降臨
息を吸うたび喉が焼かれるような痛みが走る。違う、本当に焼かれている。なんでこんなことになったんだ。また喉が焼かれる。黒い煙で前が霞む。学校の教科書はすでに炭屑となっていた。買わなきゃいけないな。
「......無理か」
すでに火が家を包み込んでいる。もう父ちゃんと母ちゃんは死んでるだろうな。もうすぐ俺も死ぬのだろう。そう思うと意識が朦朧とする。だが、心臓の鼓動が早く刻み始める。体が生きようと血を回す。手を当ててなくてもわかるほど大きく、早く、刻む。もう無理なのに。
「.........キ....!.....キ....!...イ!」
ついに幻聴まで聞こえだした。
「だから無理....」
柔らかい煙が俺の意識を奪った。
うーん、どこにいるんだ?妖怪憑きがここら辺にいると思ったんだがなぁ。
「お、」
煙が上がってるのを見える。今は午後4時。
助けに行くかぁ?
面倒だしな、助けたとていいことないし。でもやることないし。ま、一応行くだけ行くか。気が向いたら助けてやろう。ぶらぶらしてた足が一方向に向かって歩み出す。
「こりゃぁどういうことかだ?」
火事で家が燃えていたのは予想通り。だが予想をしていなかった物がある。体全身に火傷痕がある学ランを纏った高校生が平気な顔をして歩いていた。異質を通り越して異常だ。恐怖映像だ。
普通ならお化けがいる! と思うのが普通なんだろう。だが俺は妖怪憑き、だがらわかるこいつは妖怪憑き。
視覚的に、直感的に。
「.....エ、.....ケ」
は?
喋った。
「ど〜するか....」
妖怪に憑かれると人は妖怪の力を使うことができる。俺もその一人だ。だが取り憑かれて妖怪に自我乗っ取られたなんで事例は聞いた事ない。これは調べる価値超大ありだな。自分の腕を変化させる。
「ちょっと痛いぞ」
近づき首の骨を握りつぶす。
「お....、....き.....。おき.....ろ。起きろ。」
ぼやけた声が脳内に響きわたる。ゆっくりと瞼が開き、目に光が雪崩れ込む。
「.....どっち」
「....どっちって」
「お、おぉぉぉ!戻ってんじゃねーか!」
目の前に見たことない男が顔を覗き込んでいた。
「誰?」
「天野コウジ、17。高校生。妖怪憑き同士よろしくな」
妖怪憑き同士?
何言ってんのこいつ。俺は真人間だわ。そ〜んなレア人間見たことも聞いたこともない。
「なんで赤の他人に俺看病されてるの?」
「お前、みたいな妖怪憑き病院にほいそれと連れて行けるわけないだろ、」
「は?妖怪憑き?取り憑かれてないぞ。大体妖怪憑きってすぐ警察に捕まるだろ」
天野さんの勘違いをしっかりと否定する。しかも今気づいたが足枷つけられてる。
「いやいやいや、憑かれてるやん」
「嘘だぁ」
「じゃあなんで体中燃えてたのに生きてるんだ?」
そうだ! 俺は火事の中に居て....。全身を見渡すが火傷した箇所は一切ない。今履いている折り目のついたズボンは焦げているのに。あれ? 呼吸も楽だ。
「本当に....俺って妖怪憑きなのか?」
「だからそういってるやん」
「マジか....。まぁまだ生きてるのは超嬉しいけど....俺妖怪憑きなのか」
嬉しさとショックでぐちゃぐちゃになる。普通の生活できるのか....? てか親になんて言おう。親が頭に浮かんだとき嫌な考えがよぎる。
「なぁ.....親は?」
天野が目を逸らす。
「言えよ」
自分でももう答えはわかってる。でも少しの希望に縋っている自分がいる。
「死んでいた。煙で死んだみたいだ。火で焼け死ぬよりよかっただろ」
「っぱ、そうだよな」
炎に囲まれた時にはわかっていた。事実をしっかりと受け入れることはできる。だが......。クッソォ....。頬を涙が伝う。悔しいのには変わりない。もしもう少し早く起きていたら火事に気付けたかもしれない。もし俺が妖怪憑きなのを知っていたら助けられたかもしれない。無力感が心を刺す。
「泣くなよぉ。スマホに家族写真入ってるだろ。な?」
「いや、その....スマホにはエロ画像しかない....」
思わず本当のことを言ってしまう。
「えぇ......安心しろ、俺もそんな感じだから。な?」
面白ければ、ブックマーク、評価を是非よろしくお願いしやす。╭( ・ㅂ・)و ̑̑