表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/46

42.暗躍する影の正体

 黒幕の影、ついに尻尾を掴みます。

 俺は安藤の死体が先輩と一緒に近くにソッと安置した。


 仲間に受けた傷の回復をして貰うためだ。


 俺は寿人に回復して貰い、クルクルと腕を回して回復を確認すると立ち上がりながら振り返ってピンチに駆けつけてくれた仲間たちに丁寧に頭を下げて感謝の言葉を述べた。



 そして今回の襲撃について俺は思い当たる節が有ったから、それを身振り手振りを交えて仲間たちに確認していった。



 旧ドラフト候補が三人所属した国、安藤が『あの国』と言葉にした国家が俺には目星が付いていたから。俺はこの話をセレソンに切り出す途中で、襲撃に遭いここに駆けつけていた。


 そして奇しくも寿人に雅史もまた各国で同じ情報を掴んできたようで俺の話に乗っかるように強く首を縦に振ってくる。



「実験国家ニュージニア、この国が一連の事件の黒幕だと思う」



 セレソンとハイエニスタは俺の発言に大きく目を見開く様子を見せていた。この二人の様子は驚いた、と言うよりも思い出したと言った方が正しい表現だと思う。


 そしてセレソンはウンウンと数回唸りながら、何かに自己解決したようで俺の言葉を肯定してきた。



「間違いなかろう。と言うよりも奴らしかいないとも思える」

「ロマーリアの文献を読み漁って気付いたんですけど、この国って過去に三大大国に制裁を受けてますよね? それと同時期にジャパポネーゼの国力が一気に低下してる」



 俺はロマーリオの図書館で見た書物にニュージニアと言う小国がロマーリオからは軍事制裁を、エスパーニュアスからは貿易の恩恵待遇撤廃、ジャーマニカからは経済的制裁を受けたと記載があった。



 そして同時期にジャパポネーゼの国力が一気に百分の一にまで落ち込んでだと記載されていたのだ。その時期、今から760年前。カワズニーが17歳の時だ。


 俺はカワズニーの指示通りに客観的な視点で歴史を見て思ったことは、どう考えてもこのニュージニアへの制裁とジャパポネーゼの衰退が偶然で重なったとは思えなかった。


 歴史書を見ればその三年前に異世界に国家が乱立し始めて、その当時はジャパポネーゼの一大国家体制でその下を現在の三大大国が脇を固めていた。



 だがその僅か三年後に状況が一変する。



 ジャパポネーゼでは女王だったカワズニーが王位を退いて、どう言う訳か魔導大臣に着任したのだ。そして件のニュージニアは三大国家からある条約締結を迫られた。



 それは魔法軍縮条約、一切の魔法実験を禁ずると言うものだった。



 俺はその真意を知りたくてセレソンに視線を向けるも、そのセレソンは「ちょっと待て」とだけ言って難しい表情になって何かを考え込み始めていった。


 そして俺の疑問の答えは別の人物から聞くことになった。



 ハイエニスタだ、彼は捨てた眼鏡を拾っていつもの通りに丁寧に眼鏡が落ちないようにと持ち上げながら口を開いていった。彼は頭部を掻く仕草を見せながら「どう話せばいいものか」と困ったように口を開いていった。



「簡単に言うとだなニュージニアは魔法実験に失敗したのだよ。そしてその尻拭いをしたのがジャパポネーゼ、当時まだ女王だったカワズニーだ」

「魔法実験? それってカワズニーがやらかしたんじゃないの?」

「そう言う風にわざと広めたのだよ。カワズニーの指示でな」



 ハイエニスタが言うにはニュージニアもまた現在の三大国家と同様にカワズニーの高弟の一人が興した国家だったそうだ。その祖を合わせてカワズニーの高弟たちを四賢者と呼んだのだと言う。



 問題はニュージニアの祖がとある魔法の開発に踏み出したことから端を発するそうだ。その魔法は『永遠の命を得る魔法』。


 その魔法は多くに犠牲の上に成り立つものだったらしく、カワズニーを始めとする他の高弟らから非難されることになった。だがニュージニアの祖はそれでも魔法の開発を中止しようとせず、ついに魔法開発の儀式を強行する。



 魔法の開発とは魔法陣を描いてその中で構築した理論を練り上げるらしいのだが、その魔法の場合は生贄を大量に必要としたそうで、これが非難を浴びた理由らしい。



 その狂気の儀式を阻止すべくカワズニーは強硬手段で儀式に介入をした。だがその結果、魔法が暴走してしまい大半の魔力をカワズニーが一身に浴びることとなり、それ以来彼女は一生涯歳を取らない体質になってしまったのだそうだ。



