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38.マネージメントはきめ細かに

 五番打者と世界最強の戦士のバトル、佳境です。ですが、何かを忘れていませんか?

「おお……、おおおおおお!!」

「ゴリラが、騒がしくしないで欲しいね?」

「貴様は俺を受け止めてくれるのか!?」



 久保は戦闘中にも関わらず全身を歓喜で震わせて大粒の涙を流していた。純粋な、ただ純粋な悲願の涙。


 俺はその涙を見て思わず先輩の言葉を思い出していた。



『お前が俺の球をキャッチしてくれたから、だから俺は高校生活を我慢出来たんだ』



 人とは自らが積み上げてきた努力が報われたと感じれるだけで、ここまで歓喜出来るのだ。久保は己の誇るパワーを受け止めてくれる相手を得たことで大泣きするほどに喜びを噛み締めている。



 これはある意味で高校球児ならば誰もが分かる感情だと思う。自身暗鬼に陥りながらも一日も欠かさず素振りを繰り返した俺もそうだったから。


 その素振りが未来に繋がってくれと、願いながら俺はバットを振り続けた。



 だからこそ分かる。



 久保の涙はそれほどまでに重い、だが対するハイエニスタは至って涼しげだった。この戦闘で何度目か、もはや数え切れないほどのため息を吐いた彼はここに来て深く大きいため息を吐いてから久保を視線で射抜きながら口を開いていった。



「早く掛かってきて欲しいものだね、とにかく時間がない。それともコチラから仕掛けた方が良いのかね?」

「スピードにパワー!! 両方を極めた男と戦えるとは、俺は運が良い!!」

「どうするのかね?」

「俺から行こう!! 最高のスイングで最高のパワーをお見せする、貴様に真正面から挑ませて貰う!!」



 久保の纏う空気が急変する、深く息を吐いて呼吸を整えた久保は決め球を絞った打者のように覚悟を決めた表情になっていた。流石は全国区の超名門でクリーンナップを担っただけのことはある。


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。久保は間違いなくこれまでで一番のフルスイングをしてくるだろう。バットのヘッドを高々と上げたバッティングフォームが彼の強打者としての脅威を見せつけてくる。


 となればこれまで同様に土を撒き散らして弾丸ライナーを放ってくるのは明白だった。そしてそれは如何にパワーを解放したハイエニスタとてまともに喰らうのはマズい。


 対するハイエニスタは先ほどまでのフットワークを捨ててグッと腰を落として、久保の攻撃を宣言通りに真正面から待ち受ける姿勢を取り始めたのだ。




 大丈夫なのか?




 そして久保は俺の心配を更に加速させる言葉を口にしながら豪快なスイングを披露してきた。もはやメジャークラスなのではと思ってしまうほどのスイングスピードを乗せたバットで凶悪なスイングを決行したのだ。



「ふん、フットワークを捨てて俺の弾丸ライナーを回避出来るのかな?」

「受け止めてやると言っただろう? それとも俺に恥をかかす気かね?」

「そうか、ならば良し!! 俺の本来のバッティングフォームを見せてくれるぞ!!」



 本来のバッティングフォーム、つまりこれまでの彼は全力では無かったのだ。彼はそう言い放ったのだ。


 だがそれは嘘でもハッタリでも無いと俺はすぐに思い知らされることとなったのだ。これまでの久保はあくまでスイングの風圧で地面を抉っていた。それ故にバットの軌道はまるでアウトコースの球を打つようなものだった。



 だが今の久保はバットを地面に当てに行く気だ、バットのスイングがアッパー気味となる。まるでフォークボールでも掬い上げるようにバットをダイレクトに地面へと当てに行ったのだ。



 マズい!!



 俺はそう思って焦りから体を硬直させてしまい、一歩足を後退させていた。


 だが俺の杞憂など浅はかだと言わんばかりにハイエニスタは久保のバットが地面に当たるのを待たずに勝ち誇った表情を浮かばせていた。



 まるでそれを待っていましたと言わんばかりに不敵に微笑んで久保のバッティングを称賛するかのようにパチパチと拍手を送りながら久保に話しかけていたのだ。


 そして俺は忘れていたのだ、仲間だった俺すらも『彼の存在』を忘れていた。どうやらハイエニスタが眼鏡を外してパワーを解放したことの真の狙いは『彼の存在』を久保の意識から外すことだったらしい。




 ドラ2こと塩寿人しお ひさとの存在を。



「おいのこど忘れんなよ!!」



 遠くからそう叫ぶ寿人は腰を落として地面に手を当てていた。そしてその行動が何を意味するかは久保の様子から直ぐに理解することになった。


 久保のバットが地面にインパクトしても土が一切飛び散らないのだ。寧ろガギン!! と鈍い音を立てて渾身のスイングをした久保の方が驚いた表情となる。


 久保はその事実を信じられないとばかりに目を見開いて体を硬直させて身動き一つ取れなくなっていたのだ。どうやら寿人は能力を使ったらしい。


 


 彼のマネージャーとしての能力、『グラウンド整備』だ。




 寿人はマネージャーとして練習の前後でグラウンドの整備を日課としていた。だからこの能力が目覚めたのだろうと言っていた。そしてその効果は地面を綺麗な状態に保つこと。


 一見して戦闘にどう役立てるか判断に難しい能力だが、まさかここに来てその威力を見せつけられるとは。寿人の仲間である俺が彼の能力を見誤ってしまったのだ。



 そんな俺に寿人は気付いたようでニヤリと勝ち誇った表情を向けてくる。



 そしてこれはハイエニスタも事前に把握していたようで、ただただ驚くばかりの久保に向かって悠然と近寄っていく。槍をギュッと握りしめてからゆっくりと構えを取ってこれで決着を付けると意思表示をしながら。



 ハイエニスタは眼鏡を外してインテリの雰囲気が失われて威圧感が増していく。



 そして体を硬直させた久保の前で槍を構えて彼に別れの言葉を残し、トドメを刺すために先ほどと変わらぬスピードを見せつけながら槍を振るい続けた。



「どうかね? お前の全力とやらは意外と軽いと思い知ったかね?」

「まさか!! あんなマネージャー如きに!?」

「塩寿人、良い能力だ」

「それはどうも!!」



 寿人は自慢げに胸を張りながらハイエニスタに言葉を返す。



「ではそろそろ決着と行こうか」

「うっ、うがああああああああああ!!」



 ハイエニスタの槍捌きはもはや目にも止まらぬスピードで久保をザクザクと存分に斬り刻んでは、最後の一振りで解放したパワーを遺憾無く発揮しその巨体を遠くまでかっ飛ばした。


 そして久保は木に激突して気を失ったのかズルズルと地面にずり落ちていく。


 ハイエニスタは槍を振るって血を拭うと気を失った久保に向かって最後の言葉を送るのだった。



「久保松英、お前も良いパワーだった、そのパワーをエスパーニュアスで存分に活かすといい」



 アンドリュー・ハイエニスタ、異世界最強の戦士。


 それはスピードとパワーを極限まで極めた戦士で、あらゆる局面でも揺らぐことのない自信を見せ付けるものだった。



 ハイエニスタは久保を気に入ったようでヘッドハンティングの言葉を送ってから笑顔を向ける寿人と勝利のハイタッチを交わすのだった。

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