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05.逆指名成功

 ドラフト会議がようやく終わり、異世界転移の始まりです。

「ジャパポネーゼは我がジャーマニカに莫大な借入金があることを忘れているのではあるまいな!?」



 禿頭のカンはお冠だった。



 大国の代表ともあろう人物が怒りを隠そうともせずに、カワズニーに怒鳴り付ける。もはや収拾が不可能とも取れるほどに場の空気は荒れ狂っている。



 だがそんな中でカワズニーは終始余裕を見せつけて、対応していく。


 大国相手から今度は経済戦争を吹っかけられている訳だが、彼女は顔を右手で隠しその手を退けた時には鬼の形相となっていた。


 その彼女の威圧にカンは一瞬だけたじろいだ様子を見せて「うっ」と声を漏らしていた。


 そしてカワズニーは吐き捨てるように脅し文句を口にしていた。



「……この私を誰だと思ってるんだい? 『厄災』の魔導士、ナオミ・カワズニーだよ?」

「だからどうしたと言うのかね!?」

「アンタ、自分の命が惜しく無いのかい? このドラフト会議は従者を引き連れず、裸一貫で参加するもんだろう?」

「なっ……に?」

「私は世界最強の魔導士だよ? 本気を出せばたった八人なんてゴミ掃除にもならないね」



 おいおい!! 八人って勝手に俺たちすらも巻き込んでるみたいな発言しないでくれないかな!!



 俺はもしかして人選を誤ったのだろうか。


 そう不安を抱くと三バカも同じ思いだったようで全員が高速で手を振って「俺に責任はないからな」と言う意思表示をしてくる。だけどこの状況下で誰の責任かなんて関係ないだろうに。



 俺もカワズニーとカンのやり取りを固唾を飲んで見守るしかなく、僅かに一歩だけ後退して逃げる準備をした。


 するとそんな俺の態度が目に入ったのだろう、カワズニーは一瞬だけ俺に視線を送って「黙って見てな」と釘を刺してくる。


 その行動に俺は逃げることを諦めてコクコクと首を振ってカワズニーに分かったと己の意思と伝えた。だけど本当に大丈夫かな?



「貴様っ!! それこそこの会議の存在意義の象徴じゃないのかね!? 各国暗黙の了解のもとに協力関係を築く、それが国家の要職につく人間と言うものだろうが!!」

「アンタ、ウチの国をコケにしたよね? それも要職につく人間のあるまじき発言なのかい?」

「それは貴様が……!!」

「そもそもだ、このドラフト会議は我ら四カ国と日本政府、五カ国の合意で行われているんだ。だったらそこの異世界人だって日本政府の代表だろう? 会議に参加しなきゃおかしいよね?」



 カワズニーは親指で俺たち四人を差しながらカンへの威圧をこれでもかと言わんばかりに強めていった。やべえな、この人って思った以上に狂犬だったらしい。


 そう気付くと俺の背中に冷や汗が洪水の如く滴り落ちていく。



「そんなものは詭弁だろうがね!! ただの建前を偉そうに語るな!!」

「じゃあアンタのほざいた会議の存在意義の象徴とやらも建前だね、この場で全員殺してやるよ」



 カワズニーの放つ殺気が一気の増大していった。


 すると同時に部屋の床に巨大な魔法陣のようなものが現れて怪しげに光を放つ。


 その光は俺たち四人が異世界に放り込まれた時に突きつけられた銃口など可愛げがあるとしか思えないほどに強大な力を感じることが出来た。



 するとカンはついにカワズニーの脅しに屈して腰を抜かしていまう。そして「ひっ、ひい!!」と悲鳴を上げて見苦しく後退りをしていた。



 そんなカンにカワズニーは見下しながら一歩ずつ近付いてわざとらしく手のひらを伸ばす。


 これから魔法を放つ、と言う覚悟がカワズニーの表情から伝わってくるようだった。



 そんな殺伐とした空気に一石を投じたのはインテリ気取りのメガネ、エスパーニュアスのハイニエスタだった。


 先ほどカンと同様にジャパポネーゼをコケにした男が「はあああ」と盛大にため息を吐いて「もう茶番はよせ」とカワズニーに待ったをかけたのだ。


 

 カワズニーはその言葉に反応するも、魔法陣はそのままにしてゆっくりとハイエニスタを睨み付けていた。


 俺はこのやり取りの終着点がどこにあるのか、全く見当が付かずにハラハラとしながらまたしても固唾を飲んでいた。


 ハイエニスタは腕を組んでからゆっくりと念押しをするようにカワズニーに問いかけていった。



「確かにお前に魔法を使われては俺もタダでは済まん。だが、それが貴国にとっての正解なのかい?」

「そんなこまっしゃくれた建前なんてどうでも良いんだよ、私は」

「これまで八人の異世界人がドラフトにかけられた。そのうちの何人がスキルを発動したのかな? 前々回、運よく貴国が一人当たりを引いたようだが、そんな大博打のために我らを敵に回すのかい?」

「私は大穴が大好きなのさ、それにここで最強の戦士のアンタと最高の戦士のセレソンを同時に始末出来ればウチの国としては万々歳さね」




 なんかもの凄いことになってきたな。


 ここまで場が荒れるのは想定外だ、俺はもっと軽めの空気を望んでいたのにカワズニーはトコトンまでやる女だったようだ。


 「そう来るか……」とか「その手があったか」みたいな少しだけ裏をかいてくれれば良かったのにカワズニーは完全にお偉いさん三人を脅している。


 ついに俺と三バカは誰かが「集合」と小さく口にした掛け声で球児お得意の円陣を組んでゴソゴソと相談を開始していた。


 ああしようとかこうしようとか、意見を出し合うも所詮はバカの集まりだけに妙案が浮かばない。


 するとそんな俺たちを置き去りにして異世界のお偉いさん四人は一気に荒れた空気を整え出していった。ハイエニスタの一言でカワズニーは納得したようで魔法陣を解除したのだ。



「……セレソン、お前はどうなんだい? 俺はカワズニーの脅しに屈しようと思う」

「しょうがねえなあ、俺も屈してやるからさっさと魔法陣を解きやがれ」

「交渉成立だね。じゃあこの異世界人四人は私が貰い受ける、……良いね?」



 カワズニーは途端に満面の笑みを浮かべて魔法陣を解くと踵を返して俺たち四人の歩み寄ってきた。そして小柄な体躯故に下から手を差し伸べてきて握手を求めてきたのだ。



 するとその見た目にピッタリのはにかんだ様子で俺たちに歓迎の言葉を口にしてくれた。


 こうして俺たち四人はどこの国に属するか、それが決定したわけだ。



 命懸けの逆指名成功だ。



 俺たちとの交渉権を確保したのは魔導国家ジャパポネーゼ、俺は転移者を代表してカワズニーの握手に答えるのだった。



「ようこそ、歓迎しよう」



 俺たちはカワズニーに一抹の不安を感じながらジャパポネーゼに赴くのだった。


◆2021年度異世界ドラフト結果

●魔導国家ジャパポネーゼ

・ドラフト一位 平仮名を読めるバカ (大阪府  BL学園    投手)

・同   二位 平仮名を読めないバカ(青森県  特盛山田   マネージャー)

・同   三位 平仮名を書けないバカ(宮城県  作業台育英  捕手)

・同   四位 新浦和良      (神奈川県 日大最高   内野手)

・以下該当者なし

・育成枠該当者なし

・テスト生該当者なし


●他三ヶ国 交渉権破棄

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