5話 ヒロインの攻略対象は誰?
「頭ポンポン事件」の後ーー。
え?何が「事件」だって??
いや、これはれっきとした「事件」でしょう。
もはや「事変」でもいいくらいだ。
あ、「事変」は「事件」よりも広範の非常事態で、「事件」よりも規模が大きいらしい。
ってことは……「頭ポンポン事変」に改名ーー!!
パーフーパーフードンドンドンドン!!
取り乱してつい変なテンションになってしまった。
トキメキが限界突破サバイバーして、思考回路はショート寸前状態だわ。
ヒューゴは私をポンポンした後、「じゃあな。あまり悩むなよ?」と言って、呆けたままの私の右頬っぺたをムニッとつまんで去っていった。
私の頬には、まだつままれたヒューゴの指の感触が残っている……。
ひぃぃぃ!!
そのムニッって必要でしたか!?
ポンポンとムニッのダブルコンボは殺傷能力が高過ぎますって!!
まさかインテリのヒューゴが、ガルシア並みの戦闘能力を隠し持っていたとは。
瞬殺されてしまったではないか……侮れんヤツめ。
思い起こせば、小さい頃はよく頬をつままれていた気がする。
兄が「ルーのほっぺは柔らかくて旨そうだなー」とか言い出すと、左右の頬っぺたをテオドールとヒューゴでそれぞれムニムニし始めるのだ。
子供たちが戯れている様子はさぞほほえましかっただろうが、久々にやられると心臓に悪い。
しばしベンチでクールダウンをしていて、ふと思い至った。
ヒロインのマリアベルは今どうしているのだろう?
うわわ、「ヒロインは勝手にすればいいわ、私には関係ないしぃー」とか昨日は思ってたけど、ヒューゴに会ったら俄然先行きが気になってきた!!
誰狙いなんだろ?攻略はどこまで進んでる??
もしやヒューゴ狙いとか!?
こうしちゃーいられない。
私は急いでベンチから立ち上がると、優雅なメロディーが流れる夜会の会場へと戻った。
顔馴染みの令嬢に軽く挨拶しながらマリアベルを探し歩く。
ルイーザはマリアベルと直接面識はないが、ゲームのパッケージに似ているハニーブロンドの女の子を見つければいいのだから難しいことはない。
居た!
あの子がマリアベルじゃない?
さすがのヒロイン、圧倒的美少女!!
ホールの隅の方で、嘘臭いほど可愛らしい令嬢が頬を染めていた。
でもなんだか様子がおかしい。
足元がフラフラしてない?
と思ったら、カクッと力が抜けたように体が傾いた。
危ない!!と思った時には、マリアベルは男性に抱き上げられてお姫様抱っこされていた。
ん?あれって確か……マリアベルの義理のお兄さん?
そうだ!攻略対象の『義兄』で、『ヤンデレ枠』のカイルじゃん!!
マリアベルの家は後継がいなくて、養子をもらったんだよね。
出来もいいし、マリアベルの父の伯爵も大喜びなんだけど、義妹が好きすぎるという……。
うわー、そうか、ヒロインちゃんはそっちのルートに入ってたのかー。
ゲームでカイルルートが進むと、マリアベルが夜会で間違えて強いお酒を飲んでしまい、カイルが抱っこをして帰るという場面が出てくるのだが、多分それが今の出来事だったのだろう。
実際は、本心では夜会にマリアベルを連れてきたくなかったカイルが、こっそり飲み物を差し替えていたんだけど。
怖っ!
カイルルートも自分のプレイ中には気にならなかったけど、目の前で見てしまうと引くわー。ドン引きだわー。
マリアベル、本当に彼で良かったの?
ハーレムエンドないから、もうカイル一択だよ?
でもちょっと安心してしまった。
実物のヒューゴを身近に感じてしまった後では、ヒューゴとヒロインのツーショットはあんまり見たくない。
なんだか非常にあっさりと不安が解消してしまった。
テオドールもヒューゴも対象外じゃ、ルイーザの私がマリアベルと今後親しくなることもないだろう。
なんたってあのカイルが相手じゃ、これから夜会で見かけることもほとんど無くなるだろうし……。
ヤンデレ怖っ!!
マリアベル達が退場した後、私も屋敷へ帰ることにした。
なんか色々いっぱいいっぱいだしね。
こういう時は寝るに限るのだ。
これは脳筋じゃなくても、万国万民に共通だと思う。
でも次の日、起きたらいきなりヒューゴがガルシア家に現れ、感情がジェットコースターになってしまうことを私はまだ知らなかった。




