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 結局、土居は僕の部屋に上がり込んだ。もちろん彼女が自分で上がってきたのではなく、義姉さんが招いたのだ。

 制服を脱ぐこともなく布団に包まる僕を見た義姉さんは、僕たちの間に何かがあったのを察しただろうに、ここでは僕を突き放した。

 いいや、背中を押そうとした。と言う方が正しいのかもしれない。僕には預かりしないものではあるけれど、義姉さんがそういった人であるのは知っていた。


 布団越しに僕の頭を撫でて、義姉さんは言った。


「適当に蹴れば起きると思うから」

「いえ、それは……」

「家の前でずっと立ってるよりはマシでしょ?なんなら、ヤっちゃっても黙っててあげるよ?さ、一緒の布団に入るか蹴り起こすか選んで」


 土居は終始困っていた。そりゃそうだ。僕も義姉さんがこんな冗談を言うとは思ってもいなかった。

 やがて義姉さんが部屋から出て行ったのだろう音がして、土居が部屋の中を歩く音だけが聞こえてくる。


「ごめんね」彼女の声は届いている。

 だけど、それは僕が言うべき言葉ではないのか。誰も、答えを教えてはくれない。


 僕が何も言わないものだから、彼女は困ったのだろう。おそらくは右往左往して、そして、僕の携帯を見つけた。


「野根くんも携帯持ってたんだ……。さっきはごめん、私、あなたのこと何も知らないから…………、喋れないのも何か理由があるんだよね。私と、話してほしいの」


 彼女の驚きの理由も分かる。同級生たち、水川や滝本なんかは携帯を持っていないから、携帯を持っているだけでびっくりできるのだ。そして都会から転校してきた彼女もまた、携帯を持っている。そういう話を聞いたことがある。

 転校生は携帯を持っているのだ、と。


「メールアドレス教えてよ。お話しできるアプリが入ってるなら、それでもいいし」


 僕は布団から顔だけを出して、携帯を取るために立ち上がった。

「布団からは出ないんだね」という彼女の苦笑いは、努めて無視することにした。

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