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神隠し

作者: 大寒

私は夜勤中心の生活でなかなか人と遊びに行く機会が無く、昼前に疲れ果てて帰宅して風呂と洗濯を済ませて寝るだけの日々を繰り返していた。

そんな日々である夢を見続けるようになった。

今とは違う仕事をしていて家庭を築いている幸せな夢。

姪が欲しがったので幼い頃から持っていた鈴をあげたお返しかと思うほどのタイミングで始まったこの夢は今の生活で満たされない物を満たしてくれるため私は眠る時間を少しずつ伸ばしていった。


ある日から母方の実家が空き家になったからそこに住むという内容の夢になった。

私は15年近く行っていないはずのその地の光景を鮮明に夢に見た。

少数の老人しか住んでおらず、すぐ近くに山と海があり、何かを買うためには1時間近く山の中を車で走らなければいけないような田舎。

いつも夢の中では自分の思うように動けていたのに時折山の入り口まで無意識に歩いていってしまうようになった。

まるで何かに引き寄せられるように。


そんな夢を見続けてる間に現実で両親から田舎に一度顔を見せに行こうという話が出た。

盆を過ぎて海にはクラゲが漂い、夕日とひぐらしがどこか切なさを感じさせる。

集落で山に一番近い場所にあった祖父母の家。

それは夢で見ていた光景と全く同じであった。


両親と祖母は姉一家と買い物に行ったので一人縁側で煙草を吸っていると煙が風で乱れた。

敷地の外から見知らぬ声が聞こえた。

若い女の声で子供が山の中の川で溺れている、と。

慌てて山へ駆け出したがふと、幼い頃にも似たような事があったと思い出した。

忘れていたというよりも閉じ込められていた記憶とでも言うのか。

小学校低学年の頃、私は盆に帰省していた。

祖母と両親は買い物に行き、祖父と姉は昼寝をしていた。

そして今と同じように縁側でぼーっとしていた時に複数の子供が縁側にいた男性に向かって今からお祭りが始まるよ、みんないるよ!と声を掛けてきた事を思い出した。

夕日が沈んだ。


山に入り込むほど記憶が戻ってくる。

脳内でこれ以上は進むな。還れなくなる。という警鐘が鳴り響くが足を止める事が出来なかった。

今まで幼少期の記憶が穴が空いたように抜け落ちていた。

それが少しずつ戻ってきているのだ。

気がつくと辺りは薄暗くなっていた。


君は良くない何かに魅入られている。

そのせいできっと死ぬような事故ですら軽傷で済むけど気をつけなさい。と祖父の葬儀の時に住職から言われたのを思い出していた。


声を掛けてきた女が立ち止まったのはいつも家族で墓参りをする場所より更に山奥に入った場所だった。

崩れた鳥居と朽ちてぼろぼろになった社、辛うじて認識出来る程度に風化した墓。

そして月明かりに照らされる女。

男は抜け落ちていた最後の記憶を思い出した。


祭りと言われ着いていこうとした時、幼子のような老人のような、少女のようでもあり青年のようでもある捉えようのない声で「今この集落の若者は君達一家だけだ。在るべき場所へ還りなさい。鈴をあげるから持っていない時は決して山に近付いてはいけない。」と言われた事を。

しかし、その小さな鈴は姪が欲しがっていたのであげてしまっていたのでもう遅い。

雲が月を隠した。

「あれを手放す日をずーっと待っていたよ。」


風が雲を流し、月が見えた時にはその場に誰一人残されていなかった。


後日、警察犬を導入し捜索されるもある地点を境に一切の痕跡が途絶え男性の捜索は打ち切られた。

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