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14.初めての女と不協和音

 ちょっとだけ男の友情の弱いところを描きます。

 やらかした。




 …………カワズニーと寝ちゃった。


 所詮は俺も思春期の男の子のだったようで、美女の執拗なお誘いを断り切れず俺のベッドに侵入して来た777歳を昨晩抱いちゃいました。



 歳の差759歳のベッドイン。



「ンゴゴゴゴッガガッガ!! ……スピープペポ、ンガーーーーーーー!!」



 俺の隣で全裸のカワズニーが世界の終わりを告げるようなイビキを掻きながら爆睡する。


 彼女の寝顔を見ていると思わず昨晩の記憶が蘇ってくる。



「気持ち良かったなあ……。童貞ってこんなに悲しい存在なんだ……、初めて知った」



 俺は己の顔を両手で覆い「ふぐうう」と謎の声を吐き出していた。 


 こんな場面をドラ1にでも見られたら俺は確実に殺される。胸ぐらを掴まれながら「やっぱりドラ4もカワズニーちゅわんを狙っとたんやないか!!」とドラ1に問いただされる未来が容易に想像出来る。


 俺は上半身を起こしてチラリとカワズニーの寝顔を覗き込んでため息交じりにベッドを出た。


 彼女が風邪を引かないよう然りげ無く布団を掛けて俺は窓の外をぼんやりと眺めていた。


 そして再び昨晩のことを鮮明に思い出して先ほどよりも深くため息を吐きながら言葉を口にしていた。



「昨日のカワズニーは激しかったなあ……」



 言い訳がましく聞こえるが昨晩のカワズニーは異常だった。


 彼女はジャーマニカから請け負った拷問を帰国後、即座に決行したのだ。


 彼女は会議での発言の通り、拷問対象であるカンを殺しては蘇生させてを両手では数え切れないくらい繰り返した。


 実際に俺はその光景を見たわけではないが、後から尋問官の人に聞いた話だと「アレは流石に……」とのことで。とにかく壮絶だったそうだ。


 有言実行、カワズニーはカンに『生まれたことを不幸』というと考えを見事に植え付けたそうだ。


 そして拷問を終えて彼女は激しく興奮してしまい、それを鎮めるために俺と寝たのだ。



 正確には俺がカワズニーに襲われました。



 何度でも言おう、カワズニーは怖ええええええええ。



 とは言え結果的に俺は役得だったのだが、彼女は「拷問ってのは受刑者よりも拷問する方がキツいんださわ」と俺に抱かれながら吐露していた。


 俺に実感は無いが、彼女が言うならそうなのだろう。


 俺は勝手に自己解決をして深くため息を吐いてから今日の予定を整理した。



 俺は頭を掻いて気合を入れるように腰掛けるベッドから立ち上がって、身支度を整えてから部屋を出た。


 すると元気一杯の日差しが俺の目に差し込んでくる。



 ここは俺たち転移者が住居としてジャパポネーゼから貸し出されたマンションの一室、俺の部屋は五階の角部屋でドラ1は四階、ドラ2とドラ3は一階でお隣さん同士。


 まとめたゴミを捨てに行くとタイミングよく三人が井戸端会議をしていた。



 俺は彼らに「よお」と声をかけて会話に混じる。



「なんやドラ4やないか。……昨日はお楽しみだったみたいやな?」



 ドキッ!!



「三人で何を話してたんだよ。俺も混ぜてくれってば」



 ドラ1が俺をジト目で覗き込んでくる、これは完全にバレてるな。


 今更だけどコイツの部屋は俺の真下だからモロバレだったか。だが他の二人は至って普段の様子だ、どうやらドラ1は俺の『童貞喪失事件』を黙ってくれているらしい。


 ドラ1はカワズニーに惚れてるからな、これは後で洗いざらい真実を報告した方だ良さそうだ。


 俺はこの三人の中でコイツと一番馬が合う。だからこそ言うべきと考えて「後で話す」とだけ告げて俺は不自然に顔を作り上げて三人の輪に入っていった。


 すると他の二人も俺の登場に気付いらしく普段と変わらぬ態度で話しかけて来た。



「ドラ4か、お前は聞いてるか? 例の話」



 そう言ってきたのはドラ3、コイツは宮城県の超名門・作業台育英で二軍だった男でポジションは捕手。


 東北育ちながら両親が関東出身と言うことであまり訛りを感じさせない男だ。何でも一年先輩に高校卒業と同時にメジャーリーグに挑戦した人がいるとかで、その人のブルペン捕手を務めていたそうだ。



