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27.厄災の毒を飲んだ男

 女の影響をモロに受ける、年上の女性と付き合ったりするとそうなりませんか?

「アンタ、サラッと凄いっすよね」

「フン、考えて発言をして貰いたいね」



 セレソンは瞬間移動の能力で文字通り一瞬で地上に到着してしまった。



 俺は流石に感動してしまい、「ヒュー」と口笛でそれを伝えると「俺を誰だと思っている?」とセレソンに返されてしまった。やはりこの人はカワズニーに認められるだけのことはある。




 世界最高の戦士、ロベカロ・セレソン。


 二丁拳銃を握りしめた近接特化の銃使いである。




「これって襲撃なんですか?」



 俺は街の通りに出て思ったことを素直に口にした。それは街が思った以上に喧騒に包まれているから、そしてセレソンの話によると小国によるそれだった筈だからだ。



「思った以上に侵入されているな」



 そう言うと同時にセレソンはドカドカと拳銃のトリガーを弾き始めていた。彼は街を我が物顔で走り回る敵兵士を迷うことなく打倒していく。


 市民を守るためならば躊躇しない、そう言った使命感を感じ取れる動きをセレソンは俺に見せつけてくるのだ。


 そして俺の質問の意味をノータイムで理解して「ふむ」と呟きながら周囲を見回す。『襲撃なのか?』と言う俺の質問の意図。



 それは大国対小国という図式から出た疑問だ。



 大国の守備が生ぬるい筈がない、小国にそれを突破出来るだけの軍事力があるのか? と俺は疑問視したわけだ。因みにロマーリオの軍事力は兵士総勢五千万人、中堅国家のジャパポネーゼは五百万人。



 小国となれば更に低く、多く見積もっても五万人だそうだ。



 つまり小国の軍事力は大国相手に戦いを挑めるそれではない、襲撃にすらならないと言う訳だ。もっと言えばここはロマーリオの首都、軍事力が集中するこの場所がいきなり襲われること自体が不可解とも言える。



 セレソンは周囲の敵を一掃し終えてからキョロキョロと見回して俺に向かって「こっちだ」と話しかけてきた。そしてまたしも迷うことなくその場から走り出す。



 軍曹司令殿は冷や汗を垂らしながら怒気を露わにして口を開いていった。



「……こうも国の守備を嘲笑うか」

「やっぱり単純な襲撃じゃなくて?」

「ああ、周到に練られた工作作戦だろう」

「具体的には?」

「街のどこかにゲート魔法が張られている可能性がある。そうでなくばこの数の敵がロマーリオの首都に入り込める筈がない」



 セレソンは走りながらすれ違う兵士たちに適宜指示を出していく。その指示全てが市民を守るためのものと容易に汲み取れることから俺は彼に黙ってついていくことに集中した。


 それでも俺はロマーリオにとって部外者な訳で。


 だからこそシンプルな疑問を問いかけた。



「軍総司令が現場指揮官みたいなことしてて良いんすか?」

「真っ直ぐに司令部を目指して走ってんだよ。……一つ頼まれてくれないか?」

「この騒動の主犯を叩けって?」

「ジャパポネーゼ……カワズニーに借り作っちまうなー、はああ」



 セレソンはカワズニーに借りを作ることを心底嫌なようで、走りながら受験を明日に控えた高校三年生のような苦悩を表情に出す。


 だが良く分かる、カワズニーが作った貸しを悪魔の如く有効活用する姿が俺には容易に想像出来るからだ。彼女は基本的にそう言う人間だ。


 そこに至る経緯には同情してくれるも、結果が出て仕舞えば彼女は容赦なく利用する。とは言え、それを悪意を込めて利用する人間でないことも分かってはいるのだが。



 それでも「ヒヒヒ」と笑う彼女が俺の脳裏から離れない。



 だが俺はこれを逆に好機と捉えてニヤリと笑みを溢しながらセレソンに交渉を持ち出した。俺自身も気付かないうちに「ヒヒヒ」とカワズニーのような笑い方をしながら状況を利用すべく盛大にセレソンの足元を見ながら言葉を口にしていた。



「いっすよ。でもその借りは俺に付けといてくれません?」



 その俺を見てセレソンは「ゲッ」と言ったかと思えば、今度は「アイツよりはマシか?」とブツブツ言いながら、決意したかのように大声を張り上げて了承を口にしてきた。



「ええい!! 分かったよ、持ってけ泥棒だ!!」

「交渉成立ー」

「くっそお、兵士を守備に集中させたかっただけなのによー……」

「じゃあ敵の目星を教えて下さいよ」



 俺がほくそ笑みながら右手でお金を示すジェスチャーをするとセレソンはふて腐れたように一枚の紙を放ってきた。「後はソイツでどうにかしろ」と俺の駆け引きに塩対応を返してきた。




 俺は「毎度ー」と軽い口調で言いながら紙を受け取って開いてみる。



 ふむ、なるほどね。どうやらセレソンは司令部に向かいつつすれ違う兵士たちに指示を出しながらも、同時に敵の潜伏ポイントまで洗い出していたようだ。




 すげえな、この人。




 やっぱり出来る人だわ、カワズニーが認めるだけはある。と俺が彼をカワズニー基準で考えていると、まるでそれを見透かしたかのようにセレソンは俺に嫌味を口にし出す。



 決して悪意がある訳ではない、ただ単純な嫌味だ。



「お前、完全にカワズニーに毒されやがって。アイツを抱くと皆んなそうなっちまうのか?」

「ははー……、止めて下さいよ。心の片隅で『ご褒美くれないかなー』って考えてる自分が恨めしいんですから」


 

 俺が引き攣った笑いを見せるとセレソンは己の性格がロリコンに変えられたことを危惧したのか、「絶対に俺はあのロリッ娘ババアを抱かないからな」と独り言を呟き出していた。


 まるで己に言い聞かせるかのようにダラダラと冷や汗を垂らす一国の軍総司令が俺の隣にいる。俺はその光景を見てカワズニーと言う女の破壊力を再確認してしまった。



 まったく、カワズニーという女性は魅力的なのか猛毒なのか。



 そしてどちらからともなく俺たちは別れてそれぞれの目的地に向かい出す。俺はセレソンから引き受けた仕事をこなすため能力を使って高速移動を開始するのだった。


 目指すはセレソンから受け取った地図に記載されたポイント、俺はそこを再確認すべく目的地を口に出していた。


 その場所を知って俺は悔しさが込み上げてくる。



「先輩と戦った場所じゃないか……、ふざけやがって」



 俺は敵を知る前に、既にソイツに憎悪を向け始めていた。

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