第68話:国王様と話し合い1
魔装具と魔法陣のことで頭を悩ませた二日後。
馬車が王都に到着すると、旅の疲れが残った体にムチを打った私たちは、すぐに国王様の元へ報告に向かった。
本来なら、謁見を申請してすぐにお会いできるような方ではない。でも、今回の依頼は国王様の勅命であったため、すんなりと許可が下りている。
少しくらいは休みたいんだけどなーと思いつつ、謁見の間まで足を運ぶと――。
「今日はそこじゃないぞ。こっちだ」
「えっ?」
「えっ?」
なぜかクレイン様は謁見の間を通りすぎ、違う方向を指で差していた。
何だか嫌な予感がして、リオンくんとコソコソ話し合う。
「普通は謁見の間で報告しますよね」
「た、たた、たぶん」
「あれ? 緊張してます?」
「こ、国王様にお会いする機会なんて滅多にありませんからね」
「まあ、普通はそうですよね」
貴族である私でさえ、国王様と直接お話させていただいたのは、前回のパーティーが初めてのこと。クレイン様の隣に立ち、相槌を打って誤魔化していた記憶しかない。
調査依頼を出された時も、私とリオンくんは棒立ちで見守っていただけだ。
しかし、今回は魔法陣を発見した者として、発言する機会も出てくるはず。国王様に失礼のないように、気を引き締めないと。
「早く来い。置いていくぞ」
「あーっ。待ってください」
「ま、まま、ま、待ってください」
動揺を隠せない私とリオンくんは、先に進むクレイン様の元に走り出す。
こんな場所に置いていくのは、本当に勘弁していただきたい。平民のリオンくんがいるから表に出せないけど、私だって緊張しているんだから。
頭の中が焦りで埋め尽くされながらも、しばらく歩いていると、騎士が警備する一つの部屋にたどり着いた。
何の迷いもなくノックするクレイン様を前にして、私の心臓は爆発しそうなほど胸が高鳴ってしまう。
うわっ! 国王様の私室じゃんっ! 初めての報告で私室を訪ねるなんて、マジヤバイって!
心の中で貴族令嬢らしからぬ言葉を使って叫んでいる間に、堂々とした立ち居振る舞いでクレイン様が入室した。
急展開に取り乱しつつ、ぎこちない動きで私とリオンくんがついていく。
すると、部屋の真ん中に高そうな机と椅子が置かれていて、すでにリラックスした国王様が座っていた。
その姿を見た私は、当然のように焦りが限界を突破する。
え、えーっと……こ、こういう時のマナーってどうだっけ。普通に一礼した後、下座に座ってよかったような気がする。
よし……。あっ! ちょっと待って! 宮廷錬金術師の助手なら、立っていた方がいいのかな。でも、何も言われないし、普通に座るべき?
あああああっ! どうしようーーー! 予めクレイン様に確認しておくべきだったー!
私よりもリオンくんの方が慌ててるし、しっかりしないと……!
などと慌てていると、完全に表情と態度に出ていたみたいで、国王様に笑われてしまう。
「楽にして構わぬぞ。私室ゆえに、周りの目や礼儀作法を気にする必要はあるまい」
「お、お気遣いいただきありがとうございます……」
まさか国王様に出会って五秒で恥をかいてしまうとは。さすがにもう少しいろいろと勉強し直した方がいいかもしれない。
あははは……と愛想笑いで誤魔化した私は、リオンくんと一緒に席に着いた。
しかし、それがマズかったのか、国王様の表情がこわばる。
「だが、もう少し堂々と振る舞うべきであろう。そのままでは、父君に怒られるぞ」
「うっ……。い、痛いところを突くのは、お控えいただけたらと」
「何を言うか。今後の活躍次第では、近い将来の話になるやもしれん」
変なフラグを立てないでくださいよー……と思っていると、コンコンッと扉がノックされた。
国王様が返事をすると、部屋の中に宮廷錬金術師のゼグルス様が入ってくる。
「お呼びと聞きましたが」
「ゼグルスにも話を聞いてもらいたい。参加せよ」
「……わかりました」
わざわざクレイン様と離れた席にゼグルス様が腰を下ろすと、国王様の表情が仕事モードに切り替わる。
その瞬間、私室とは思えないほど場が引き締まった。
「で、調査の方はどうであった」
素直に報告するべきか迷ったであろうクレイン様は、ゼグルス様の方をチラッと確認する。
しかし、国王様が同席させた以上、退席するように促すこともできない。僅かに言葉を詰まらせつつも、国王様に向き合った。
「詳しい説明はできかねますが、瘴気を放つ魔法陣が魔物を生み出していた模様です。ホープリル子爵が言うには、過去の遺物である、と」
「やはりそうであったか……。悪い予感ほど当たるものだ」
すべては予想通りだったみたいで、国王様は深いため息を吐いた。
「過去の遺物……。古代錬金術か」
まったく予想もしていない言葉を耳にして、私はクレイン様と顔を合わせる。
神聖錬金術ではなく、古代錬金術? いったいどういうことなんだろうか……。







