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21.VS二番打者

 再会した恩人とのバトル、主人公の涙涙の回に突入します。

「……何か心当たりがあるのか?」

「急に人が変わったように接してくる奴がいたんです」

「その様子を見ると大切な奴っぽいな」



 先輩に指摘されるまで気が付かなかったが、俺は相当に表情を歪めていたらしい。


 怒りをどうやって爆発させて良いか分からない。そんな顔付をしていると面と向かって言われてしまった。


 そして先輩ははにかんだように笑いながらそんな俺を笑ってくる。俺は先輩の反応の意味が訳が分からず、困った表情をしながら問いかけた。



「俺、そんなにおかしいっすか?」

「いやなに、変わんねえなあって思っただけだよ。貧乏くじ引きそうな性格しやがって」



 ドキン!! と心臓が大きく鼓動する感覚を覚えた。



 この言葉、俺はドラ1こと祐輔からも言われたことがあるからだ。俺は先輩に全てを見透かされたのではとドキドキしながら、それがどう言うことか確認した。



「この世界に来てからも良く言われます」

「俺の現状も自分ごとのように悔しがってくれてんだろ? その顔を見れば分かる。だがそうだな、出会えたのがお前で良かったよ」

「俺、今はジャパポネーゼって国で世話になってます。上司、カワズニーって言う人なんですけど話の分かる人だから先輩のことも……」




 だが先輩は静かに首を振る。



 俺の言葉を遮るようにゆっくりと力強く、己の意思は絶対に揺らがないと言う決意を示すような仕草を取っていた。


 そう言えばこの人は頑固だった、野球部の顧問に外野にコンバートすれば一軍に上がれるかもと言われながら、それを断固として拒否していたっけか。


 後輩の俺を後押しするように自分が諦めたらそこで何もかもが終わりだと教えてくれたんだ。



「運命って言葉があるだろ? 俺が記憶をイジられた運命、誘拐されて異世界にきたのも運命。じゃあ後悔って言葉は何なんだ? お前は異世界に来てから後悔したか?」

「しっぱなしですよ」

「後悔しないために努力するとか、そう言うことじゃない。後悔はただの結果であって運命に屈したことにはならない」



 先輩はそう言うとスラッとどこからかバットを抜いてきた、俺のものとは違った木製。



 『木製バット』。



 ある意味で高校球児だった俺にとって憧れの逸品、プロ野球選手の必需品だ。日本だったらいざ知らず、異世界でバットを抜くとなれば戦闘の意思があると先輩は態度を通じて俺に言ってる訳で。


 俺が先輩と戦う? その意味はどこにあるのか、それすらも分からない。だが先輩は思いもよらぬ言葉を口にしてきた。俺はその言葉を耳にして、過去の恩義を放り投げて即座に金属バットを抜いていた。



「記憶は塗り替えられたと同時に擦り込まれたこともある。ナオミ・カワズニー、この名前の魔道士と出会ったら確実に殺せってな」

「今の俺には聞き捨てならないことっすよ?」

「知ってるか? その女は一度この世界を滅ぼしたらしい、彼女自身の欲のために魔法実験で世界を木っ端微塵にしたんだと。『厄災』ってあだ名はそこから来てるんだとさ」



 カワズニーも何をやってるの!?



 だが彼女自身の口から「私はマッドサイエンティスト」と言っていたし、何よりも本人と直接接してすんなりと受け入れられる己が恨めしい。



「へ、へえ? それってどう言うことすか?」

「ナオミ・カワズニーは異世界創造の女神であると同時に厄災の悪魔でもあるって話さ」

「……それが今俺と先輩が対峙する理由に関係あるんすか?」

「俺は記憶を塗り替えられて操られてロマーリオからは出られない身、何よりもお前が厄災と繋がってると知ったからには撤退はない」



 先輩は涙を流して木製バットを振るってきた。



 どうやら塗り替えられた記憶とやらも、その感情とは繋がっていないようで先輩は俺との戦闘を拒否したがっているようだ。だが、それでも抗えないと言うのなら、戦闘自体を意味のあるものにしようと、そう言うことだ。



 俺は金属バットで迎撃して先輩の攻撃を弾き返す。



 ここは街の裏路地、決して戦い易い場所ではない。少なくとも俺にとってはだ。だが先輩はそう無かったようで、俺はこの人のプレイスタイルを徐々に思い出していった。



 先輩は完全な二番打者タイプ、小技を得意としていた。



「どうした? 俺もレベルはカンストしてるんだ、手加減はいらんぞ?」

「……俺は!! 先輩に出会ったから日大最高野球部で充実出来たんだ!!」

「過去を引きずるな、戦闘で敵に感情移入すると痛い目にあうだけだぞ?」



 そう言って先輩は再び踏み込んで俺との距離を詰めてくる。懐に入ったかと思えばバットのグリップで俺の腹を叩いてきた。俺は痛みを感じて思わず苦痛の声を上げてしまった。



「くっ!!」

「利き手を雑に扱うなって散々に注意したよな?」

「があ!!」



 今度はグリップを支点に利用して先輩はバットをクルリと縦に回転させてきた。先輩のバットが俺に右手首を殴打する。またしても俺は油断して苦痛で表情を歪めてしまった。


 この戦闘は回避出来ないのか?


 俺は大好きな先輩と戦わないといけないのか?


 そんな風にいつまで過去を引きずる俺に先輩は「はあ」とため息を吐いてバットを肩に担ぐ動きを見せた。そして今度は優しさをどこかに捨てて来たような表情になって俺を蔑んでくる。




 先輩、俺はどうすれば良いんだ?




 俺は泣きそうな顔になって先輩に何が正解なのか、どうすれば俺は後悔しないのかと問いかけた。だが当の先輩はもはや異世界に完全に染まったようで、命を賭けて来いと平然と言うのだ。



「俺はピッチャーのくせに打撃の方が得意だった」

「先輩……」

「皮肉だよなあ、一騎打ちは打者スキルの方が有利なんだってよ?」

「俺は!! アンタと戦いたくないぞ!!」

「俺は野球部でも異世界でもお前の先輩だ、だったらその厳しさを教えてやるのが務めだ」



 先輩は変わらず涙を流していた。この人には抗えないモノがあって、それが俺と並行を辿るなら寧ろぶつかる。その中で踏み台になろうとしてくれているのだろう。


 それくらい分かる。


 俺はこの人の後輩を二年間もやってきたのだから。


 それくらい分からなくてどうするって話だ。だが、それでも……。



「そんな悲しそうな顔されたら戦えないっすよ!!」

「場所を変えるぞ」

「先輩!!」



 先輩も俺と同様に走塁技術の能力に目覚めていたようで、裏路地の壁を器用に蹴っては移動する。俺も先輩を追って同じく壁を蹴って街の屋根の上に出た。すると先輩は「こっちだ」とだけ言って、高速移動を始めた.



 どうやら先輩は街の郊外にまで移動する気のようだ。流石にカワズニーを殺すように命じられようと、目立つ行為は憚られるらしい。


 俺は視界を邪魔する涙を拭って必死になって先輩の背中を追いかけていった。

 最後までお読みいただいてありがとうございますm(_ _)m


 ブクマや評価などして頂ければ大変光栄です。

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