第69話:国王様と話し合い2
国王様に礼儀作法を気にしなくてもいいと言われた私は、古代錬金術という聞き慣れない言葉について、遠慮なく聞いてみることにした。
「あの~、古代錬金術とはなんでしょうか」
「遥か昔に滅びた国が作り上げた、禁じられた錬金術のことだ。世界に瘴気と魔物を生み出し、凶悪な魔物が大地を支配した混沌の時代を作ったと語られておる」
「錬金術で、瘴気と魔物を生み出す……?」
現実離れしたことを耳にしてしまうが、国王様の言葉を疑う余地はない。
魔法陣が瘴気を生み出し、魔物の形を作り始めたところを、実際に見ているのだから。
「人が魔物を生み出した以上、対抗手段も人が作るしかない。そうして作り上げられたものが、お主たちもよく知る魔装具だ。実際に太古の大戦で使用された特別なものを、各国が神器として祀っておる」
神妙な面持ちで話す国王様を前にして、あの横柄な態度をするゼグルス様でさえ、言葉を失っている。
当然、魔装具に憧れを抱くリオンくんも、驚愕の表情で聞き入っていた。
「話だけ聞くと、現代の錬金術とはまったく別物ですね」
「古代錬金術においては、素材に秘められた力を暴走させ、破滅に導くと言われたものだ。今とは考え方が異なるため、錬金術の性質も違うのであろう」
「そんな恐ろしい錬金術が存在していたなんて、全然知りませんでした。クレイン様もご存知ないんですよね?」
「無論だ。普通に生活している限り、知り得ないことだろう」
一応リオンくんにも知っているか確認してみると、無言のまま首を横に振っている。
「クレインの言う通りだ。この国が建国する以前の話であり、世間一般的には語られぬ歴史である。知らなくても無理はない。むしろ、次の世代には知らぬまま過ごしてもらいたかったのだが……、そうもいかぬようだ」
「再び古代錬金術を使う者が現れたかもしれない、ということですか?」
「無論、その可能性もゼロではない。だが、過去数百年はそのような者は生まれていないと言われておる。どちらかと言えば、未使用の古代錬金術を発掘して、悪用した可能性の方が高い」
「だから、過去の遺物と呼んでいるんですね」
「正式には、アーティファクトと呼ばれているものだ。本来はすぐに封印するべきものなのだが、戦争の兵器として使う国もある」
お父様が古代錬金術を知っていたのも、オババ様が戦争に駆り出されていたのも、こういった裏の事情が存在する影響だったのか。
同時期に力の腕輪の試作会を行なっていたのは、古代錬金術の対抗策の一つだったのかもしれない。
いろいろな出来事が一本の線で繋がり始めると、不意にゼグルス様がそっぽを向いた。
「魔法陣くらい破壊してくればいいものを」
相変わらず喧嘩腰だが、ゼグルス様は軽はずみな発言で挑発しているのではないだろう。
以前、クレイン様の錬金術の腕を認めていると言っていたから、魔法陣を壊さずに帰還したことに疑問を抱いているに違いない。
つまり、宮廷錬金術師のクレインでも破壊できないほどのものなのか、という質問がしたいだけである。
「空間に干渉するほどの魔法陣だったんだぞ。無闇に手を出す方が危険だろう」
しかし、純粋に嫌味を言われていると思うクレイン様は、彼の言葉の本質に気づかない。
「それで怯えて帰ってきたということか。チンチクリンどもの考えそうなことだ」
「調査依頼である以上、情報を持ち帰ることに意味がある。状況を把握するためにも、帰還する選択は最善だったはずだ」
「戯言を。もっと国に貢献すればいいものを」
「じゃあ、俺たちの代わりに魔法陣を破壊して、国に貢献してくれ」
「残念ながら、俺にはやるべきことがある。お前たちほど暇ではないのだ」
無事に帰ってこられてよかったな、と素直に言えないゼグルス様と、言葉の意味をそのまま解釈するクレイン様は、バチバチと火花を散らしている。
思わず、仲裁しようとリオンくんがアタフタするが、簡単に止められるものではなかった。
そもそも、喧嘩を仲裁するのは、助手の役目なのだろうか。二人とも良い大人なんだし、ここは見守るべきかもしれない。
でも、国王様の前だからなー。空気も悪くなるし……と思っていると、ウオッホン! と、国王様が大きな咳払いで場を鎮めてくれた。
「古代錬金術を侮るべきではない。今はいがみ合う暇などないはずだ」
さすが国王様。おっしゃる通りである。
もっと場をわきまえるべきだし、助手の私の方が国王様と真剣に話しているのは、絶対におかしい。魔法陣の第一発見者とはいえ、こんな場所でも師弟関係を逆転させないでほしいよ。
不貞腐れる二人の宮廷錬金術師を置いておき、私は国王様と真剣な顔で向き合う。
「今回の件については、引き続きお前たちに協力を頼みたい」
「大っぴらに公表できないみたいですし、見つけてしまった以上は責任を取りたいと思います。でも、どのような形で協力すればいいんでしょうか」
「古代錬金術を押さえる方法は限られておる。すでに対抗手段を持つ者に声をかけているが、なかなか癖の強いものばかりでな……」
そんなすごい人がいるんだなー、と他人事みたいに思っていると、突然、バーンッ! と、ものすごい勢いで扉が開く。
なんと、顔を真っ赤にして怒るオババ様が乱入してきたのだ!
「一国の王がちんけな草餅を送ってくるんじゃないよ!」
国王様の私室にズカズカと入り込んできたオババ様は、机の上に草餅の入った箱をパーンッ! と叩きつけた。
草餅の箱を見る限り、王都でも有名な菓子屋さんのものだと推測できる。ただ、あの店は材料の仕入れ先を変えたばかりで、餡子の味が落ちていたはず。
甘いものが大好きなオババ様は、それがどうしても許せないのかもしれないが……。
相手は国王様だよ!? そんな失礼な行動を取ったら、怒られるどころの騒ぎじゃ……あれ? 国王様が怒って、ない?
「いいタイミングで来てくれたな。バーバリルよ」
「馬鹿言うんじゃないよ、まったく。こっちは文句を言いに来ただけさ。古代錬金術を用いた事件に巻き込まれるなんて、まっぴらごめんだね!」
絶対に話を聞いてたじゃないですか、と突っ込みたいが、今はそれどころじゃない。
古代錬金術に対抗する手段を持つ、癖の強い人って、もしかして……?







