18.軍事国家ロマーリオ
主人公の単独の冒険が始まります。
異世界最大の軍事国家『ロマーリオ』、その背景は国軍の規模で空軍を中心とした兵士約五千万人を有する組織力。国費の多くを軍事力の増強に当てるあたりは俺たちの世界で言えば共産主義国家のように思えるが、それは愛国精神のなせる技。
俺はセレソンに後についてロマーリオに入り、それを見せつけられた。
「転移者、お前も既にジャパポネーゼの一員だと自覚していよう。観光旅行気分は困るぞ?」
「……兵士が市民のアイドルみたいじゃないか」
「ん? そんなにおかしいか?」
「おかしいって言うよりも見慣れない。日本じゃまず見ない光景だ」
セレソンと共に街の大通りを馬車から眺めて呆けてしまった。街は兵士で溢れ返っている、と言ってもおかしくない状況だった。そして溢れかえる笑顔、兵士もそこに立ち並ぶ店の店員も笑顔で笑い合っている。
兵士とは戦うもの。
自衛しか出来ない日本ではあまり見かけない存在で、それはジャパポネーゼでもあまり変わらなかった。だがロマーリオは違う、兵士と市民が笑顔を交わす。俺はこの光景に僅かに違和感を覚えてしまった。
そして俺はその違和感を漏らしてしまう。
「市民は戦いを当たり前と思っているのかな?」
「そんなわけなかろう。……アレだ、軍はロマーリオ唯一の公共事業だ、公務員は給金が安定しているから接客側も必死になろう」
「ほへー、じゃあ水道・下水道とか民間なの?」
「国の事情によっても異なろうがそうさな、ロマーリオの場合はそうだ」
俺は「ふーん」と適当に相槌を打って馬車から顔を出すと子供が笑顔で手を振ってくれる、俺もそれに笑顔で答えるとセレソンは「悪くなかろう?」とニヤリと誇らしげに感想を求めてきた。
うん、悪くない。
そして実感したことはセレソンが何のために戦うのかと言う根幹、カワズニーはジャパポネーゼの兵士は家族のために戦うと言っていた。ロマーリオの兵士は国民を家族と思って守るために戦うのか?
いや、違うな。
今の俺には分からないけど、それでも決して悪い感情からではないと思う。それだけは肌で感じ取れる。俺はひとしきり街の喧騒を楽しんで再びセレソンと会話を始めた。
「今回は揉めなかったじゃないですか?」
「バッカもん、俺たちだって歪みあってばかりいられるか」
「だってドラフト会議の時は揉めてたでしょ?」
「有事のための集まりだろう? こう言う時こそ有効活用だろうが」
俺たち転移者はそれぞれに各国に散らばることになった、今回の『記憶を塗り替えられた事件』に犯人に目星が立たないからだ。
それ故にカワズニーを中心としてまずは魔法・魔導で対処すべく、その原因を探ると言うのが今回の目的だ。
犯人は目星が立たず、更に言えば事件に至った経緯さえも不明。
ならばとカワズニーが「敵は三大国家にちょっかい出してるんだから、それぞれに何かしらの共通点があるはずよ」と言っていた。つまり三大国家の見えざる共通点を探り、そこから敵を浮き彫りにする。
カワズニーの考えはこれだった。
そして今回に限っては先入観がない方が良いだろうと、そんな理由があって俺たち転移者が派遣されたわけだ。
セレソンにハイエニスタ、そしてノノアーも今はあまり大事にしたく無いとのことで、カワズニー直下で身動きの取りやすい俺たちに白羽の矢がたった。
ジャパポネーゼの工作員が動くと嫌でも目立つ、それは敵にもバレやすい。
そう言うことらしい。
俺はロマーリオを担当することになり、セレソンの帰国に同伴しているのだが、これはこれで貴重だな。こんな貴重な時間はないと俺は移動時間を使ってセレソンと言う男や他国の考え方を知るために話し込んでいった。
「そう言えばドラフトの時にカワズニーが気になること言ってたんだけど」
「なんだ? この際だ、何でも言ってみろ。言える範囲なら答えてやる」
「ほら、ジャパポネーゼのドラフト会議参加にエスパーニュアスだけは賛成してなかったみたいな話ですよ」
「ああー……」
セレソンは遠い目をしながら窓の外に視線を向けてしまった。
すると今度は「お前、それ聞く?」と言わんばかりに俺にジト目を向けてくるのだ。だが俺が何のことだか分からない、と言う顔付きになると彼は盛大にため息を吐きながら仕方がないと言いたげに思い口を開いていく。
「ハイエニスタが板挟みだって話だ」
「良く分からないんですけど」
「あそこの国王はカワズニーにこっ酷くフラれてるんだよ。あのババアにガチの求婚をしやがった過去がある」
「……え?」
「想像付くだろ? あのロリッ娘ババアがどう言う態度で純真無垢な男の愛を断ったか」
やべえ、想像が付くわ。
アイツめ、絶対に鼻くそを穿りながら「ふーん、で?」とか言いそうだ。でもあのババア、抱き心地『だけ』は最高なんだよな……。脱童貞って本当に虚しいわ。
「でもハイエニスタ海軍元帥殿は態度はアレだけどカワズニーを買ってますよね?」
「ハイエニスタは国王に真なる忠誠を誓っている、だから言っただろう? 板挟みだって」
「うー……ん、その国王が陰険なのかカワズニーが怖いもの無しなのか……」
「これは忠告だ、絶対にハイエニスタとは喧嘩するな。アイツに嫌われたらジャパポネーゼはエスパーニュアスと戦争になっちまう」
セレソンが言うにはそれだけはロマーリオとしても憚られるらしい。
如何に異世界最強の軍事国家とて、世界最強の海軍を有し貿易を牛耳るエスパーニュアスと能天気な鼻くそまみれの厄災の魔導士を有するジャパポネーゼの衝突は勘弁だそうだ。
セレソン曰く、「あのババアを止められるのはお前だけだ」だそうです。
俺は世界最強の軍事国家の、それも軍曹司令様から戦争のトリガーを預かった気分になってしまった。
だがそう漏らすと当時にセレソンは馬車が止まったことに気付いてスッと立ち上がった。そして俺に今後について確認をしてくる。やはり彼はカワズニーが買うだけのことはあるようで、役割はきっちりとこなすべきと言う姿勢を見せてきた。
そしてこれもやはりと言うべきか、被害を被った張本人として一刻も早く事態を収拾したいと言う気持ちがあるらしく「手間をかけさせてすまんな」と言いながらポリポリと頭を掻く仕草を見せていた。
「それでお前はこれからどうする?」
「客観目線で調査しろって言われるから、まずは街をぶらつこうと思ってます」
「そうか、その後はどうする?」
「後はロマーリオの歴史が知りたい」
「……散策が終わったらうちの屋敷に来い。特別に国家図書館を案内してやる」
ここで俺はセレソンから一枚の地図を貰って一度彼と別れることとなった。
そしてこれから思い知るのは、ロマーリオは一筋縄ではいかない国家だと言うことだった。
俺は街の散策に託けて観光を楽しみたかったのだが、どうもそう言った邪な考えが良くなかったらしくバチが当たったのか、更なる問題を抱えることになる。
セレソンと再会した時には誰に口にすることの出来ない問題を抱え込むことになるのだ。
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