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45.人生初ホームラン

 ついに同期ドラフトとの戦いに決着が付きます。最後までお付き合い頂いて恐縮でした。あと一話だけ大団円がありますので、そこまでお付き合い頂ければ幸いです。

 カワズニーとワンバックが上空で魔法合戦を繰り広げる。


 俺は空を見上げるように、二人の激突を眺めていた。するとふと一つの気配が近寄ってくることに気付く。



 言うまでもない、祐輔だ。



 俺は視線を落としてどうしようもないほどに怒りを震わせる祐輔に視線を向けた。そして彼にゆっくりと話しかけていった。


 すると祐輔は狙ったようなタイミングでピタリと足を止めて俺に言葉を返してくる。



「俺たちも決着を付けよう」

「せやな、せやけどこっからは俺の得意分野で行かせてもらうで」

「ピッチングか」



 祐輔は敢えて今の場所で足を止めたのだ。分かる、高校球児だったら誰もが即座に理解出来る距離で祐輔は止まったのだ。




 18.44メートル。




 マウンドとホームベースの距離を取って祐輔は怒りを力に変えてボールを握り締めながら俺を睨みつけていた。祐輔の必殺技は『七色爆弾変化球ドリームブレーキングボム』、数種類の変化球を同時に敵に投げ込むとんでもないものだ。



 だから祐輔がそれを使うなら手には七個のボールが握られている筈だ。だが祐輔は一個のボールを握りしめてマウンドに立っていた。



 これは彼なりの決意なのだろう。



 俺はそれに気付いて「ふー」と息を吐きながら呼吸を整えてバッティングフォームを取っていた。ここ異世界でまさかピッチャーと一対一を経験することになろうとは。



 それも相手は俺の友達。



 祐輔とは色々あったけど、それでも未だに俺はコイツを友達だと思っている。だから俺は負けられない、絶対に勝ってコイツに正気を取り戻すんだ!!



 とは言えその役割はカワズニーに預けているのだが。



 カワズニーは記憶を塗り替える魔法、それを特には術者を打倒しなければならないと言っていた。だから俺が出来るのはカワズニーの勝利を信じて、そのために祐輔を無力化すること。



 俺は準備万端だとピッチャーに目線で伝えると、彼はまるでキャッチャーとサイン交換をしたかのように首を縦に振って大きく振りかぶっていった。




 祐輔は変化球ピッチャーだ。




 コイツがBL学園の一軍に昇格出来なかった理由は、制球力、つまりコントロールの欠如。祐輔は多彩な変化球を持ちながらそれらのコントロールが出来ないノーコンピッチャーだったのだ。



 だがそれでも一つだけ祐輔には武器があった。


 それがストレート、最高速度148キロ、平均141キロの名門野球部の中ではごくごく平凡なストレート。


 だが俺は確信していた。コイツは絶対に俺にストレートを放り込んで来る筈だ。俺もストレートは大好物だから掛かってこいと祐輔を睨み返してただただボールを待っていた。



 ゆっくりと時間が進んでいく。



 その中で祐輔は俺に向かってお別れだと言わんばかりにジックリと話しかけてきた。



「……ワシもなカワズニーちゃんは本気やったんやで?」

「知ってるよ」

「せやけどそれでもお前は俺の友達や、関係を知った時は素直におめでとー言おうと思ったんや。せやけどどうしてかそれが言えんかった」

「ワンバックか?」

「みたいやな。俺はただ人から必要とされたかった。それだけなんや、寂しくて仕方がなかったんや」



 祐輔は自らのことを淡々と語り出す。投球のモーションに入りながらも、それを語り尽くすまでは投げないと言った決意が彼の目から感じることが出来た。だから俺もそれを察して祐輔の語りに耳を傾けていった。



 祐輔は大阪の名門BL学園の四番手ピッチャーで、正捕手は彼の幼馴染だと言う。仲の良かった幼馴染と甲子園に出場することが夢だったが、祐輔自身は最後まで一軍の昇格すら叶わなかった。


 彼はアルプススタンドから幼馴染の活躍をただただ傍観していることに歯痒さを感じていたのだそうだ。


 どんどんと幼馴染との距離が広がっていく感覚を覚えて彼はいつからか自らが誰にも必要とされていないのでは? と思い込むようになった。


 手の届かない場所にいる幼馴染はついに甲子園の優勝を勝ち取ってしまう。彼は幼馴染だけでなく母校の優勝さえも素直に喜べず、苦悩の日々を送ったと語ってきた。



 だから異世界でドラフト一位になって自分が必要とされていると思えるようになり、俺や他の転移者たちとも絆を深めて、その想いは盤石となっていった。




 そこに来ての記憶の塗り替え事件。




 俺はコイツをどこまでのいい奴で、明るいやつだと思っていた。だがコイツにも心の闇は存在して、俺はそれに気付けなかった。


 ただ歯痒さが俺に襲いかかってくる。


 だったら俺はこいつの全力投球を真っ向勝負で向き合って本田祐輔と言う存在を受け入れようと思う。俺は目でそれを伝えると祐輔はようやく振り上げた腕を振り抜いて俺に向かってストレートを投げ込んできた。



 俺は一本足打法でリズムを取ってバットを振り向いていった。





 カキーーーーーーーーーン!!





 俺のバットが祐輔の渾身のストレートをジャストミートしてライナー性の当たりを生み出していた。ボールはグングンと勢いを増してまるでホームランでも撃ったかのような勢いとなって祐輔に帰って行く。



 俺の人生初ホームランもまた友達との勝負から生まれたものだった。



 祐輔は俺の当たりに押されるように遥か遠くにかっ飛ばされていった。彼は憑き物でも取れたかのように清々しい笑みを浮かばせて場外へと姿を消していったのだ。



「逆転満塁ホームラン、あとはカワズニー監督に任せようや」



 俺は全てを出し尽くしてただ地面に倒れ込んでいくのだった。

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