02.ドラフト候補のバカ四人
まずは主人公と仲間の登場です。
お楽しみ頂ければ幸いです。(3話目も本日中に投稿する予定です)
今回の集合者は四名、その全員が元高校球児で公式試合の出場経験がない。
そして特筆すべきはそのオツムで全員がテストで何かしらの教科で0点の経験者、因みに俺は数学で0点を取ったことがあった。
俺の古き黒歴史と言える、そして誰にも言うまいと思っていたことだ。だがそんな想いもヤクザによって暴露されて俺たち四人は異世界に放り込まれてしまった。
そして俺たちは四人揃って道を真っ直ぐ進む。
ヤクザが言うにはこの先が異世界に繋がっており、俺たちが向かっていることは既に連絡済みだと言う。俺たちはこれから異世界でドラフト候補として会議に臨むらしい。
前途多難ならばまだマシだ。
俺は前途に予想すら出来ず不安のままに足音を立てて進んでいた。
そしてポケットから先ほど異世界転移の際に渡された紙を取り出して開いて中身を読んでみた。これはどうやら俺たちの今後についてが記述されているようだな。
俺は重要な事だと言って他の三人にも声をかけて一緒に読んでいった。
『諸君、まずは異世界転移おめでとうと言っておこう。
諸君は現実世界にいてはドラフトなど夢のまた夢だった筈だ、だがそんな諸君も異世界では有力なドラフト候補。
君たちの日々の努力は異世界において多大な助けとなる筈だ。
諸君の日々の素振りが異世界においてはドラゴンを討伐するほどの経験値となり、おそらく異世界に着く頃にはレベルがカンスト状態となると推測する。
この後、諸君は異世界で最強の戦士となり戦場に赴くことになる筈。
だが未来は己の手で切り開くもの、我らの助けはここまでだ。
諸君の日々の努力が異世界で報われることを切に願おう。
高級ヤクザ連盟株式会社 代表取締役社長 なべ 心臓』
俺は手紙から視線を外して上を向きながらフーッと息を吐いた。
なんだこれは。
今まで野球しかして来なかった俺に向かって戦場で戦えと言うことか? そもそもこの会社、社長が『なべ 心臓』となっている。これって現役総理大臣の名前じゃないか!!
嘘だろ、となればいよいよあのヤクザの言っていた公共事業と言うことも信じざるを得ない。
俺は他の三人がこの手紙をどう思ったか知りたくて視線を彼らに向けた。すると三人はポカンと口を開けて立っている。
無理もない、こんな雑な異世界転移などあってたまるかと俺と同様に憤慨しているのだろう。俺はそんな三人に気を遣いながら話しかけていった。
「ドラフト会議だってよ、どう思う?」
「え? そんないなこと書いとったん? ワシは平仮名しか読めんからチンプンカンプンや」
は?
「おれなんてひらがなすらよめねえよ」
何だと?
「おれはひらがなもかけない」
何だとーーーーー!?
コイツらは俺以上のバカだと言うのか、だが確かに後の二人なんて台詞までもが全て平仮名表記だ。
だがそうなると一つだけ疑問が残る、そもそもコイツらはどうやってここまで辿り着いたと言うことだ。
俺はヤクザからの手紙を見てここに来た。
今の話を聞いた限りだとコイツらはその手紙の内容すら理解出来ない、読めない筈だ。俺はこの三バカの事実に驚きのあまり顔をピクピクと痙攣させながらそれを問いただした。
「お前ら、手紙の内容はどうやって把握したんだ?」
「手紙? なんや、何の話や?」
関西弁で話す最もマシなバカが真剣な面持ちでそう答えを返してくる。
俺はバカにされているのかと顔を顰めるも、どうやらそうでは無かったらしい。話を詳しく聞くとコイツらの元にはビデオレターが届いたと言うのだ。
そしてそのビデオレターには総理大臣のなべ心臓が映っており、政府の誘いならばと油断して指定の集合場所までノコノコと赴いたそうだ。
俺は高ヤ連の周到なやり口に顔を歪めて舌打ちをすると、それを見て何を思ったか平仮名を読めないバカが己の思ったことを素直に話してきた。
「流石に今回のことは俺も騙されたと思ったよ。だけどあのまま日本にいても、と思わなくもない」
どうやらコイツらは俺と同様で覚えが悪いのみで頭のキレや回転は悪くないようだ。俺はようやく安堵してホッと胸を撫で下ろした。
因みにコイツの会話に漢字が登場したのは俺が変換してやったからだ。
そして俺の様子の何に嬉しいと思ったのか今度は平仮名を書けないバカが俺にはにかんだ笑みを向けて口を開く。
俺は確信した、どうやらこの三人はバカだけど悪い奴じゃないらしい。
「お前、良い奴だな。こんなバカな俺たちを心配してくれるなんて……絶対に貧乏くじを引くタイプだよ」
「うるせ」
俺は照れ臭くなってそっぽを向いて簡潔に言葉を返す。
だがそれは俺の本質を突く言葉で今までの人生を一瞬にして看破された感覚を覚えてしまったのだ。四人に不思議な親近感が生まれる。
だが俺たちはここにいたところで何も始まらないと思い、俺は向かうべき方向を指差して歩みの再開を促す。
すると三人は無言のまま首を縦に振って俺の後ろをついてくる。向かう先はぼんやりと淡い光を発しており、俺はその先に異世界があると根拠のない確信を持った。
光の先にはまるで日本のプロ野球のドラフト会議のようにセットされた会場が準備されている。
そして俺たちと同数の如何にも偉そうな雰囲気を漂わせた男女が座っている。俺はあそこが件の異世界ドラフト会場だと感じ取って歩みを強めた。
あそこで俺たちバカ四人の未来が決定する。
俺たちはもはや後戻り出来ないと覚悟を決めて光の中を潜り抜けるのだった。