 本人はと言えばバッティングが一切振るわず、そのせいで一軍に這い上がれなかったらしい。


 そんな男が真面目な面持ちで問いかける『例の話』に俺はなんの話だと言わんばかりに首を傾げてしまった。


 すると今度はその補足にとドラ2が口を開く。



「ドラフトの時のお偉えさんがこごさ集まるんだってよ、今日」



 どう言うわけかマネージャーにも関わらずドラフト二位指名を受けた男、コイツは青森のこれまた超名門・特盛山田の出身者。


 若干だが津軽弁が混じった口調が特徴的などこか優しげな男だ。コイツは緊張すると極たまーに訛りが強まるのだ。


 しかしなるほど、ドラフトの時のお偉いさんとくればセレソンとハイエニスタがジャパポネーゼに赴いて来るのか。


 この話は俺も初耳で、寧ろどんな理由でそうなったかを聞きたいくらいだった。


 確か前回の会議の終わり際に二人は自国に戻ってやるべきことがある、と言っていた筈だから僅か一日でその旨を変更する事態となれば雲行きに怪しさを感じてしまう。



 俺が考え込む様子を見せると、今度はドラ1が逆に俺に問いかけてきた。


 ジト目を止めて今後は何かを探るような、疑惑を確信にしたい。


 そう言った類の目を俺に向けてきていた。普段のドラ1はフレンドリーと言うか、あまり物事に執着しない性格だから俺は思わず身構えてしまった。



「……昨日、お前カワズニーちゅわんと会議行ったやろ?」

「急にどうしたのさ? 会議の内容は皆んなに共有しただろ?」

「決定事項とか流れは聞いとるけど、なんて言えば良いんやろ? 雰囲気とか各国の姿勢とか、そう言うのはどないやったんやろなて思ったんや」

「ああー……、言いたいことは分かった」



 つまりドラ1は俺を含めた転移者四人は異世界の情勢や風俗なんかに疎いと言いたい訳だ。


 日本でも隣国との関係を考慮して異常事態が発生すれば緊急で声明を発表したり法律を改正する動きを見せたりする。国家単位における決定事項の変更ともなれば、当然ながら決定は重い。



 要は情勢や風俗を理解していれば、そう言った状況の変化も背景を察することが可能と言う訳だ。


 そしてそれを会議から感じろと、感じ取ったものを情報として共有しろと言う訳か。



 そんな小難しいことをバカの俺に聞くなよ。



 だが俺はドラ1の問いかけからふと思い出していた。


 そう言えば一つだけ気になることをジャパポネーゼ以外の要人らが口にしていたなと。俺はそのことを他の三人に教えた。



「そう言えば四大国家以外の話題が出たっけな」

「ああ、異世界にも他にギョーサン小国が存在するんやったけ?」

「そうそう。で、その内の一つがジャーマニカにちょっかいかけてるみたいだけど、理由が良く分からなかった」

「いくら漢字が読めたかてドラ4もバカなんやさかい、分からんかったら知ったかせんと質問せえや」



 うるせえなあ、お前なんて平仮名しか読めないバカだろうが。



「護衛役って建前で出席して、そうポンポンと質問出来ないって……」

「なんやお前、俺は漢字も空気も読める、ってそう言いたいんか? おお、エリート様は朝も夜も絶好調やのー?」



 コイツ、明らかに機嫌が悪いな。


 普段ならそんなことはトイレに流す紙みたいに気にも止めないくせに、今日に限ってはドラ1は妙に食い付いてくる。これはアレだ、俺がカワズニーと寝たから機嫌を損ねているんだろう。


 そんな俺とドラ1のやり取りを見ながらドラ2と3が「アイツ、今日はどうしちゃったの?」と耳元でヒソヒソ話をしている。


 俺はと言えば渋い顔になってコレは困ったとポリポリと後頭部を掻いてみた。


 どうやってこのやり取りに収拾を付けようかと悩んだ様子を見せると、またしてもドラ1は俺に因縁を吹っかけてくるのだ。



「機嫌直せって。俺だってヤリたくてヤッタんじゃないし」

「おおおお、モテる男は言うことが違うのお!! なんや、昼間は三振、夜のベッドではホームラン王ってかあ!? なんだったら打点もついて二冠王、一打席ホームラン一本で打率十割の夜の三冠王!!」

「お前、ちょっといい加減にしろよ?」

「おいおいおいおい!! ドラ1もドラ4もどっちも落ち着けって!!」

「ドラ1もおめえらすくねぞ!?」



 俺とドラ1はついに互いにキレ出して胸ぐらを掴み合っていた。


 威嚇して睨み合いだすと、今度は事情を知らないドラ2と3が慌てて俺たちの仲裁をすべく割って入ってくる。ドラ2なんて、なんの前触れもない俺たちの衝突に緊張したのか思いっきり訛りを出してきた。



 ドラ2がドラ1にかけた言葉、『お前らしくない』。


 そうなのだ、ドラ1は本当にどうしたと言うのだろうか? 確かに俺にもカワズニーとの件で思い当たる節はある、だがそれでも、ここまでされたら俺だって流石に怒る。



 俺とドラ1はマンションのゴミ収集場で人目も憚らずに「フン!!」と互いに鼻息を荒くしてそっぽを向いてしまうのだった。


 俺たち転移者四人は亀裂を生み出してしまい、この状態のまま三大大国の要人らを出迎えることになるのだ。

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