20話 インテリ公爵令息との結婚
最終話です。
お楽しみいただけると嬉しいです。
本日は晴天なり。
準備期間の半年なんぞはアッという間に過ぎ去り、結婚式当日を迎えてしまった。早っ!!
始めは招待客など細かく打ち合わせていたのだが、どんどん規模が大きくなり、他国の要人が加わるわ、領地の騎士達まで参加したがるわで、早々に緻密に考えることを放棄した。
もはや「来たかったら誰でもウェルカムだぜ!!」状態で、来るもの拒まず精神でいくことになったのである。
考えて見れば、警護や隠密行動はお手のものの両家。
きっとうまくやるに違いない。
問題は私のメンタルである。
もう諦めてたけどさ、なんじゃこの派手さは!
パレードってナニ!?
私は皇室でも、オリンピックメダリストでもないんですけどー!!
根が日本の一般市民の私は、まな板の上の鯉の気分で全てがされるがままである。
今日は王都の大聖堂で式を挙げ、馬車に乗ってパレードをし、城の広間で披露宴を行う予定だ。
「お嬢!綺麗ですよ!!ドレスの裾を踏んで転んだら笑ってあげます」
おい、不吉なことを言うな!
今まさにやりそうだなーって自分で思ってたところに!!
メイドのサリーは相変わらずで、結婚後はコックス家に一緒に来てくれるらしい。
絶対コックスで浮くと思うけど。
扉が開かれ、大聖堂に作られたバージンロードの先にヒューゴが立っていた。
白を基調としたタキシードを着ているヒューゴは、ヴェール越しでも神々しいくらいに輝いている。
うわっ、麗しさに目が眩みそうなんですけど!
やっぱ品のある顔だし、きちんとした格好がサマになるんだよね。
ウェストコートってなんであんなにそそられるんだろ。
細マッチョにウェストコートって、エロくて最高!!
くだらないことを考えていたおかげで、緊張することも転ぶこともなくバージンロードを進み、無事ヒューゴの前までやって来た。
「ルー、とても綺麗だ……」
感嘆したようなヒューゴの声が聞こえ、満足してもらえたことに安堵する。
「ヒューも最高にカッコいいよ」
コソッと囁くと、クスっと笑ったのが繋いだ腕から伝わった。
式は順調に進んだ。
途中までは……。
誓いのキスの場面で、ヴェールを挙げられた瞬間、ふと参列者の中に見知った顔を発見してしまったのである。
あ!あれって、『イケ夢』の攻略対象の王太子?
しかも、お隣も対象の隣国の王子じゃん!
うわ、顔見たら思い出した!!
一気に二人も見ちゃったよ!!
最近はすっかり忘れていたが、ゲームの主要人物が突然二人も視界に入り、私は式の最中なのにそちらに意識を奪われてしまっていた。
「ルー?何を見て、何を考えているのかな?」
ヤバイ!!
目の前に意識を戻したら、笑顔で黒いオーラを発するヒューゴがいた。
「え?なんでもないヨ?」
語尾が怪しくなりながらも、なんとか笑顔で答えたのだが……。
「せっかく会わせないようにしてきたのに、まだ俺以外にも興味があるとはね。これはお仕置きだな」
私の頭の後ろにヒューゴの手のひらが置かれ、動揺している内に唇が奪われていた。
むぐっ!!
ん……。
え、長くね?
普通はチュッで終わるはずじゃ?
なんでこんな長く……うわ、舌まで入ってきた!!
「ちょっ、ヒュー……待っ……ん……」
参列者からどよめきと悲鳴が上がっている。
ヒューゴは普段クールだと思われているのだから、当然の反応だ。
大勢の前で深いキスを延々とされ、涙目で抵抗したが、ヒューゴは止めてくれない。
胸をポカポカ弱々しく叩いていたら、聞き慣れた大きな声が響いた。
「ヒューゴ!俺の娘に何しやがる!!」
「そうだ!可愛いルーにひどいぞ!表に出ろ!!」
濡れてゆらめく視界の端で、父と兄が剣を持って怒っていた。
騎士達まで二人の周りを固めている。
結婚式なのになんだか物騒なことになってしまった。
ようやく口付けを解いたヒューゴは、不敵な笑みで父を見返している。
これってまずくない?
なんかコックスの隠密が影で動き始めた気が……。
このままじゃ、両家の争い勃発!?
国が滅ぶって!
私がハラハラしていると。
「ルー、この場を納めるにはどうしたらいいと思う?」
ヒューゴが自分の唇をトントンと指し示しながら言った。
え、私からキスしろっていうこと!?
そんなこと出来ないよ!!
