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25.異世界の起源

 この世界がどうやって出来上がったか、成り立っているかを知って頂く回です。

「転移者、ソレは何だ?」

「カワズニーお手製のマジックアイテム。これを通して文字を見ると全て翻訳してくれるらしいっすよ」



 俺は先輩との戦闘を終えてセレソンと合流していた。


 今はロマーリオの国立図書館、その最下層部にいた。俺はロマーリオの歴史を知るべく、国家機密レベルの書物庫に特別待遇で足を踏み入れていた。



 そこから気になった書物を発見すれば、隅々まで目を通す。



 俺は本の虫と化していた。


 だがそれには一つだけ問題があって、俺がこの世界の文字を読めないと言うこと。


 異世界は言葉こそ共通だが、国々によって異なった文字を扱う。そもそも俺はジャパポネーゼの文字すら読めない訳で。


 それを察したカワズニーが事前にその対策となるマジックアイテムをくれた訳だ。そしてカワズニーが出発する前に他にも渡してくれたアイテムは他にもある。



 超小型の急速冷凍装置と高性能圧縮装置だ。



 俺はそれを使って急速冷凍した先輩の死体を密かにポケットにしまった。

  カワズニーがどうしてこのアイテムを俺にくれたのか、それは分からない。そもそも出国の際にも俺はそれを問いただしたが彼女は何も教えてくれなかった。



 それでも事実救いにはなる、それはカワズニーが蘇生魔法を極めているという事実があるから。


 俺は帰国したらカワズニーに先輩の蘇生を頼むつもりだ、例え何を要求されようとも俺は絶対に先輩を生き返らせる。



 これは俺の決意だ。



 ならば俺は任務だけは絶対に失敗出来ない、最低限の仕事もこなせないとなればカワズニーに失望されてしまう。


 そうなっては頼みたいことも頼めない。だから俺は必死になって本を読み漁っている訳で。




 ビックリするくらい性格が変わったセレソンを尻目に俺は必死になって本のページを捲っていた。そう、性格がロリコンへと変貌したセレソンの隣で……。



「あのさ、気が散るんですけど?」

「何がだ?」

「軍曹司令殿の着てるTシャツ、アキバにいるオタクのそれやんけ」



 セレソンは俺と別れた後に普段着に着替えてきたと言うのだが、彼はその立場を鑑みないラフなTシャツ姿で現れたのだ。


 問題はそのセンスでセレソンは「プリ◯ュア」のキャラクターTシャツをチョイスしていた訳だ。



 俺は頭痛を覚えてしまい本を捲る速度が急激に遅くなる。



 これもセレソンがロリコンになった影響だろうかと邪推して俺はジト目で他国のお偉いさんに、センスを疑う言葉を投げかけた。



「ロリコンなのは分かったけど、その趣味はないんじゃないの?」

「バ、バッカもん!! これは日本の総理大臣からの贈り物だ!!」



 セレソンは焦った様子でそう口にした。「よく見ろ」と言いたげに手で自らのTシャツを伸ばして俺にデザインを見せてくる。


 だけど何だって? 日本の総理からの贈り物だと?



「どう言うこと?」

「なべ総理は異世界の大国に友好の証として、その要人らにこのTシャツを配ったのだ!! これは断じて俺の趣味ではない!!」

「……じゃあ、要らないの? 俺がビリビリに破っていい?」

「そ、それはダメだ!! 俺は他国との友好を取る!!」

「……後でこっそりハサミ入れちゃおっと」



 俺がポツリと呟くとセレソンはこれまで見たことがないほどに動揺し始めた。


 アタフタとして彼は本を読み漁る俺の肩を揺すってくる。「日本ではこれをサブカルと呼んで家宝のように大切にしているのでは無いのか!?」とセレソンが俺に聞いてくる。



 あのクソ総理め、日本の文化をねじ曲げて伝えやがって。いくら異世界でもやって良いことといけないことくらいあるだろうが!!



