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17.背中合わせの友情は憎悪と同義

 ここに来て急展開、とばかりにストーリーは動いていきます。飽きることなく呼んで頂ければ幸いです。

 カワズニーはソファーから「よっこらせ」とめんどくさそうに立ち上がってドラ1を睨み付けていた。彼女は小柄だ、だからそう言った態度を取るとどうしても下からの目線になる。



 だからだろうか?


 ドラ1はそんな彼女の変化にすら気付かず、終始デレデレとした様子でカワズニーに接していた。


 そして、そんなドラ1にヤレヤレと言わんばかりに呆れを通り越して哀れみの目をカワズニーは見せる。




 虚しいな。




 俺は友達のことが分からなくなって、その友達が好きな女の心情を容易に察することが出来る。


 何よりも皮肉なことは、その要因が俺と彼女が男女の一線を超えた関係を持ってしまったから、と言うことだ。



 『何も言うんじゃないよ?』



 とカワズニーは俺に脅しに近い視線を叩き込んでくる。


 俺は分かったと首を縦に振って返事を返すと、そのまま後ろに下がって事情を知らないドラ2と3にそれを伝えた。「後で話す」とだけ口添えして二人を何とか説得して、三人でカワズニーの話に耳を傾けていった。



「……最初は肺。その次は肝臓」

「なんや、何の話や?」



 カワズニーは無表情のまま握りしめた右の手のひらをジッと見ながらゆっくりとした口調で語り出していた。


 そして不用意に反応を見せる祐輔をわざとらしく無視しながら彼女は言葉を並べてるように無機質に口を動かしていく。



「拷問の時に潰していった禿頭の臓器の順番の話さ」

「……え?」

「私はね、世界最強の魔導士だよ? 攻撃魔法から支援魔法に回復魔法、果てには蘇生魔法だって極めてる」

「そ、そらあ凄いなあ!! やっぱりカワズニーちゅわんは最高に出来る女って話やん!!」



 ドラ1は僅かに引き攣った様子でカワズニーのヨイショを止めない。


 俺はそれを見るのが苦しくて思わず目線を外してしまった。



「外傷を治療しない状態で蘇生魔法を使ったらどうなると思う?」

「そ、そらー……難儀な話やな? 肺を潰された状態で生き返る……って話やろ?」

「どうなると思う?」

「う……、生き返ったと同時に……苦しむやろな?」

「そうやって生き返った無意味さを拷問相手に丁寧に擦り付ける、これがカワズニー流の拷問だわさ。すると相手は生まれた価値すら忘れていく、そうなればダンマリを決め込む奴だって口を割らせるのも簡単よ」

「……」

「アンタの人生には同情するわ。国に裏切られて、こんな異世界に放り込まれて」

「……カワズニーちゅわんは何が言いたいんやろか?」

「それを差し引いてもアンタには覚悟が足らないんだって言いたいだけよ!! それを友達の和良に当たり散らして見苦しいと思わないのかって聞いてるんだわさ!!」



 カワズニーは本心から激怒している。



 ドン!! と握り締めた拳をテーブルに叩きつけながら彼女は祐輔に怒りをぶつけている。


 俺はもはやこの部屋から出て行きたかった。許されるならば、カワズニーが男だったら俺はぶん殴っていたかも知れない。


 だけど、それでも俺は彼女を殴れなかっただろう。


 俺の心は既にカワズニーに惹かれている。

  苦しむ俺の背中をソッと押してくれるカワズニー、親孝行をしてやれと歯に噛むカワズニー、そして俺の全てを肯定し受け止めてくれる彼女を俺は……。



 例え彼女が男だったとしても俺は敬意を評しただろう、彼女はそれほどまでに魅力的な人間でもある。


 それがたまたま女だっただけのこと、俺が彼女に惚れた事実はそれの後付けでしかない。


 俺は頼むから目を覚ましてくれ、と願いながら祐輔を憐れんだ目で見続けた。


 俺の目から涙がこぼれ落ちる。だが件の友達はそんな俺の願いなどゴミ箱に捨てるかの如く雑に扱ってくる。



「……さよか、やっぱりカワズニーちゃんはコイツのことが好きなんやな?」

「一晩中だって抱かれたい、少なくとも私は本心から思ってるよ。コイツに抱かれるなら女冥利に尽きるってもんよ」

「こんな俺よりもドラフト順位が低いゴミの方が良いって言うんやな?」

「寒気がするね、どうして私はこんなゴミをドラフト一位で指名したか自分自身が恥ずかしいよ」



 止めろ、どっちも止めてくれ。


 二人は俺の惚れた女と大好きな友達なんだ。頼むからこれ以上互いに貶し合わないでくれ!!



「そないこんな奴がええって言うんか?」

「アンタも本気で私を抱きたんだったら、まずはそのひん曲がった根性を叩き直してきな」



 俺の願いなど二人に届く筈もなく、カワズニーは嫌悪するように祐輔を一瞥すると「はん!!」と鼻を鳴らして怒りのオーラを隠そうともせずに黙ってしまった。



 これには俺だけでなくセレソンにハイエニスタ、そしてジャーマニカのノノアーまでもが驚いた様子を見せる。 


 そしてハイエニスタが漏らした一言が契機となって祐輔は部屋を飛び出していく。


 去り際に俺に対してまるで親の仇に対する憎悪の目を放り込んでからバタン!! と音を立ててドアを閉めていった。


 そして俺に気を遣ってくれた様で、ドラ2と3は「俺たちに任せろ」と言い残して祐輔を追いかけて行った。



「カワズニーは一見すると滅茶苦茶な女に見えるが、人間としての筋だけは絶対に曲げない。彼女がそう言うならドラフト一位はそう言う人間なのだろうね」



 背中越し故にハイエニスタの言葉はとんでもない威力を誇っていたのだ。


 ハイエニスタが総括を述べると、今後は先ほどの話題へと話は振り出しに戻る。


 何事も無かったかの様に動く時間が俺には何よりも虚しく感じてしまった。そんな脱力した俺だったが、セレソンに話かけられてハッと我に返る。


 そうだ、俺たちは重要かつ深刻な問題を抱え込んでいるのだった。



「転移者、お前の先ほどの提案を進めるとしよう」

「よろしくお願いします」



 俺は深々と頭を下げて全員に礼を尽くして議題を順調に進めていった。


 こうして今回のセレソン襲撃事件とカンの暴走に繋がりを見つけて、それぞれの国が何をやるか。その役割分担まで決定することが出来た。


 最初は不機嫌だったハイエニスタも最終的には「良い会議だった」と言ってくれて俺は何とかホッと胸を撫で下ろすことが出来た。



 そう、全ては順調に物事が進んでいった。




 順調過ぎたのだ。




 逆にそれがマズかったのか、それとも俺がもっと周囲に気を配るべきだったのか。


 祐輔が突如としてジャパポネーゼを出奔してしまったのだ。


 それもカワズニーが拷問を終えて、牢獄にぶち込まれていたカンを殺害してだ。ご丁寧に自らわざとらしく証拠まで残して祐輔は俺の目の前から去っていった。



 俺は友達と道を違えてしまった。



 そしてこの出来事が俺の人生にとって最悪の分岐だと気付くにはもう暫しの時間を費やすこととなる。


 俺は祐輔が牢獄に残していった硬式ボールを拾って、ただ呟くしかなかった。



「俺はやっぱりバカだ、ただの大バカだ。友達の気持ちも汲み取れない大バカ野郎だよ」



 俺の流した一滴の涙が床にポチャンと吸い込まれるように落ちていった。


 どうやら俺は貧乏くじを引いたらしい。

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