第77話:魔装具作成7
本当に魔装具が作れるのか試すべく、私は破邪のネックレスを握り締めた。
ボロボロの薬草でも作成できるEXポーションとは違う。最高級の素材を使って作られたであろう最高ランクのアイテム、それが破邪のネックレスだ。
王都で一番の腕前を持つヴァネッサさんでさえ、断念せざるを得なかった付与に、私は今から挑戦する。
神聖錬金術を展開したとしても、簡単にできるとは思えない。でも、本当に魔装具を作れるとしたら、これしか方法ない。
聖なる魔石を一つ手に取った私は、収束させた魔力を高濃度に強化し、神聖錬金術を展開する。
魔力が体に圧力をかけるように押し寄せ、肌がピリピリとする感覚は、どこか懐かしい。普通の領域展開とは異なり、部屋の空気が張り詰めるほど、空間に干渉していた。
「み、ミーアさん!?」
「リオン、今は話しかけるな。邪魔するだけだ」
神聖錬金術のことを話していないリオンくんが驚いてしまったが、こればかりは仕方ない。古代錬金術だと誤解されても困るし、何が起こるかわからないので、変に巻き込むわけにはいかなかった。
でも、今は違う。臨時とはいえ、魔装具を作る同じ工房のメンバーなんだから。
これが落ち着いたら、リオンくんに神聖錬金術のことを話すべきか、後でクレイン様に相談してみよう。
今は自分にやれることに集中して、前回のように魔力切れを起こさないように注意しないと。
心配の眼差しを送ってくれるクレイン様とリオンくんをよそにして、私は破邪のネックレスに意識を向ける。
普通に付与スキルを発動させるより、神聖錬金術を展開した方が圧倒的に情報量が多い。手に取るようにハッキリと魔力のことが伝わってくるだけに、思わず感嘆のため息が漏れてしまう。
ヴァネッサさん、やっぱりすごいな……。細い糸で一本一本丁寧に縫うようにして、魔力を紡いでる。とてもではないけど、ここまでのクオリティーは真似できそうにない。
でも、そのおかげで最後にどう付与すればいいのか、ハッキリと魔力路が認識できる。後は神聖錬金術で、魔力が存在しないところに付与できれば、魔装具に――。
そう思って聖なる魔石の魔力を付与しようとすると、拒絶反応でも起こすようにバチッと弾かれる。
えっ? 神聖錬金術でもダメなの?
……いや、違う。破邪のネックレスの品質が高すぎて、聖なる魔石の魔力が魔装具に対応していないんだ。それだったら――。
付与で抽出した聖なる魔石の魔力に、形成領域を多重展開して、魔力の性質を変換することを試みる。
EXポーションを作った経験があれば、それくらいのことはできるはず。ううん、意地でもやろう。
私だって、見習いと言っても錬金術師なんだ。これだけ緻密に作られたものが、どれだけの労力と想いが込められているのか、よくわかる。
錬金術師のプライドをかけて作られたものなんだから、誠意を持って対応しないと。
「魔力増強」
……足りない。これくらいの変化はないにも等しい。これだと、また弾かれる。
「魔力増強」
……もっと、もっと変化させないと。魔装具に相応しくならない。
「ミーア……」
「ミーアさん……」
高濃度の魔力を消費し続けていることもあり、工房の中に張り詰めていた空気が最高潮に達する。
このまま様子を見ながらやっていたら、私の魔力が消耗するだけで、最後まで持たないかもしれない。きっと魔装具も受け入れてくれず、拒絶反応を起こし続けるだろう。
そうしたら、もうヴァネッサさんは錬金術の世界に戻ってこない。そんなの、全然嬉しくないよ。
ヴァネッサさんの時折見せる寂しそうな顔を思い出し、私はさらに魔力を収束させる。
「これだけ自由自在にネックレスが作れるなら、絶対楽しいはずなのに」
下処理は面倒臭いし、納品に追われることもあるし、手も汚れるけど、諦めるなんてもったいない。
こんなにワクワクする夢の世界を知っていて、錬金する技術があるなら、もっと純粋に楽しめばいいのに。
仕事が手につかないほど錬金術のことを考えているのも、ふざけてばかりで錬金術に未練がなさそうなフリをするのも、周りのことを意識して自分を騙しているだけにすぎない。
本当は錬金術がやりたい、そう思っていることくらいはすぐにわかる。魔装具の話をしている時が、今まで見てきた中で一番楽しそうだった。
だから、私が破邪のネックレスを完成させたら、思いっきり自慢してやろう。もう一度、最初から自分で作りたいと思えるまで。
「魔力最大出力」
聖なる魔石の魔力が金色に輝き始め、自分の居場所を見つけたかのように、破邪のネックレスに吸い込まれていく。
そして、すべての魔力が吸い込まれたところを見て、私は神聖錬金術の展開をやめた。
「……よしっ」
手元に残ったネックレスが、金色にも銀色にも輝きを放ち、魔力のオーラを纏っている。
その異質な存在は、誰がどう見ても魔装具と呼ばれるものだと、私は悟るのだった。