 そもそも日本は異世界に戦力で敵わないから友好を選んだのではないのか? にも関わらず、こう言った細かい嘘は逆効果だろうに。




 だが今は無視だな。




 セレソンが真っ青になって「おい、嘘だろ!? このTシャツは日本の最先端ファッションじゃないのか!?」と騒ぎ散らして俺に喰ってかかって来るのだ。


 うぜえ、俺はカワズニーに認めて貰うために調査を進めたいのだ。


 オタクファッションのおっさんが国立の図書館内部で頭を抱えて騒ぎ出す中で俺は静かに集中力を高めていった。俺も二軍では二番打者タイプだったから、先輩と同じ打順だったから。



 二番打者は役割が明確なポジションだ、ランナーを進塁させる。もしくは次の打者に有利な状況を作り上げる。そう言った打順、先輩は前者で俺は後者。


 俺は自らの役割を全うするために集中力を高めていった。


 その結果、異世界でも『二番打者特性』と言う能力に目覚めていた、簡単に言えば集中力を極限まで底上げする能力なのだが。



 だがこの能力はとにかく燃費が悪い。



 この能力は使用後にとにかく疲労を覚える、だから俺は時間を惜しんで調査を進めていった。


 そしてその甲斐あって一つの歴史の違和感に気付く。


 そして俺の反応に気付いたようで後ろからセレソンが「どうした?」と問いかけてくる。流石は世界最高の戦士だけある、如何にロリコンに成り下がったとは言え、こう言った気付きは錆び付いていないようだ。


 俺は目の前に置いた本の一箇所を指してセレソンに逆に質問を投げかけた。



「ここ、異世界の国家の起源なんだけど」

「何がおかしい?」

「他の大国ってジャパポネーゼから派生したんですか?」

「三大大国の祖は全員がカワズニーの門下、彼女の高弟たちにあたる人物がロマーリオなどの大国を築き上げたんだよ」



 セレソンは俺に異世界の歴史を簡単に説明してくれた。


 彼が言うにはなんとカワズニーはジャパポネーゼの初代女王であり、三大大国を興した人物たちはカワズニーの魔法の門下だと言う。


 その人物らは『三賢者』と称されるそうで簡単に言えばカワズニー門下の三強だそうだ。


 そしてその三強の血筋が今の三大大国の国主を務めており、以前にジャーマニカの皇帝もそう言った意味でカワズニーを師匠として敬意を払っていると言うのだ。


 更に世界に数え切れないほど存在する小国、これもまたカワズニーの脈絡を受け継いでいるらしい。


 何でも三賢者以外の実力者たちが散り散りになって興した国らしく、またその実力者らの人数は把握が困難なほどにいたと言うのだ。



 つまりセレソンも含めた大国の要人らも現存する異世界の国家数を把握出来ていない、と言うことになる。



 しかしあのカワズニーがねえ、説明を受けて納得出来るような、そうでないような。


 俺が唖然とした様子を見せるとセレソンは着込んだプリ◯ュアTシャツを見せ付けるかのように胸を張って大きくため息を吐く。


 分かるぞ、とでも言いたげに数回左右に首を振って言葉を吐き捨てるのだ。



「あのロリッ娘ババアは無茶苦茶だからな。誰だってそう言う反応をしよう」

「だけどカワズニーなら納得、とも思いますね」

「そうなんだよなー、ウチの国王陛下もあのババアを敬愛しちゃってるし」

「その感じだと軍総司令殿も板挟みっすね」

「ま、俺もイヤイヤじゃない。充分納得してるよ、……理解に苦しむけどな」



 セレソンはそっぽを向いて本絵を愚痴るも、ヤレヤレと言うジェスチャーを俺に見せてくる、俺はそんな彼の様子を見てクスッと笑ってしまった。


 するとセレソンは「笑い事じゃねえ」と言葉を漏らすも俺と同様に笑顔を見せる。


 やはりカワズニーは俺が考えていた以上に大人物だったようで、その彼女と一晩を共にしてしまった俺は一気に重圧を感じてしまった。




 ふと天井を見上げる。




 俺は本から視線を外して深いため息を吐き出した。するとそんな俺にセレソンが話しかけてきた。



「で、そこのどこに疑問を感じた?」



 彼は真剣な面持ちになって話の続きを要求してきたのだ。静寂が支配する図書館の最下層部はシーンと静まり返っていたが、二人の男たちの会話がそれを拒み続けた。

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