表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/46

31.新旧ドラフト候補、合間見える

 ついに最終決戦の幕開けです。


 ここからバトルの連続なのでお付き合い頂ければ幸いです。

「見ーちゃった見ちゃった!!」

「これだから甲子園出場経験なしの雑魚は」


 

 俺は安藤を抱え込んだまま複数の声がする方に視線を向けた。


 そこには全身を野球のユニフォームで包み込んだ男たちが立っていた。確認するまでもない、コイツら全員が転移者なのだろう。


 コイツらは野球のユニフォームを着込んでいるから、それに全員が所持する木製バット。それくらい容易に判断出来る。


 それに安藤を知っている風だから尚のこと推測が立つと言うものだ。


 安藤は即死だった、何かに胸を貫かれたようで自分が死んだことすら気付かずに息を引き取っていた。俺は悔しくて、情けなくて安藤を失った事実を受け入れられなかった。



 そもそも俺はもっと警戒すべきだった。



 セレソンが昨日俺と先輩が戦ったこのポイントを敵の目星と定めた時点でもっと注意深く周囲を警戒しておけば良かったのだ。


 ここを指定したと言うことはセレソンは俺と先輩の戦いを把握していたのだろう。その上で彼はその事実を知りながら俺にここへ向かえと言った。



 こんな偶然があってたまるか。



 セレソンは無言で俺に忠告してくれていたのだ、「何があったは聞かんが充分に注意しろよ」と。



 同一の場所での連日の連戦、これは異常事態以外の何者でもない。俺がもっと気を付けていれば安藤は死なずに済んだのだ。


 俺は己を許せなくなって全身を震わせながらスッと立ち上がった。そして安藤の死を小バカにする三人の転移者に怒りを抑え付けるように丁寧に静かに話しかけた。



「アンタら、転移者か?」

「そだよー、安藤と同じ前回のドラフト候補。因みに俺はドラフト二位、安藤は四位さ」



 三人の中で最も小型な男が軽い口調で俺の質問に答えを返す。コイツ、どこかで見覚えがあるな。


 その彼の後ろには筋骨隆々と言った表現が最も相応しかろうガタイの良い男が腕を組んでため息を吐く。その男は俺が抱き抱える安藤に感情を感じさせない目つきを放って来る。



 コイツら、仲間じゃないのか?



「安藤め、醜態を晒しおって。コレだから雑魚はいかん、このドラフト三位の俺様のように体を鍛え上げないとな!!」



 あのデカイの良い男はポージングをしながら安藤を雑魚と吐き捨てる。


 先ほど安藤の過去を聞いた俺からすれば、許せない言葉だった。球児は夢に向かって、甲子園に向かって努力するもの。


 その努力に貴賎など存在しない。ならば甲子園の出場経験なんて関係ない、球児を語るのに結果なんて無用なのだ。


 それをあのデカ男は否定すると言うのか?


 俺や先輩、それに安藤の努力の日々をバカにするな。俺は怒りを視線に変えてデカ男を睨み付けた。だがデカ男は俺の怒りに何も感じないようで、終始涼しげな様子を見せる。



 寧ろ俺の態度に反応を示したのは三人の中で最後まで無言を貫いた男、長髪をシュシュで纏め上げたイケメン風の男だった。チビがドラフト二位、デカ男が三位ならば必然的にコイツが……。



「おい、雑魚。その腐った雑魚をどこかに捨てて来い」

「アンタらは安藤の仲間じゃないのか?」

「仲間? 仲間ってのはアレか? 対等な立場で意見を言い合える友達の延長上にあるアレか? そのゴミは雇い主を同じくするだけの間柄だ、要らなくなったら捨てれてば良い」

「この……ゴミ野郎が!!」

「ゴミはお前だ、お前もそのゴミに苦戦したんだろう? ……ドラ3、排除しろ」

「承知!!」



 ドラフト三位のデカ男が俺に向かって突進して来た。スピードは決して早くない、だが安藤との戦闘を終えたばかりの俺には対応出来ない動きだった。


 俺は突如の出来事に体が硬直して安藤の死体を守るしか出来なかった。



「そんなゴミを守ってどうする!? やはりドラフト四位はゴミらしいな!!」



 ふと一つだけ疑問を抱いた。



 コイツ、どうして俺をドラフト四位だって知ってるんだ? 俺はコイツらにドラフト順位なんて言ってない筈だ。


 仮に先輩との戦闘の会話を傍受されていても、その時だって俺はドラフト順位のことは口にしていない。


 俺は戦闘には一切関係ない疑問を抱いて完全に初動を遅らせてしまった。そんな俺に向かってドラフト三位はそのガタイを活かすかのようにバットをフルスイングで振り抜いてきた。




「くっ!!」

「四位同士仲良くあの世に行きな!!」




 絶体絶命、俺にどう足掻いても未来の選択権がない状況だった。


 だがそんな中でこそ最上の至福は訪れるもので、俺はそれによって救われることとなった。俺の目の前に一人の男が堂々と背中を見せつける。




 二丁拳銃の男だった。




 彼は軽々とドラフト三位のバットを拳銃で受け止めて背中越しで俺に話しかけてきた。



「俺の無言の助言、しっかりと届いたか?」

「セレソン軍総司令!!」



 なんとロマーリオの司令部に向かった筈のセレソンが俺とドラフト三位の間に割って入って来たのだ。俺は想定外の出来事に目を見開いて驚いてしまった。


 そしてセレソンはそんな俺に呆れた様子で再び話しかけてくる。



「司令部と街の様子が落ち着いたから来てみれば、このザマか? 転移者」

「まさか他に仲間がいると思ってなくて……」

「お前は生粋の軍人じゃない、それは知ってる。だが、どんな物事に対しても最悪の事態は想定しておくんだな」

「おいおいおい!! ロマーリオのお偉いさんがどうしてここに来るんだよ!?」

「セレソンだけではない、こっちも見んかい」



 今度は後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は完全に不意を突かれて、急いで振り返ると何とそこにはハイエニスタが立っていた。


