騒ぎにはならず、大衆は既に本件とは全く関係ない話題で盛り上がっていた。危惧していた組内部の混乱も、磐田と雅人の尽力により大事には至らなかった。

 あの日、墓地の片付けを終えた雅人は、磐田経由で鬼頭組幹部に招集をかけた。そして西原の死と、自分が組を継ぐという意思を皆に伝えた。すると幹部たちは一様に驚き、雅人の決意を一笑に付した。源二が倒れた直後ならともかく、いまさら何の実績もない子供に用はないというのだ。だが磐田の強い推薦と、何よりかつての弱々しさが消えた雅人の相貌にただならぬものを感じ、一人、また一人と膝をついていった。いまや組の誰もが雅人を新組長と認めている。本日これから執り行う就任式も、万事問題なく進行するだろう。

 「むぅ、馬子にも衣裳って言葉は嘘だね。服が立派すぎて、若サマの薄っぺらさが逆に目立っちゃってるよ」

 姿見の前に立つ雅人を見て、夏華が残念そうに呟いた。

 「……言われなくてもわかってる」

 一世一代の大事な式典であるため、高級ブランドのスーツ一式が急ぎ用意された。しかし雅人がこれを着こなすには、社会人経験が圧倒的に足りていなかった。組織の長としての貫禄が皆無で、せいぜい紋付き袴を着るよりはマシといった程度の見栄えである。

 「まるで七五三だね。千歳飴買ってこよっか?」

 「うるさい」

 余談だが、新組長就任に伴い、住居もアパートから再び組の本部へと移した。雅人の一人暮らしは結局半年も続かなかったことになる。幸い磐田が管理するアパートなので家賃や契約周りの面倒はなかったが、なぜか夏華まで一緒に引っ越してきた。理由は前回と同じく通学時間の問題らしい。アパート住まいの頃より五分ほど長くなるが、通学時間の問題らしい。

 「でもさ、ホントに良かったの? 若サマが無理して組長にならなくても、パパがどうにかしたんじゃない?」

 「うん、その方が組も上手く回るとは思う。だけど……」

 雅人はネクタイを直しながら、いまの気持ちに最適な言葉を探した。

 「だけど?」

 夏華がオウム返しで発言を促す。

 「西原への罪滅ぼし、なんて言うと格好つけすぎかな。でも僕が跡を継いでいたら今回みたいな展開にはならなかった。そう思うと、なんだか気が晴れないんだ」

 今回の一件において雅人は被害者であり、倒した相手に責任や罪悪感を感じる必要はない。しかし兄同然だった西原の最期を思い返すと、どうしても後悔を伴う割り切れなさを感じてしまうのだった。

 「それに親父の血の行方が気になる。もしまだ残ってるなら根こそぎ片付けないと」

 源二の血はどこかの製薬会社に渡った可能性が高い。であれば一介の高校生に回収は不可能だ。この問題に関しては、反社とはいえ鬼頭組の組織力と権力が役に立つだろう。

 「あとは自分のルーツに興味を持ったってのもある。荒神が鬼だけ、ましてや僕だけとは思えない。ほかにもいるなら会ってみたいし、種族としての歴史とか、色々なことを知りたい」

 鬼頭組の基礎は室町時代から続く組織である。ほかにも似たような組織や古い歴史を知る人物などがいれば、向こうから組を尋ねてくるかもしれない。少なくともただの学生でいるよりかはずっと目立ち、荒神の情報も得やすいはずだ。

 「ふ~ん、思ったよりちゃんとした理由があるんだ」

 「最後のはついでみたいなものだけどね」

 「まぁアタシ的には、ご飯作ってくれるなら組長でも何でもお好きにーって感じかな」

 「まだ作らせる気か」

 本部には家政婦も若手の組員もいるのに、なぜか食事の大半はいまも雅人が作ることになっていた。料理自体は趣味なので不満はない。だがそれがお前の役目だと言わんばかりに催促されると若干苛つく。

 「だって若サマのご飯がイチバンおいしいんだもん」

 唯一の特技を褒められて悪い気はしない雅人だったが、アパートでの暮らしを思い出して身構えた。

 「その一言に乗せられて、お前の世話をやらされたからな。もう騙されないぞ」

 「いやいや、ガチの感想よ? 別にチョロいとか思ってないかんね」

 とりとめのない会話が続く。鬼となって死線を潜り抜け、組のトップになる覚悟も決めたが、雅人自身は冴えない高校生のまま。普段の態度や性格が変わるわけではなさそうだ。

 「組長、そろそろお時間です」

 廊下越しに若手組員の声が。どうやら就任式の準備が整ったらしい。

 「よし、行くか」

 「がんばってね、新組ちょー」

 雅人は雑談で緩んだ顔を引き締め、部屋のドアを開けた。



 『桃太郎は鬼を倒して幸せになりました』

 『一寸法師も鬼を倒して幸せになりました』

 僕のおとぎ話に夢はなかった。一攫千金を狙う英雄は登場せず、倒されて悪夢になることもなかった。

 現実なんてこんなものだ。時代は二十一世紀。世界中に情報が溢れ、神秘の謎はモニター越しに丸裸にされる。

 だけど世間がどれだけ否定しても、神や化け物は実在する。先入観を捨てて周りを見渡せば、意外とすぐそばにいるのかもしれない。ただの高校生だった僕がそうであるように。

 僕は鬼頭雅人。情報だらけの社会に隠れ住む、現代の鬼。

これで誕生編は終了。

はい、荒神とか言いながら今回は鬼しか出ませんでした。

次の話からは天狗とか九尾の狐とか出てくるんですがね。

そのうち公開します。

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