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06.レベルカンスト状態の高校球児

 ここで主人公の能力が判明します。


 お楽しみ頂ければ幸いです。

「こっちだ、グズグズするんじゃないよ」



 カワズニーが彼女の後ろを歩く俺に声をかけてズンズンと廊下を歩く。


 俺たち転移者四人はドラフト会議の結果に則り、魔導国家ジャパポネーゼに赴いていた。そしてそれぞれに担当が付けられて早速俺たちの能力を測定すると言うのだ。


 俺はふと疑問に思ったことを先を急ぐカワズニーに問いかけた。



「あのさ、聞いて良い?」

「……アンタら転移者のアタリハズレの事かい?」



 カワズニーは俺の疑問を即座に救い上げて無機質に言葉を返してきた。


 そう、異世界人は俺たち転移者が強力な才能を有する可能性があるからと言う理由であんな形だけとは言えドラフト会議を開催していたのだ。


 『可能性がある』と言う非常に曖昧な確率であんな催しをするのかと俺はやはり疑問を感じていた訳だ。


 最初から能力を測定出来るならば、測定してから転移者を選べば良いのにと俺は疑問をその点が腑に落ちないと言う訳だ。



 そんな俺の疑問にカワズニーは急ぐように歩を早めながら淡々と教えてくれた。



「アンタら転移者の能力はこっちの世界の空気に馴染んでから発動するのよ。個人差はあるけどおおよそ一日、そうやって才能が目覚めって話よ」

「つまり今から実施する測定ってのは能力自体を測るものであって才能の有無は測れない、そう言うこと?」

「アンタ、落ちこぼれの割に察しが良いわね。バカだけどバカじゃないんだ?」

「なんだよそれ、ひっでえなあ」

「因みに転移者の能力ってのはね魔導に近いのよ、だから測定は魔導国家のウチでしか出来ないわ。これは国家の重要機密だから他国に絶対に漏らさないで頂戴ね」



 カワズニーは何の前触れもなく動きを止めて振り返りざまにそう俺に告げてきた。


 ビシッと指で俺を差して国家機密を惜しげもなく転移者の俺に教えてきたのだ。



 彼女は帰国するなり着替えて今はまるで科学者のように白衣に着替えていた。


 俺の質問に答えて、それを終えると再び前を向いて両手を白衣のポケットに仕舞う。


 そしてズンズンと廊下を歩き出す。


 彼女には迷いがないように見える、目的に忠実でそのためならば何だってする。


 俺にはカワズニーがそう言った類の人間に見えてならないのだ。


 そう言った人間は誰もが他人の迷惑など考えない。考えようと努力すらしない。



 だがそれでも彼女は俺たちの恩人に思えるのだ。


 他の三カ国は俺たちをただの道具としてしか見ておらず、もしも選ばれていたならばどんな扱いを受けただろうかと考えてしまうのだ。



 カワズニーも俺たちを利用する気なのだろうが、それでも彼女は俺たち四人を人間として接してくれる。必要だと口にしてくれるのだ。


 日本で落ちこぼれだった俺たちはあっちの世界にいても誰にも必要とされない、それは異世界に転移しても変わらなかった。




 だが彼女は違う。




 言い過ぎだろうか、俺にはカワズニーが女神に見えて仕方がないのだ。彼女の外見的な美しさも相まって俺にはそう思えてならないのだ。



「あ、言っとくけど私マッドサイエンティストだから。覚悟しなさいよね」

「……何の人体実験するつもり?」

「私のオリジナル魔法は他人の才能を見抜く」



 あ、俺の質問がスルーされた。本当にこれから俺は何をされちゃうの!?