 そう言った経緯からニュージニアは魔法軍縮条約を強要された。



 そしてカワズニーは弟子の暴走に責任を感じて一線を退くことを決意して、ジャパポネーゼは衰退していった。そこから今の三大国家が形作られて現在に至るのだ。


 ハイエニスタは全てを説明してドッと疲れたように大きく息を吸うと、長く息を吐いてから再び語り出した。



「あの国は我ら三大大国の中でもロマーリオを特に恨んでいた。軍事制裁と言う直接的な打撃を受けた事実を忘れていなかったのだろう、後は地理的な問題か」

「ニュージニアはロマーリオから遠く離れた土地だ、ある意味でコソコソとやるには都合が良かったのだろうよ。ゲート魔法なんて大袈裟な魔法を使うとあっては尚更な」



 ハイエニスタの語りにセレソンはしてやられたと言わんばかりに肩をすくめて状況の補足をしてくれた。だが彼も本当は悔しいのだろう、それはよく分かる。


 何しろセレソンは戯けた様子を見せながらも目が殺気立っているのだから。そして彼の怒りを長い付き合いだからかハイエニスタも同調しながらまたしても口を開いていった。



「ニュージニアはカワズニーへの復讐が本当の目的だろうがね。だがジャパポネーゼは彼女の結界魔法で守りは完璧、つまり今回のセレソンに対する記憶云々の件も含めて……」

「ああ、カワズニーをジャパポネーゼから引っ張り出すことが狙いだろうな。ハイエニスタ、カワズニーには?」

「いの一番に知らせたよ。彼女は戦闘準備を整えてからこちらに向かうと言っていがね」



 セレソンとハイエニスタはスラスラと状況を整理していく。この状況にもはや俺たち転移者三人は口を挟む余地もなかった。


 だが俺はふと疑問に感じたことがあって、ハイエニスタに問いかけた。どうしても辻褄が合わない部分がある。と言うよりも絶対に不可能だと思われることが疑問として残ったのだ。


 俺が真剣な目でハイエニスタに目を向けると彼は「どうしたのかね?」と呟いて俺の言葉に耳を傾けてくれた。



「ハイエニスタ海軍元帥殿、ニュージニアは魔法軍縮条約で大規模な魔法が使えいないんですよね?」

「……ふむ、その件か」

「記憶を塗り替える魔法もゲート魔法もどちらも大規模なものなのに、どうしてニュージニアは使えたんでしょうか?」

「転移者だろうね」



 ハイエニスタは気を失った旧ドラフト候補の三人に視線を落として『転移者』の指す人物が誰なのかを俺に教えてくれた。彼によれば転移者の能力は魔法と近しい、これは俺も以前にカワズニーから教えて貰ったことだ。


 だがそう言った性質の近似する力を持ったものを媒体とすることでより簡易的に魔法を行使したのだろうと言う。つまり記憶を塗り替える魔法は低原を、ゲート魔法は安藤をそれぞれ媒体としたからこそ成立するものと言う結論に至るのだとハイエニスタは教えてくれた。



 そしてその理論を構築するにも膨大な生贄が必要だそうで、そうなればニュージニアには更に多くの転移者がいるだろうとハイエニスタは更に予測を立てていった。




 俺にはその生贄に心当たりがあった。




 先輩だ、先輩は間違いなくニュージニアで魔法の理論構築に利用されて、用済みとなったから野に放たれたのだ。



 そしてあわよくばカワズニーを殺す道具として彼女と出会ったら殺すように記憶をすり替えた。


 俺は怒りで頭がどうにかなりそうだった。


 今回の黒幕は他人を都合の良い道具としか見ていない、俺にはそう思てならなかった。フツフツと心の奥から怒りが湧き上がってくる。



 俺は今、どんな表情をしているのだろう?



 寿人と雅史が俺を見てポンと肩に手を置いてきた。二人は分かっているのだ、俺が何に怒りを感じているのかをよく知っているのだ。




 そう、俺にはもう一人だけ心当たりがあったのだ。記憶を塗り替えられて操られて、そして生贄に使われたであろう人間を。




 俺はソイツの顔を思い出して今回の黒幕だけは絶対に許せないと思い始めていた。




 そんな時だった。




 遠くからソイツの声が俺の耳に届く。どうやら今回の黒幕はトコトンいけ好かないやつだったようだ。黒幕は何処までも俺をコケにすれば気が済むのか。


 そして俺だけではない、寿人に雅史。俺たち三人はよく知る声のする方を一斉に睨みつけて近づく気配を牽制した。



「よお、久しぶりやな」



 俺たち三人が視線を向けた先には俺たちと同世代のドラフト候補の一位、本田祐輔の姿があったのだ。そしてその後ろには見るからに魔導士と言った風貌の女がいる、コイツが今回の黒幕で間違いないだろう。


 そしてやはりと言うべきか。


 旧ドラフト候補たちは俺をドラフト四位と言い切った理由はやはりコイツか。



 俺はそう直感して人を殺さんとばかりに睨み付けると、後ろからセレソンがそいつの正体をソッと教えてくれたのだ。



「アイツはカワズニーと同じく魔法の暴走事件で歳を取らない体質となった女。カワズニー門下の高弟にして四賢者の一人、アジャー・ワンバックだ」



 今回の事件の黒幕はカワズニーと同じく777歳にも関わらず、同じく彼女と同様にロリッ娘の外見をした魔導士だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