表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/20

6話 推しが我が家へやってきた

はーーっ、昨日は精神的に疲れたわー。


死んだように眠ったお陰で気力も体力もバッチリ回復したけれど、起きたらもうお昼を過ぎていた。

どんだけ消耗してたんだ、私!!


でもマリアベルのお相手があの義兄、カイルだとはね……。

あいつは攻略対象者の中でも圧倒的にチョロかったからな。

狙ってもないのに勝手に好感度は上がるし、望んでもないのにカイルルートに入っていたこと数回。


『イケ夢』はヒロインの誕生日に誰がプレゼントを持って会いに来たかで、どの個別ルートに入ったかがわかる仕組みになっていた。

何度狙ってもいないカイルが現れて、「お呼びじゃねーよ!!」と叫んだことか……。

つい優しい口調の選択肢を選んでしまう自分が悪いのだが、いくらゲームとはいえ無視や冷たいセリフは、波風立たないように生きていた私には罪悪感が強過ぎて……。

ノーと言えない日本人代表だったのである。

つまり、カイルさえ毅然とスルー出来れば、このゲームはすこぶる簡単だった。

逆に言えば、心優しい選択肢を選んだ時点で、カイルエンディングへまっしぐらなのだが。


まさか、マリアベルもカイルから逃げられなくなっただけだったりして。

……怖っ!!


しかもカイルの誕生日プレゼントって、チョーカーだったんだよね。

……さらに怖っ!!


まあ、うちの兄ルートだったとしても脳筋に染まるだけだし、人生何が幸せかなんてわからないよね、うん。

それに思ったんだけど、昨夜マリアベルがヒューゴルートだったらどうなってたんだろ?

ヒューゴは立て続けに私とヒロイン相手に、二回も頭を撫でるシーンをやってたかもしれないってこと?

そんなの再放送じゃん!ヒューゴ、スケコマシじゃん!!


良かった、ヒューゴ様がスケコマシてなくて。

やっぱり推しにはモラルのあるヒーローでいてほしい。


なーんてことを、朝食をーーいや昼食をモグモグしながら考えていた。

母はとっくに食べ終わったらしく、いま私は食堂に一人で座っている。

派手に寝坊したのだから自業自得なのだが。


うん、今日のトマトスープも美味しい。

うちのコック達はなぜか揃いも揃ってマッチョだけど、腕はいいんだよね。

「パワー!!」とか言いながらザバッと調味料を入れるくせに、絶妙で繊細な味付けになっている。

謎だ。


昼食をとり終わった直後、メイドのサリーがパタパタと駆け寄ってきた。


「お嬢!お嬢!大変です!!」


なんだなんだ、カチコミか!?

ガルシア相手に命知らずな!


「コックス家のヒューゴ様がいらしてます!!」


「え?ヒューゴ様?なんでお兄ちゃんがいない時に……。ヒューゴ様もお兄ちゃんが留守なことを知ってるんだけどな」


思わず「ヒュー」と呼ぶのも忘れるほど驚いていた。

ヒューゴが我が家を訪れることはあるが、公爵家全員で遊びに来るか、テオドールに会いにくることばかりだったからである。


「お母さんが応対してるの?」


「いえ、奥様は茶会へお出かけになりました。今は執事長がとりあえず応接室へご案内しています」


そうだった、今日はお母さんが茶会で婦人方に『アカネイルは大丈夫ですよアピール』をしてるんだった。

じゃあ私がヒューゴのお相手をしなくちゃいけないってこと?


あ!早く行かないと、執事長のトーマスが余計な脳筋発言をぶちかましそうな気がする……。

正直、これ以上ヒューゴに幻滅されたくはない。


そうだ、これってもしかして「ルーって、少しは会話が成立する相手なんだな。これからはもっと話しかけよう」とか思ってもらえるチャンスじゃないの?

私、頑張って知的な会話を目指します!!


ってなわけで、やって来ました応接室。

ヒューゴはソファーで優雅に紅茶を飲んでいらっしゃる。

眼福眼福。


「ああ、ルー。突然訪問してすまない。ルーに話したいことがあってね」


カップを丁寧に置いたヒューゴが、目を細めて私を見た。


え、私目当てにわざわざ来てくれたの?推しが私に会いに!?

いやーん、感動ーー!!


『知的なルイーザ大作戦』は、ヒューゴの先制攻撃によって遂行する前に呆気なく失敗した……と思われたが。


「う、ううん、大丈夫。お兄ちゃんが留守なのに珍しいなとは思ったけど。私に話ってなに?」


なんとか踏みとどまった。

脳筋キャラだけはなんとしてでも払拭しておきたい。


「少し話しておくべきことがあるんだ。あ、その前にこれお土産。ルー、好きだろ?」


差し出された紙袋には、見慣れたお店のマーク。

こ、これは……カステラおばさんのクッキー!!


もはやカステラなのかクッキーなのかわかりづらいが、アカネイルで一番人気のクッキー屋さんである。

もちろんルイーザもここのクッキーが大好物だ。


「ヒュー、覚えてたんだね!」


嬉しくなって満面の笑顔になってしまう。


「そりゃあね。いつも最初にチョコチップをあるだけ全部食べてたじゃないか」


ひぃぃ、それは言わないでーーっ!

確かにルイーザは、空気も読まずに好きなものを好きなだけ食べる派だったけど、今の私はちゃんと弁えられる大人ですからー!!


『知的な女性』への道程は、遠く険しいと私は悟った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] カステラおばさん 思わずぶふってなってしまいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