「オリジナル魔法ねえ、凄さが良く分からん」

「常人なら一つの魔法を開発するのに何年も理論を構築しないといけないところを私は一ヶ月で出来るわ。敬いなさい」

「で、その魔法がどうしたって?」

「つまり私だけがあの会議の場で転移者の才能の有無

を知ることが出来るって話よ」

「ほほー、それはつまり俺たちに既に能力があるって保証してるわけね」



 そして会議でハイエニスタが口にしていた前々回のジャパポネーゼのアタリは偶然では無かったと言いたい訳ね。どうやらこの子はとても出来る女らしい。


 俺たち四人の落ちこぼれに凄い才能があると太鼓判を押してくれた訳だ。


 俺は思わずガッツポーズをして彼女の後をついて行く。



 そんな俺にカワズニーは呆れたようにため息を吐いて「アタリってのはハズレでもあるんだから浮かれるんじゃないっての」と釘を刺してきた。



 だが俺は確信していた。



 この子について行けば俺たちは何者かにはなれると、己の詰んでいた人生を意味のあるものと出来ると歓喜しているのだ。


 この感情はおそらく他の三バカも同様に感じ取っているだろうと俺は喜びに打ち震えて廊下を歩く。



 そんな俺にカワズニーは目的地に到着したと言ってきた。



 そこは全面白で覆われた空間で、野球の練習設備が整った場所だった。ドアを潜り抜けて行くと自動で部屋が閉まり、俺とカワズニーの二人きりになる。



 そして彼女は大袈裟なジェスチャーを取りながら振り返ると両手をポケットから取り出してこの部屋の意味を教えてくれた。


 どうやら彼女は俺が元高校球児だと言うことを知っているらしいな。


 俺は彼女の説明に耳を傾けながらキョロキョロと部屋を見回していった。



「ここでアンタの能力を測定する。それはさっきも言ったわね?」

「で、俺は何をすれば良いの?」

「野球……だっけ? アンタの世界のスポーツ」

「うん、そう。合ってる」

「それをここでやって貰うわ。バットを振って守備練習をして、そして走塁を見せて貰うから。アンタのボジションは?」

「内野手、ショートがメインのユーティリティプレイヤーだ」



 高校野球は守備が優先される。


 それは当然ながら監督の采配やチーム作りに左右されるため、余程も強打者や打率を残せる好打者ならば多少は目を瞑ってくれることもある。


 プラスがマイナスを上回ればその計算も成り立つと言うものだ。


 だが高校野球は公式試合は全てトーナメント戦、悲しいかな監督は勝ち上がるためにマイナスを嫌う。


 そして俺が一軍に這い上がれなかった理由はそれに起因するのだ。


 俺は好打者、そこそこのパンチ力を有した粘って相手ピッチャーを疲弊させるタイプ。



 そして守備が最底辺の最も監督が嫌うタイプの選手だった。ユーティリティになったのだって何とか守備を誤魔化そうとした結果であり、俺は散々にコンバートの指示を受けてきたのだ。



 そしてその度に俺は監督から「高校野球にDH(指名打者制)は無いんだぞ?」と嫌味を言われてきた。



 俺は甲子園を目指してバットを振ってきた、それがまさか異世界で大量破壊兵器の才能を望むだなんて思いもしなかった。


 これが世界を股にかけたデュアルユースかと辟易するも、そんな俺にカワズニーは本当にケツを蹴り上げて催促をしてきた。



 痛えな、カワズニーも彼女の立場は理解するけど俺を使ってリアルに『ケツバット』をしないで欲しい。



 俺は仕方がないなとため息交じりに準備された道具の中からバットを選ぶ。


 そしてカワズニーの手招きに応じて準備されたバッターボックスに入って構えを取った。


 目の前にはピッチャーは立っていない。有るのは一台のピッチングマシーン。


 完全なる非公式試合、異世界に転移して来たのだと俺は今更ながらに思い知る。


 そう言った己の現状を心の中に落とし込んで俺は目を瞑って精神を統一させていった。そしてカワズニーの合図と共にバットを振った。


 俺は理解した、やっと理解できたのだ、己が異世界に転移して来たと。目の前で起こった事実にこれでもかとばかりに目を見開いて驚愕しながら歓喜に震えていたのだ。



「やれ、力の限り振り抜きなさい」

「うおりゃあああああああ!!」



 俺のバットを振り続けた高校生活三年間は無駄じゃなかったんだ!!



「アンタ、やるじゃない。ただの金属バットで山一つぶった斬っちゃたわ」



 俺は手が震えていた。


 そうれはそうだ、俺のスイングが準備された野球の練習設備をぶった斬ってそのまま建物の隣にあった山をも切断していたのだ。


 そんな恐ろしいことが己の手で行われた事実に俺はサッと青ざめるも肝心のカワズニーはケラケラと笑い飛ばすのみ。



 俺は青ざめた表情のまま彼女を凝視すると「何よ? もしかして今更恐ろしくなった訳?」と見た目相応に頬を膨らませていた。


 だけど仕方ないじゃないか、俺はただの高校球児だった訳で、こんなことを望んで素振りを続けた訳じゃない。


 とは言えまずは実験成功とカワズニーは上機嫌のままパチパチと手を叩きながら俺に賛辞を送ってくれる。そして彼女の口から俺に何が起こったのか、それを知ることとなった。



「アンタが続けた野球の練習、それがこの世界で華開いたのよ。もっと喜びなさい」

「これが……これが俺の努力の結果だって言うのか?」

「こっちの世界じゃねレベルって概念が存在するってわけ。アンタの長年の努力が一気にアンタ自身を底上げしたってことさね」




 どうやら俺は異世界でレベルがカンストしていたようです。

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