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4話 モブでも幸せ感じてます

ヒューゴ・コックスは『イケ夢』の攻略対象の一人だ。

公爵令息で、お父さんはこの国の宰相をしている。

つまり、ヒューゴは『宰相の息子』で、ゲームでは『インテリ枠』にあたる人物なのだ。


前世の私の推しは、もちろんヒューゴ様だった。

クールで沈着冷静、頭が良くて冷たい印象を与えがちだけれど、仲良くなるとわかりづらい優しさに気付けて、ハッピーエンドを迎える頃には溺愛してくるという、私にめっちゃ刺さるキャラだった。

ダークブルーの髪にグレーの瞳が、ハニーブロンドのヒロインと並ぶとお似合いで、飽きずにスチルを眺めたものだ。


なんで忘れていたんだ私!こんな大事なことを!!

自分がヒロインじゃなくたって、推しを愛でるのは自由だというのに!!


しかもルイーザはなんと、ヒューゴ様の幼馴染みなのだ。

ヒューゴ様は兄のテオドールと同い年で、ルイーザとは三歳差の十九歳。

普段は「ヒュー」と呼んでいるほど、昔から家族ぐるみの付き合いなのである。

ヒロインのマリアベル目線で「ヒューゴ様」と呼んでいた記憶を持つ私には、そんな馴れ馴れしい呼び方はハードルが高過ぎるが。


「ルー?本当にどうした?もしかしてテオドール達を心配しているのか?」


うわぁぁぁぁ、愛称で呼ばれちまったい!

推しのいい声で呼ばれるのは正直心臓にくる。

しかも、思い出した前世の自分の名前が『瑠奈』で、私をルーと呼んでいた友達がいたことまで芋づる式に脳裏に浮かび、尚更悶えてしまった。


黙りこくっている私を不審に思ったのか、なんとヒューゴがベンチの隣に座ってきた。

手を伸ばせば触れられる距離に、私の心臓はバクバクと激しく鳴り響き、あまりの速さに「このまま死ぬのでは?」などと思ってしまう。


しかしこのままずっと黙りこんで、トキメキで死ぬわけにもいかない。

私は意を決して返事をした。


「な、なんでもないわ、ヒュ、ヒュー……。少し休んでいただけだから。お兄ちゃん達のことは確かに少し心配しているけど」


なんとか言えたーー!

かなりどもってたけど!!

ヒューって呼ぶの、めっちゃ緊張したよぉぉぉ。


下手な笑顔を作ってヒューゴの方を向いたが、彼は眉間にシワを寄せてこちらを見ている。

ん?なんか怒ってらっしゃる??


「何が心配なんだ?出兵はいつものことだし、今までは不安な素振りなど見せたことなかっただろう?」


はい、仰る通りです。

だって今までのルイーザは負けることなんて考えたこともなかったし、無策だろうと勝つものだと思い込んでいたから。

でも私の『瑠奈』の部分が、いくら戦力では勝っていても、戦場ではいつ何時何が起きるかわからないし、三百という敵の数自体も嘘かもしれないと勘ぐってしまう。


「そうなんだけど。ヒューも知ってる通り、お兄ちゃんってば作戦もなく勢いだけで突っ込んでいくスタイルでしょ?今更なんだけど、それでいいのかな?って」


私の言葉にヒューゴは衝撃を受けたようで、大きく目を見張った。


「驚いたな。ガルシアの娘のルーがそんなことを言い出すなんて」


待て待て!私をーーいや、うちの家をどんだけ脳筋だと思っとるんじゃい!!

まだ大したこと言ってないのに、そんなに驚かれるとは……。

まぁ、うちは引かれるレベルの脳筋一家だけども!!


「私だって色々考えるんですー!相手の戦力の情報は本当に正しいのかとか、三百と見せかけて実はもっと多くの兵が隠れているんじゃないかとか。あ、こちらが知らない武器を持っているとか、こちらの陣営にスパイがいる可能性とか!!」


考えれば考えるほど、楽観的な父と兄が心配になってきた。

単純で思い込みも激しいが、ルイーザにとっては優しくてかけがえのない家族なのだ。

死んで欲しくなどないし、元気に帰ってきてくれることを望んでいる。


「しばらく会わないうちに成長したな。まさかルーがそんなことを思案するとは。だが、安心するといい。情報は確かだし、今回の戦いに不安になる要素はない。ルーは笑って過ごしていろ」


なんでそんなことを言い切れるの?と疑問が浮かんだところで、ヒューゴが大きな手で私の頭をポンポンした。


え?ポンポン??

推しに頭ポンポンされてますこと??


疑問なんて綺麗に消え去り、頭に血が上って顔が赤くなるのがわかった。


夜で良かった。

もしかして鼻血出てるかもしれない……。


そんな沸騰した頭に、ふとあるスチルが浮かんだ。

『イケ夢』のヒューゴルートを進めていくと見られるスチル。

お城の夜会で疲れたヒロインが庭のベンチで休んでいると、ヒューゴが現れて隣に座り、マリアベルと会話を交わすのだ。

いつまでもダンスが上達しないと悩みを打ち明けるマリアベルに、ヒューゴが「君は頑張っているよ」と言って優しい瞳で頭を撫でるシーンが、マリアベル目線でスチルになっている。

そのスチルのヒューゴが目の前にいた。


まじか!!

まさかモブの私に、同じシチュエーションが起こるとは……。

待てよ?

私って、ヒューゴルートの途中並みの好感度はすでにゲットしてるってこと!?

ただのモブなのに。


ビバ!幼馴染み!!

推しが最初から優しいなんて、幸福の極み!!

ああ、尊い……。


私はセーブデータに残せない推しの姿を、目をかっぴらいて瞳に焼き付けたのだった。


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