24.二番打者、永久欠番登録す
先輩とのバトル、佳境を回って決着と言う名のホームベースに突っ込みます。
「先輩!! パワー勝負は俺の勝ちだ!!」
「……まだ早い、まだ終わってないぞ!! 和良!!」
先輩は諦めていなかった、その目を見れば容易に分かる。
この人は本気で俺を殺すくらいの気概で俺を射抜いている。
俺はそんな先輩の迫力に一瞬だけ怯んでしまい視界が狭まったことで見失ってしまったのだ。
俺が先輩のバットを砕いた時、驚くほどにインパクトの手応えを感じれなかった。
パワーで圧倒した、と俺はそう思い込んでいたのだ。だがなんてことは無い、実際には先輩は片手打ちに切り替えていただけだった。
先輩は最初からパワー勝負なんてする気はなかったらしい。
だから俺はバットが砕けるほどの圧倒的な結果を生んだ。いや、生まされていたのだ。
当然ながら先輩の右手はフリーな状態の訳で、先輩は拳を俺に向かって俺のバットを潜り抜けて放り込んできた。
一瞬だけ先輩の動きが早い。フルスイングが仇となって俺は先輩の攻撃に遅れを取ってしまった。
完全に不意を突かれた。
このまま無防備な状態で攻撃を受けては俺も無事では済まない、それどころからレベルがカンストしている先輩のパンチを喰らえば俺は本当に殺されるかも知れない。
それほどの状況だった。
だがそうはならない、俺は今度こそ確信があった。
俺は勝利を確信して無言のままにただスイングを続けた。途中で止めるでもなく、防御の構えを取るでもなく。
俺は黙って先輩を視線で射抜いた。
そして勝ち誇った様子の先輩に俺は一言だけ話しかけて勝敗が決したことを教えた。気付いてくれと、俺のバッディングスタイルを思い出してくれと、眉を顰めながらそう告げた。
「先輩、粘って相手ピッチャーの球数を稼ぐタイプっすよ? 俺は」
「……あ!?」
先輩はようやく『己の異変』に気付いて焦った様子を晒す。俺の能力が時間を掛けて先輩の体を蝕んでいったのだ。
俺の第二の能力『粘りのバッティング』は発動から時間をかけて敵のスタミナを少しずつ削っていく。
その特性故に即効性は無いが確実に敵を追い詰める効果は俺のバッティングスタイルを見事に反映させたものと言える。俺は最初からこれを発動させていたんだ。
そしてそのことに先輩も気付いたようで俺に問いかけてくる。
悔しいと言った感情では無さそうだ。先輩は振り上げた拳すら保てない様子でストッと地面にしゃがみ込んでいた。まるで地面に吸い込まれるように、手を突いて誇らしげに話しかけてくる。
俺は先輩に褒めれたように感じて思わず顔から笑みを漏らしてしまった。
「いつからだ?」
「最初からです」
そう、『最初から』だ。
俺はこの人と出会った瞬間からこの能力を発動させていたのだ。街の通りで声をかけられた瞬間から、文字通り最初から。
俺は本能的に能力を発動させていた、子供の姿の先輩と戦うことになるかもと予測、とすら言えないカンに従って。
俺はカンを信じて能力を使ったが、それが一瞬でも遅れていたらどうなっていたか。
一瞬でも遅かったら俺は負けていた。
先輩の繰り出してきた拳に屈して倒れ込んでいた筈だ、間違いなく俺の意識を持って行かれただろう。
立場は逆転して倒れ込む俺は先輩に見下ろされていた筈だ。俺がこの人を見下ろすように、そして俺が今から言う言葉をかけて来ただろう。
先輩はその言葉を予見していたのか、俺がゆっくりと口を開くと笑みを溢して先回りをしてきた。俺もそんな先輩に反射的に笑いかける。
やっぱり俺はこの人が大好きだ、嫌いになれる訳がない。
「お前は俺だ」
「そうっすね、先輩は俺です」
「本当にお前を見てると自己嫌悪しちまうよ、結果俺もこうやって貧乏くじを引いたわけだ」
「先輩、ここでお別れです。俺がアンタを殺す」
「頼むわ、俺を野放しにしたらダメだ。お前に再会してからずっとそれを望んでいた」
俺は先輩の前に立ってからバッティングフォームを取りバットを振り抜いた。バットは先輩の心臓を芯で捉えてゴス!! と言う鈍い音を鳴らせてピタリと止まる。
糸が切れたように倒れ込んだ先輩の表情は本当に穏やかで、この人は望んだ形で短い人生を全うした。
俺は先輩を殺した、手にはこの人を殴打した感触と虚しさが残る。その想いを小さいため息に変えて一仕事終えた後のように俺は地面に腰を下ろす。
そして泣いた、大切な人を殺したことに盛大に泣いた。
俺はロマーリオの郊外の森で先輩の死体に寄り添って人目も憚らずに大声で泣き喚いた。先輩の言葉が脳裏から離れない。
『ここなら派手に暴れても国民から苦情は出ないぞ?』
「先輩、気が回り過ぎっすよ」
こうして俺は人知れず静かに恩人との戦闘に終止符を打つのだった。
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