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歌を歌えば  作者: こんち
1/1

何かが起きる

なんだかよく分からないが、この国には不思議な言い伝えが何個かあるらしい。その1つの内容とは、『将来を共にする相手と目と目があった時、自然と分かる』そうだ。とはいえ、あくまでも言い伝え。この国ではそんな言い伝えはなかったものとして、育ってきた。


ーー育ってきたのだが。




この国には、少しばかりの魔法と歌が使われる。魔法は言わずもがな。生活の一部として利用したり、戦うものの武器として利用したりしている。だが、歌は魔法とは少し異なる。

歌は魔法ではない。

この国には魔法が流行る前から歌を歌うという風習があった。舞や踊り、楽器に乗せたりなど様々なものに歌を乗せて歌う。いつしか、それは無意識に人々に癒しと元気を与えるようになった。やがて、先人たちは魔法の力だけで満足するのではなく、それを営利目的として利用するようになった。他国にそれを売り込み、人身売買や交渉の材料として利用した。やがて、人々は歌を歌える人材を意図的に隠すようになった。他国に売られないように、人権を奪われないように。大切に大切に隠し込むようになった。それ故に、いつしか歌を歌える人間は姿を見なくなった。


今となっては、ただの伝説として語り継がれている。唯一、語り継がれている伝承は『再び歌を歌う者が現れた時、混沌を呼び起こし、………』である。




ハクアは、しがない中流貴族の娘であった。しかし、中流貴族の娘ともいえども、よくあるテンプレのパターンで再婚した継母に虐げられる日々。父親は能天気のため相談しようが無駄。それどころか、継母及びその実娘を擁護するばかりであった。

彼女は、一人で森に散策に入るのが好きであった。

自然は好きだ。人間とは違って、ひねくれることもなく、罪を犯すこともなく至って素直だ。その日の天気や環境によって、自然の形は異なる。ハクアはそれを見るのが好きだった。雨の日の後のぽつぽつと雨が葉から落ちるのをずっと眺め、時には夕立に振られ急いで家に戻るなど、ある意味おてんばでもあった。

そんな彼女は、一人今日もまた森に降り立つ。

そして彼女は、一人今日もまた歌を歌う。

決して誰にも聞かれぬように。誰にも聞こえることのないように。大切に大切に隠しているのだ。



「……ん?」


一人寂しく歌い終えたハクアは、森から帰る道中、倒れている生き物を見かけた。倒れているとはいえ、軽々しく近づくのもはばかられたが、生き物が大好きな彼女にとっては近づく以外の選択肢は無かった。

そっと近づいていると、そこには黒い狼が倒れていた。大人の狼なのか、体格も大きく肉付きもとても良い。気を失っているのか、ぴくりとも動かず、目を開ける様子がない。

どこか傷ついているのかと体を見るも、見る限りそのような様子はない。どうしようかと思い、そのまま狼の方をガン見していた時、ぱちり。と目が開いた。


「…お」


狼は肉食系動物。しかも野良の場合はすぐに逃げた方が良い。そのため、目を開けたので急いでこの場から立ち去ろうと思ったのだが、


(え?)


この感覚はなんだ。生まれて初めて感じる訳が分からないこの感覚。まるで何かに吸い寄せられるかのように、ハクアの目は目の前の狼から目が離せなかった。

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