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3話 突然現れた前世の推し

父が並び立つ騎士達を満足そうに見渡している。

集まった騎士もまた、団長である父を崇拝するような熱の籠った目で見ていた。


おもむろに父が息を吸い、叫んだ。


「元気ですかー!!」


出たー!!

背中の『闘魂』の文字を見た時からちょっと予想は出来ていたよ。

お父さんって、猪○さんが転生してるとかなの?


「ねえサリー、お父さんのあの挨拶って何!?」


「え?恒例じゃないですか。お嬢が旦那様に提案して採用されたんですよね?」


そうでした。

なんか頭の隅っこに急に浮かんで、お父さんに話してみたんだった。

そしたらお父さんがめっちゃ気に入って……。


思いっきりパクりじゃん!!

猪○さん、ごめんなさい。

声を大にして言いたい。

たまたま思い出しただけで、あなたのことを脳筋だなんて思ったことは一度もありませんから!!


思わず異世界から謝ってしまった。

まずい、私ってば無意識に前世のアレやコレをパクっていたかもしれない。

盗作、無断転載、ダメ絶対!


父はまだ話して……いや、大声で叫んでいる。

はっきり言って暑苦しい。


「元気があれば何でもできる!」


私自身がうろ覚えなこともあり、パクっているのは一番有名な部分だけのようだ。

でももしかしなくても、この後って……。


「いくぞー!!1、2、3」


「「「「ドーーーーーーーンッ!!」」」」


は?ドーンって何!?

急にオリジナル感出してきたな。

さすがにパクリ過ぎは良くないと、感覚的に避けてたのかも?


全員が熱く叫びながら力強く拳を掲げている。

私も思わずつられたし(口はダって言ってたけど)、騎士だけじゃなく、うちの使用人も参加している。

でもなんだか一体感が気持ちいい。

不覚にもちょっと感動してしまったじゃないか。


そのまま父は馬に跨がり、部下を先導するように進み出した。

私をチラッと見てニッと笑ったので、私も笑って手を振った。


さっきまでとは騎士の顔付きが全く変わり、高揚感や「やったるぜー!!」的な士気を感じる。

さっきまでのお約束なやり取りも凄いけど、父のカリスマ性や、騎士の単純でピュアな生態にもビックリだ。


そのまま出陣する様子を見守っていると、今度は母が近付いてきた。

兄はもうすぐ見えなくなりそうなほど遠くなったのに、いつまでも振り返ってはこちらにブンブンと手を振っている。


「あの子はいつも楽しそうに出ていくわねぇ。さっきバナナを五本も食べていたし、元気があり余っているのね」


兄よ、五本も食べたのか!

まあバナナは案外低カロリーらしいし、これから戦地に向かう人にはお腹に溜まっていいのかもしれない。

知らんけど。


「で、ルーちゃん、頭を打ったって聞いたけれど、大丈夫なの?栄養取って、寝たほうがいいんじゃないかしら?」


うわぁ。

「具合が悪けりゃ食べて寝ろ!」って、いかにもだな。

この母もやっぱりというか、しっかりガルシアの一員って感じだ。

見た目はストレートの銀髪が美しい、おっとり美人さんだというのに……。

せっかく他家の生まれでも、結局はガルシアの脳筋に毒されてしまうものなのね。

恐るべし、ガルシア家!

ちなみに、私は父と兄と同じ、赤茶系の髪色である。

ガルシアの遺伝が強すぎて泣けてくる。


言いつけを守り、今日は早めに休むことにした。

ちょっとコブが出来てるしね。

原因のマッチョな海坊主も、謝るようなジェスチャーをしながら出立していった。



翌日、なんと今夜はお城で夜会があるらしい。


え?

昨日の出陣式から振り幅が激しくないかい?

父も兄も戦地に赴いているというのに、私が呑気に夜会って……って思ったら、敢えてだそうだ。


母曰く、「ルーちゃんが夜会に顔を出すことによって、皆さん『この国は大丈夫。恐れることはない』と考えるでしょう?無闇に不安を煽らないために、ルーちゃんが夜会に出席することには大きな意味があるのですよ」とのこと。


確かにそうかもしれない。

私は戦えないけど、ガルシアの娘として、私には私のやるべきことがあるのだ!

私は大人しく夜会の準備を始めた。


アカネイル王国の夜会は、パートナーが居なくても構わない。

独りで出席していても、「えー、ぼっち?惨め~」なんて悪口を言われることもない。

元々婚約者がいるほうが稀で、夜会は出会いの場として機能しているからだ。

まあ、妻や婚約者以外を伴っていたり、毎回相手を替える者は当然白い目で見られるが。


今夜は母がお留守番なので、私独りで城に向かう。

サリー達がマリーゴールドイエローのドレスを綺麗に着付けてくれたおかげで、私も見た目は小綺麗な侯爵令嬢だ。

こんな派手な色、前世じゃとても無理だったけど、ルイーザにはよく似合う。

なんてったって、顔も可愛いしね。


城に着いてみたら、思っていた以上に華やかな場に段々気後れしてきてしまった。

記憶を取り戻したら、元地味なリケジョでちょっとオタクだった自分には、パーティー会場は荷が重い。


やばい……。

手汗がすごいんですけど!!

ああ、この前までは上手くやれていたはずなのに、うっかり戻った前世の記憶がルイーザの邪魔をするーーっ!!


あっさりと戦闘意欲を失い、お城の庭のベンチに座ることにした。

一応いつでもすぐに戻れるように、会場から一番近いベンチにしておく。

変に真面目で小心者の元の性格が顔を出し、脳筋だった頃が少しうらやましくも感じてしまう。


夜風に当たり、ふうーっと息を吐き出していると、背後から声をかけられた。


「珍しいな、こんなところで独りでいるなんて。具合でも悪いのか?」


これは……!

声だけでもわかるこの破壊力!!

もしやこの人は、『イケ夢』の私の推し、ヒューゴ様では!?


勢い良く振り返れば、やはりそこには思い描いたヒューゴが立っていた。

薄暗い中で若干見えにくくても、紳士的で知的なオーラがバンバン漂ってくる。


本物のヒューゴ様が目の前に!!


私はゲームを思い出し、胸が高鳴るのを押さえられなかった。


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