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8話 脳筋ってどう思う?

私がわけてあげたチョコチップクッキーを飲み込んだ後、紅茶で一度喉を潤すと、ヒューゴは「じゃあ、帰るよ」と言い出した。

ちょっと待って!

せっかく貴重なクッキーを一枚あげたんだから、もうちょっとだけでも一緒に過ごしたい。

元はヒューゴのお土産なのに恩着せがましいのは百も承知だ。


「待って!ヒュー、一つ訊きたいことがあるの」


「ん?何を?」


キョトン顔のヒューゴはちょっと可愛い。

幼馴染みだからか、ヒューゴはゲームより様々な表情を見せてくれる。


さて、引き留めるためだけについ出た言葉だけど、何を訊いてみようか。

せっかくだから気になっていたアレでもぶつけてみちゃう?

ズバリ!「『脳筋』をどう思いますか?」


でも答えが怖いし、とりあえずうちの家族とか『脳筋』についての意見を軽ーく訊いてみよう。

あくまでもさらっと、世間話のノリで。


「あのね、うちの家族ってどう思う?あ、私も含めて、ガルシアの印象について」


「ガルシア家の印象?随分抽象的な質問だな。ルーは何が知りたいの?」


う……やっぱり唐突過ぎたよね。

でも言い出しちゃったし、ここはもう少し突っ込んで……。


「えーとほら、うちって脳筋でしょ?ヒューは脳筋嫌い?」


って、ちがーーう!やっちまったーーー!!

何がさらっとだ、「脳筋嫌い?」とかもろに核心ついちゃってるじゃん!!

私、ポンコツ化してきてない?

ルイーザの脳筋が伝染したか!?


こ、怖くて返事が聞けない。

「そうだな、嫌いだな」とか言われたら、地味に落ち込む自信があるわ。

あ、でも前向きにこれから『脱・脳筋』を目指せばきっと汚名返上……


「ルー」


「はぃぃいい!!」


動揺で変な声が出ちゃったが、ヒューゴは不思議そうな顔をしていた。


「ノーキンって何?どういう意味?」


あれ?ご存じない??

こっちでは使わない言葉だっけ?


「えっと、『脳みそまで筋肉』の略語で、考えるより先に体が動いてしまうタイプの人を指すんだけど、簡単に言っちゃえば『思考が単純でおバカ』……」


何が悲しくて、こんな説明してるんだろ。

一体ヒューゴはどんな顔をしてるやら……と目をやれば。

なんだかヒューゴの様子がおかしい。

あれ?肩が震えてない?と思った直後。


「ふ、ふふっ、あはは、アハハハハハ!!」


ヒューゴが壊れた。


「ルーは面白い言葉を知っているな。『脳筋』……プッ……すごい言葉だな。いや、言い得て妙というか、ププッ、何を訊きたいのかと思ったら……ハハハハ!アハハハハハ!!」


お腹を抱えて二つ折りになって笑っている。

どうやらツボにはまったらしい。

もしやヒューゴって、クールを装ってるけど案外笑い上戸?


「ヒュー?大丈夫?」


サリーを呼んでお茶のお代わりをもらった。

大事な話の間は出ていてもらっていたのだが、涙を流して笑うヒューゴをサリーが二度見するのをバッチリ見てしまった。


うん、気持ちはわかるよ。

三度見くらいしちゃうよね。


ゲホゲホ咳をして、どうやら落ち着いたらしい。

サリーが淹れたお代わりの紅茶を飲んで……またハハッと笑った。

まだ笑い終わってないんかい!!


「もう!そんなにおかしい?結構真面目に訊いたのに……」


痺れを切らして話しかけたら、少し焦ったような返事があった。


「違うんだ。決してガルシアが脳筋だと思って笑った訳ではない。あくまで言葉が興味深くて……いや、テオドールは確かに脳筋だと思う」


ですよねー。

そこは私も否定しようがない。

ヤツは正真正銘の脳筋だ。


「ルーはガルシアが脳筋だから、俺が内心では嫌ってるんじゃないかと思ったのか?」


ヒューゴの優しい瞳に背を押され、私は素直にコクンと頷いた。


「ヒューの家はみんな頭がいいでしょ?裏の顔まで知的で。それに比べてうちは猪突猛進だし、コックス家のおかげで勝ってるのに手柄はもらっちゃうし。嫌われてても当然だなって……」


つい俯いてしまったら、また頬っぺをムニッとされた。

初めて気付いたけど、ヒューゴの手はペンだこだけでなく、剣だこもある。

やっぱり日々鍛えているのだと思った。


「ルー、俺はむしろガルシアの人間が好きだ。俺だけじゃない、代々コックスの者はガルシアだけには好意的だった」


そうなの?

顔を上げてみれば、困ったように微笑むヒューゴの顔があった。


「コックスは昔から力を持っているから、権力にすり寄る者、蹴落とそうとする者が後を絶たない」


そりゃそうだよね。

力を持つ家のさだめってやつだよね。


「対等に下心なく接してくれる家など、代々ガルシアくらいのものだ」


まあうちは権力とか興味ない家だからね。


「ガルシアはやろうと思えばアカネイルを手中に収められるだけの力を持ちながらその欲もなく、情報を伝えれば疑うことなく信じてくれる」


いや、そもそも乗っ取りとか考えつきもしないだけだし、疑うほど賢くないだけじゃ……。


「コックスにとってガルシアはかけがえのない家で、唯一無二の信頼出来る相手だと思っている」


まじかー。

嫌われてるどころか、めっちゃ好かれてるじゃん!!

明らかに過大評価されてるし……。

確かに心根はいいけどね?


結局、人間にとって心を許せる相手というものは非常に貴重で、何にも代え難いものなのかもしれない。


ヒューゴは思いがけず「脳筋嫌い」では無かったが、「知的なルイーザ大作戦」は続行しようと心に誓った。


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