さっきのがファーストキスだったのに、二回目で私からってハードル高くね?
しかし、女は度胸!
ここはヒューゴの唇をパクッといただいてしまいましょう。
平穏のためにも。
チュッ
大胆にいくつもりが、結局は唇が触れ合うくらいの軽いキスになってしまった。
やっぱり恋愛経験が皆無だった私には大人のキスは難しい。
上目遣いで恥ずかしさに悶えながらヒューゴを見ると、蕩けそうな顔で私を見ていた。
「ルーからのキス、嬉しいよ。全然足りないけど」
再びヒューゴが私に覆い被さり、キスを始めた。
また!?
今はキスしてる場合じゃないんじゃ?
両家の様子は……。
杞憂だった。
「いいぞー!もっとやれー!!」
「お嬢!お幸せにー!!」
大聖堂が歓声で沸いていた。
父と兄も感慨深そうに頷いて拍手をしている。
なんなんだ、この茶番は!!
そして私は暫くキスの嵐から逃れられないのだった。
夜、私達の屋敷へと帰ってきた。
ちなみに新しく建てた二人の新居は、私が設計したものだ。
前世で空間デザインを勉強していたことを話したら、ヒューゴが「じゃあ好きにしていいよ」と言ってくれたのである!
ヒューゴ、神!!
つい狭小住宅の発想で、中二階や動線へのこだわり、収納の確保に気を取られていたら、貴族にあるまじきコンパクトな屋敷になってしまった。
もちろん客室や図書室、広間もあるのだが、使用頻度の高い部屋をギュッとまとめてみたら、驚くほどヒューゴに好評だった。
移動時間の短縮になるのはもちろん、私を身近に感じられることがお気に召したらしい。
しかも中二階方式は視界が良く、警護がしやすかったり、収納のつもりのスペースに隠密が隠れられるという長所があるとか。
「ルイーザちゃん、素晴らしいわ!!うちも建て直しましょうよ」
ヒューゴママも気に入り、冗談で回転する扉とか、視覚を惑わせる部屋、抜け道、落とし穴などからくり屋敷のことを話してみたら、本当に忍者屋敷を建てることになってしまった。
まさか転生して忍者屋敷の設計をすることになるとは、人生ってわからないものだ。
「ルー、疲れた?」
お風呂を済ませ、寝室に入るとヒューゴが気遣ってくれる。
でもなんだか様子がおかしい。
「ヒューこそ疲れてるんじゃないの?それとも何か怒ってる?」
私が尋ねると、ヒューゴは私をサッと横抱きにしてベッドへと連れて行った。
突然のお姫様抱っこと、これから先の展開に胸を高鳴らせていた私だったが……。
「お仕置きがまだ終わってなかったからな。ルーがもう二度と俺以外の攻略対象者を見ないように、俺の愛を注がないと」
ひえーーっ!
なんでヒューゴがヤンデレ気味に!?
ゲームではヤンデレはカイルだけで、ヒューゴ様は普通に溺愛キャラだったはずなのに!!
私の疑問が顔に出ていたのか、ヒューゴがフッと笑った。
少し濡れたままの髪がセクシーに見える。
「以前のルーならこれほどの心配はなかったが、今のルーは魅力的過ぎて不安になるんだ。諦めて愛されてくれ」
私のせい?
私が頑張ってインテリ目指した結果がコレ!?
ーー結局、愛が重くなったヒューゴに私は抱き潰されてしまったのだった。
でも細マッチョは最高だった……。
十年後。
私とヒューゴはおしどり夫婦として有名だ。
子供は九歳の長男、八歳の長女、三歳の次男の三人で、子煩悩なヒューゴは子供を溺愛している。
もちろん私のことも。
「おーい、遊びに来たぞー!!」
兄のテオドールはお菓子を持って度々やってくる。
最近は戦略を一緒に立てるようになったのだ。
相変わらず独身だが……。
「テオおじさんありがとう!カステラおばさんのクッキーだ!!」
喜ぶ長男に、トコトコやって来た赤茶色の髪をした次男が、両手に持てるだけのチョコチップクッキーを掴み、逃げた。
「あ、またチョコチップだけ持って!」
咎めながらも、ダークブルーの髪をした長男と長女は弟を笑っている。
ヒューゴとテオドールも、「ルーの小さい時と同じだな」と大笑いだ。
ガルシアの血を色濃く受け継ぐ次男は、もしかして騎士になるかもしれない。
「いつまでもそうやって笑うんだから!!」
怒ったふりをしながらも、私は幸せを噛み締めている。
いつまでもこの平和が続きますようにと、心の中で祈っていた。
終
お読みいただきありがとうございました。




