第59話:待ち伏せ2
ベタベタしてくるヴァネッサさんと、堅物でムスッとしたゼグルス様に挟まれ、私は王都の夜の街を歩いていた。
「街中でヴァネッサさんと会うのは珍しいですね。ゼグルス様が時間はないって言ってましたけど、これからお仕事なんですか?」
「まあね。錬金術師を引退しても、作ったアイテムには責任を持たないといけないのよ。こうして何か問題が起きると、呼び出されるの」
「そういうところは真面目なんですね」
「私だって、夜に仕事なんてやりたくないわ。でもね、やらないと国に怒られちゃうから、仕方のないことなのよ」
……ん? 国に怒られる? 錬金術ギルドじゃなくて?
ハッ! ま、まさかとは思うけど、そんなに大きな仕事に携わっていたってコト?
国王様から頼まれていたゼグルス様の依頼内容を考慮すると、とんでもない事案だと推測できる。
「もしかして、王都に張り巡らされた結界を作ったのは?」
「私とゼグちゃんの愛の共同作業ね」
やっぱり……と思った瞬間、自分の置かれている状況を理解して、急激に息苦しくなってしまう。
王都を守る二人の偉大な錬金術師に挟まれているのだ。家まで送ってもらうだけの帰り道が接待に変わりそうな気がしたけど……、今さら取り繕っても意味はないか。
二人とも細かいことを気にしそうなタイプじゃないし、今までと同じように接しよう。
どちらかといえば、愛の共同作業と話を盛られたことにゼグルス様は苛立っているみたいだし。
「おい、誤解を招くようなことを言うな。裏取引の内容を伝えるのもルール違反だろ」
裏取引……。共同作業で結界を張ったのは、内緒だったのかな。
「大丈夫よ。ミーアちゃんは言いふらすような子じゃないもの」
「そういう問題ではない、まったく」
「ちょっとくらいはいいじゃない。ミーアちゃんは平民と友達を作るような子よ」
「どうだかな。信用できそうな貴族には見えないが」
チラッと顔を向けてくるゼグルス様は、明らかに敵対心を持っていた。
最初に出会った頃よりは穏やかな印象を受けるけど、明らかに心の距離が遠い。
私と関わりを持ちたくなさそうで、どこか怯えているようにも感じる。
「もしかして、ゼグルス様は貴族が嫌いなんですか?」
「好きになる理由がどこにある。生まれた家がよかっただけで、特別扱いされている連中だろ。貴族や平民などという言葉が存在する限り、この世の中は不平等なままだ」
癇に障る話だったのか、それだけ言うと、ゼグルス様は一人でスタスタと歩いていってしまう。
その姿を見たヴァネッサさんは、苦笑いを浮かべていた。
「ごめんね、ミーアちゃん。ゼグちゃんは貧しい村の出身で、貴族に良い思い出がないのよ」
「あぁー……納得しました。どうりで私もクレイン様も嫌われているわけですね」
「悪気はないのよ。まだ彼が若い頃、村を統治していた貴族が私利私欲に走る人でね、彼は奴隷みたいな扱いを受けていたらしいの」
「えっ? 奴隷制度って随分前に廃止されてますよね。今の時代でやれば、厳罰に処されるはずですよ」
「小さな村だったらバレないと思ったんじゃないかしら。現にゼグちゃんは、大人になるまでそういう扱いだったらしいわ」
今のゼグルス様からはまったく想像できないが、ヴァネッサさんが嘘をつくとも思えない。
クレイン様に辛辣な態度を取っていたのも、どうしても貴族を認めたくないから、なのかな。
高貴な身分であればあるほどに、その思いが強くなるんだろう。
「本当は正義感もあるし、優しい人なのよ。事件が明るみに出たのも、運搬用の荷物に忍び込んだゼグちゃんが、王城に殴り込みに行ったことで発覚したくらいだから」
「……よくご無事でしたね。普通に処刑されてもおかしくありませんよ」
「本当よね。王様が聞く耳を持たない人だったら、彼は生きていないと思うわ」
無謀と勇気は違うと聞くが、九死に一生を得たみたいだ。
そんな壮絶な人生を歩んできたゼグルス様が、今は同じ貴族の立場になった。きっと強い信念と覚悟を持った上で、男爵位を得たに違いない。
「だから、彼はこの国を変えたいのよ。そのためには、目に見える形で結果が必要だった。どんな手を使ったとしても、ね」
「それで裏取引だった、というわけですね」
「そう。技術提供する代わりに、ちょっとしたお願い事を聞いてもらったの」
ヴァネッサさんの願い事って怖いな……と思っていると、先を歩いていたゼグルス様が近づいてくる。
「いつまで無駄話をするつもりだ」
「あら、おかしなことを言うのね。聞こえてたのに止めなかったのは、ゼグちゃんの方でしょう?」
「ここで止めたとしても、後で話すだけだろ」
「バレちゃった? だって、ゼグちゃんが貴族の女の子と一緒なんて、珍しかったんだもん」
純粋に心配して声をかけてくださったという意味では、ゼグルス様も丸くなったのかもしれない。
「まったく、余計なことを。貴族に話したところで、平民の心を理解できるはずがない」
「そうやって貴族を目の敵にするのは、ゼグちゃんの悪いところよ。もう少しちゃんと向き合わないと、そのうち宮廷錬金術師の地位を剥奪されてしまうわ」
「フンッ。国王陛下は話のわかるお方だ。そのような野暮な真似はしない」
「そう? 王様は貴族のトップだけど?」
「知ったことか」
険しい表情で言葉を発するゼグルス様と、どこか楽しそうに話すヴァネッサさんは、こちらが口を挟む暇もなく話し続けていた。
性別も違えば、年齢もかなり離れている。言い合いばかりしているように見えるけど、互いのことを思い合っているみたいだ。
わざわざ錬金術ギルドの近くで待ち合わせして、危ない目に逢わないようにエスコートしてあげるゼグルス様と、彼のことを心配するように話をしてくれたヴァネッサさん。
その二人の信頼関係が、ちょっぴり羨ましく感じた。
「お二人は仲が良いんですね」
「いつでもラブラブよ。そうよね、ゼグちゃん?」
「どこをどう見たらそう言う答えになるんだ。やはり貴族とは価値観が合わないようだ」
どう見ても年の差を考えさせないほど仲が良いけどなー、と思いながら歩いていると、家の近くまでやってくる。
「私はこちらで大丈夫です。家の近くまで送ってくださり、ありがとうございます」
「気にしないで。また錬金術ギルドで待っているわ」
「……」
送ったつもりはない、と言わんばかりにゼグルス様が口を閉ざすが、こればかりは仕方ない。心配してくれたのは事実だし、感謝しようと思う。
これから仕事に向かう二人を見送り、疲れた体を休めようと思っていると、ヴァネッサさんたちの会話が聞こえてきた。
「で、あの子の方はどう? 元気にしてる?」
「ちょうどチンチクリンのところに派遣したばかりだ」
「そう。じゃあ、問題なさそうね。本当はもう少し……」
二人が少しずつ遠ざかり、だんだんと声が聞こえなくなっていく。ただ、その話の内容が聞こえて、ちょっぴり複雑な気持ちを抱いてしまった。
ヴァネッサさんのちょっとしたお願い事って、リオンくんのことだったんだろうか、と。
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