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03.異世界ドラフト会議、始まる

 ドラフト会議は喧騒の中で開始します。候補だって黙っていられない、むしろ逆指名だ!!

(4話目も追って投稿します)

「それではこれより2021年度異世界ドラフト会議を開催します!! 今回の司会は軍事国家ロマーリオの軍総司令セレソンが務めさせて頂きまーす」



 甲子園の選手宣誓の如く胸を張って手を伸ばす。


 一人の男が堂々とドラフトの開催を宣言した。何処ぞの社会主義国家の独裁者のように丁寧に軍服を着込んだ男がいる。


 筋骨隆々の男が俺たち四人の姿を見るなりそう言ったのだ。



 そして他に会場にいるのは三人、俺たちと同数の人間が揃っている。



 禿頭の下卑た笑みを浮かばせた男にインテリを気取ったようなメガネの男、そして小柄で滝の如く肩まで美しい金髪を垂れ流した女、いや美少女と言うべきか? とにかくその四人はテーブルを囲って互いを牽制するように腕を組んで椅子に座っている。



 俺は確信した、コイツらが異世界人だと確信したのだ。



 これまで俺が日本で生活をしてきて彼らが放つ類の威圧感を放つ人間は見たことがないから。


 他の国の内戦や裏の世界の住民を見ればもしかしたら或いは、とも思う。


 だがそれを今この場でそれを知る術はない。


 俺たちは見た目だけで判断すればロリッ娘に分類されそうな小柄な女にクイクイと指で手招きされて、吸い込まれるように会場に入って行った。



 そしてそれと同時にドラフト会議は進行を早めていく。



「さてと、ドラフト候補は全員出揃った。では各国一斉に一巡目を選ぶとしましょうか」

「セレソン軍総司令、候補は四人しかいないのだから二巡目はなかろう?」



 メガネの男がニヤリと不気味な笑みを浮かべて司会の男に話しかける。


 セレソンはこの男の性格を把握しているのだろう、そんな不気味な態度にヤレヤレと言った具合に呆れながら首を横に振ってはメガネの男に言葉を返す。



「司会としては交渉権を放棄する可能性を捨てるわけにはいかないでしょう?」

「どうでも良いからさっさと進行せんかい、そんな建前は吹けば飛んでいく紙切れも同然だろうに」



 今度は禿頭の男がメガネへの同調を口にしてドラフトの進行を催促する。


 この四人、そう言えば異世界に入る前に渡された紙に経歴と共に記載があったな。


 俺はそれを思い出してポケットにしまっていた紙を再度開いて確認を始めた。



 まず一人目は異世界最大の軍事国家ロマーリオで軍部を一手にまとめ上げる男、総司令のセレソン。この中で最もまともな見た目と軽そうな態度が目立つ男。



 二人目は禿頭、コイツは異世界きっての経済大国ジャーマニカの筆頭大臣カン。この中で最もめんどくさそうにしているが、四人の中で唯一の文官出身者らしくとにかく肥えた体型をしている。



 三人目はメガネ、コイツは一見してインテリ気取りだがその実は輸出大国エスパーニュアスの海軍元帥ハイエニスタ。異世界の大海原を牛耳る海洋国家の実力者であり個人的な戦力で言えば最強とのこと。



 最後に紅一点、150センチ前後の小柄ながら四人の中で最も威圧感を放つ女性。美しい金髪は見たもの全てを魅了するほどの美貌を誇るも、彼女も実は底知れない実力者で紙っ切の説明によると異世界最強の魔導士らしい。



 ん? 女の年齢が777歳と記載されている。


 あのヤクザめ、こう言う誤字脱字の間違った情報は勘弁してくれよ。彼女はどう見積もっても10代前半だろう?



 しかしまさか。ほへえ、異世界には魔法まで存在するのか。



 俺は強引にここまで引っ張られてきたが、別に異世界に興味がない訳ではない。寧ろ確かに俺は日本にいたところで何も出来やしない。


 野球選手として目が出るとも思えないし、あのままではまともな職さえ見つけられないだろう。


 だから異世界転移を持って俺は生まれ変わると心に決めていた。


 既に決意しているのだ。


 そして他の三人もそれは同様らしく、俺と同じ顔付きになっている。


 ヤクザの男が言っていた『落ちこぼれ』と言う言葉、あれは確実に俺たちの存在価値を理解した言葉、的を得ているのだ。




 だから異世界、魔法にドラフト会議。




 初めて触れる世界や言葉に俺は心を踊らされている、これは間違いない。


 だからこそ俺たちは道具であってならない、このドラフト会議は異世界のお偉いさんが俺たちを道具として競り落とそうと躍起になっている。


 こんなことは日本のプロ野球ドラフト会議とは趣向が違い過ぎるのだ。


 道具として扱われれば結局は落ちこぼれと同義。


 俺はそれを拒否すべく会議を勝手に進行する四人の異世界人に待ったをかけるべくドカドカと足を動かした。そしてそんな俺に他の三人も同調するかの如く俺についてくる。


 異世界人が囲むテーブルの前に四つの椅子が準備されている、おそらくは俺たちの椅子だ。


 幸いにもこの会議を見守って良しと許可が出たようなものだ。



 俺たち四人はそれぞれのタイミングでドカッと音を立てて椅子に座り、口を開いていった。


 やはり他の三人も俺と同じ考えらしい、俺は三人に視線を向けて準備は良いか? と問いかけるように笑みを送った。


 俺たちの主張でドラフト会議の主導権はこちらが握ることになったのだ。



「じゃあ俺たちがお前ら四カ国をドラフトしてやるから順番にプレゼンしな」



 四人の異世界人の視線が俺に集中する。そして当たり前のようにそのそれぞれが俺は罵倒し始めることになった。



「異世界人の分際で、商品が勝手に動かないでくれるかい?」

「セレソンの言う通りだ。貴様らは元の世界でも落ちこぼれなのだろう? ならば我ら各国の要人によって選りすぐられることをもっと喜ばんか!!」

「カン大臣、此奴らは文字の読み書きすらまともに出来んバカだ。相手にするだけ損、少しは落ち着かんかい」



 セレソン、カンにハイエニスタ、この三人が鬼の剣幕になって俺を怒鳴り散らしてくる。


 座っていた椅子を立ち上がる拍子に派手に倒して俺の前に立って威嚇するのだ。



 異世界人と俺たち転移者の間に大きな溝が生まれる。



 会場には八人しかおらず、にも関わらず場は騒然と騒ぎで満ちていく、まさに子供でさえも呆れるだろう大人の醜い言い争い。


 互いが互いの権利を主張し合う、そんな時だった。



 一人の凛とした声が場の醜さを美しく彩ったのは。



 最後まで堂々と腕を組んで椅子に座っていた紅一点の女がスッと立ち上がって俺に笑みを向けてきた。


 そして顎に手を当てて思案するかの如きジェスチャーをしながら言い放ってきたのだ。



「良いねえ、ウチの国はそれで良いよ」



 この女は異世界一の魔導国家、ジャパポネーゼの魔導大臣カワズニー。彼女は美しさと聡明さを兼ね備えた厄災と称される最強の魔導士なのだ。

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