 それだけじゃないドラ2、とドラ3まで一緒にいる。


 俺は思いもよらぬ仲間の援軍に驚きを隠すことが出来ず彼らに叫んでいた。九死に一生を得るとはこのことか。



「ハイエニスタ海軍元帥殿!! それにお前らも、だけどどうして!?」

「……は!! こっちもいるぜえ、俺を仲間外れにすんなよなーーーーー!!」



 今後は別の方角で遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。


 俺はもはや訳が分からずポツンと完全に置いてけぼりを喰らってしまった。



 そんな呆然とする俺にハイエニスタが状況を説明してくれる。「俺もカワズニーに一杯喰わされたよ」と戯けた様子でハイエニスタは呆れたような、それでいて気分が良いとばかりに笑みを零していた。



「俺もセレソンと同様に瞬間移動を極めた人間だ、アイツから状況を共有して貰って参上したのみよ」

「ドラ2とドラ3がいるのもアンタの能力のおかげってことか?」

「そうなのだがね。……あっちは完全にカワズニーにしてやられたよ」

「アッチってデカい声のする方向……」



 ハイエニスタは親指でクイッとデカい声が聞こえる方向を指さして、「騙される方が悪いと言うのはこう言うことだろうな?」と何かに騙されたと言う割には上機嫌な様子で本当に気持ちよさそうにニヤニヤと笑っていた。



 その方向からザッザとゆっくりと、しかし確実に歩み寄る気配を感じる。


 俺はゴクリと固唾を飲んで見つめると、そこには信じられない人物が立っていたのだ。そして、その人物はハイエニスタだけでなくセレソンも顔見知りだったようで「久しぶりだな」と再会の挨拶を口にしていた。




 完全なる想定外だ。


 だが最高の想定外でもある。




 何とそこには俺たち転移者を異世界に送り込んだヤクザの姿があったのだから。彼はニヤニヤと笑いながらバットと拳銃を携えて近付いてくる。


 コレには流石に俺も理解が追いつかずに「どう言うこと!?」と言ってハイエニスタに説明を求めた。



 ハイエニスタが言うにはこのヤクザは俺たちが候補になったドラフト、その二年前にカワズニーが交渉権を得たドラフト候補だと言う。


 二年前、つまり前々回のジャパポネーゼのドラフト一位と言えば能力に目覚めた男。ハイエニスタがドラフト会議の時に言っていた人物なのだ。


 俺だけじゃない、ドラ2もドラ3も全員が唖然となって間抜けヅラを晒してしまった。そして時間が動き出したかと思えば三人で「ええええええ!?」と飛び出さんばかりに目を見開いて驚きの声を飛ばしていた。



 このヤクザ、まさか転移者だったとは!!



 しかも俺たちを目にするなり「してやったり」と言わんばかりに勝ち誇った表情を向けてくる。コイツ、じゃあ最初から確信犯だったてことか!?



「よーーーーーー!! ガキどおおおお、久しぶりじゃねえか!!」

「アンタ、このことを知ってたのか?」

「知らねえよバーーーーーカ!! 俺はカワズニーのババアとの契約でーーーーーー、ずっと協力者として日本にいただけだってんだよ!!」

「……アンタ、拳銃をチラつかせないと喋れないのかよ?」

「拳銃ってのはこう使うんだよ!!」



 ヤクザは俺の言葉を間に受けたようにパンパン!! とまるでオモチャでも扱うように二発の銃弾を空に向かって打っていた。



 だから小学校の徒競走か!!



「で、どうするかね? 2019年度ドラフト一位、中田マルクス」

「ああん? ハイエニスタのおっさんは相変わらず硬えね、カッチカチに硬え」

「俺に二度同じことを言わせないで欲しいのだが?」



 中田は「ああん?」と呟きながらハイエニスタにメンチを切っていた。このヤクザはもう少しだけ状況を理解して欲しいのだけど。



 俺と他の転移者二人は中田の態度にドン引きするだけで何も言えない。だがハイエニスタとセレソンはしっかりとやるべきことを口にしてくれた。



 やはりこの二人はカワズニーが買っているだけのことはある。



「中田マルクス、あの三人を捕らえて今回の一連の事件を解決すべきじゃないのかね?」

「ハイエニスタの言う通り、まずは協力して貰いたいね」



 中田は二人の要請に「めんどくせえ」とボヤくも、それでもクルリと振り返って前回のドラフト上位指名者に対しを睨む。そしてパンと再び拳銃を空に発砲しながら戦う意思を口にするのだった。



「俺はジャパポネーゼ魔導大臣との契約によりーーーーーー!! この異世界の異常事態に対して全面協力を惜しまねえーーーーーーーーー!! チャッチャと悪ガキどもをギャフンと言わせて終いにするぜ!!」

「ギャフンっていつの時代の言葉だよ」



 俺のツッコミは誰に耳にも届くことなく空に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