12.会議は鼻くそを穿りながら
ようやく真面目に始まった会議、問題がようやく明るみになります。
「どうしてこんな小物を筆頭大臣に据えちまったかね?」
「ウチの問題を他国に聞かせるわけにはいかないんですよ」
「ベッキー、そのおたくの問題のせいで他国が迷惑を被ったんだよ? ことの重大さが理解出来てるのかい?」
半日かけてようやく『まともな』話し合いが始まった。
あの手この手を試して怒りを駄々洩らすカワズニーを宥めすかしてようやく彼女は落ち着いてくれた。
最終的にはセレソンの発案で俺がカワズニーのクッションになることで厄災は上機嫌になってくれたのだ。
ロリッ娘ババアが俺の膝の上でチョコンと座る。
ドラ1辺りからすれば「ご褒美やで!!」とか胸ぐらを掴まれそうだけど、俺は霊体的な何かを口から溢して気絶しかかってます。
何しろカワズニーの匂いが男の本能をくすぐるほどに魅力的だから。
俺は超えてはならない一線を踏み外さないようにと必死になって精神的な防衛線を張るのに精一杯だった。
だがそんな疲労困憊の俺など知ったことかとカワズニーとジャーマニカ皇帝は話し合いを加速させていく、それを見守るセレソンとハイエニスタはため息交じりに俺に同情を向けてくる中でだ。
「おいハイエニスタ、こんなに男に夢中になったカワズニーは記憶にあったかよ?」
「無いな。俺は逆に不安しか覚えないね。転移者も黙って膝枕をしとらんかい」
セレソンとハイエニスタの世間話はとにかく俺の不安を煽る。
俺は護衛としてこの会議にいる筈なのに、それがどうしてファミレスの子供用椅子みたいな格好をする羽目になるのか。
この元凶は全て禿頭のカンにある。
原因がはっきりとしているからこそ俺は怒りをぶつけられずストレスを溜めながら全身を震わせているわけで、そしてカワズニーとジャーマニカ国王はその問題解決のためにようやく真面目に話し合いを始めている。
そして震える俺をマッサージチェアに座るようにカワズニーが「疲れが吹っ飛ぶのー」と実年齢相応の呟きをするのがまたタチが悪い。
老人介護と子供のお世話を当時に味わっている気分になる。
凹むわー。
この流れを止めるわけには行かないと俺は大きくため息を吐いた、すると俺のため息がカワズニーの頸に触れたようで逆に話し合い腰を折ってしまった。
「ああん……。昼間っからそんなに激しく求めないどくれよ、良い子だから夜まで我慢おし。ヒヒヒ、今夜は寝かさないからねー?」
カワズニーも「ヒヒヒ」とはこれまた魔導士と言うか本当に魔女のようだ。
因みに会議の前にカワズニーに「その年で更年期障害はどうしたの?」と聞いたら俺はボッコボコにされたので言い返す気力が無いのだ。
「ししょー? 話を聞いてくれてます?」
「ああん? ガリガリのブタ野郎が話を聞いてもらえると思ってるのかい?」
ガリガリのブタ野郎って……。
「師匠……、完全に今日の会議の目的を忘れてるよね?」
「この子は一丁前に私に嫌味かい? 忘れてないさね、アンタの家臣の躾が甘いって話だろ?」
もうカワズニーの後頭部を引っ叩いて彼女の記憶を綺麗に消去してやりたい。この人は俺たち転移者にとって恩人であり、同時に俺たちの異世界での奮起の源でもある。
それは充分に理解している。
だからこそだ、だからこそ引っ叩きたい。
「ハイエニスタ、アンタのところから人員を派遣しておやりよ。ついでにこの使えないクソ皇帝を傀儡にしなさいって」
「カワズニー!! 本人を前に堂々とそんなこと言わずとも良いのではないかい!?」
この人はニュートラルに場の空気を荒らす性格らしい。
「じゃあセレソンだ。ロマーリオなら全戦力を投入すればジャーマニカなんて一気に制圧出来るだろう?」
「お前……。他人の国をデリバリー感覚で煽るなってんだよ」
この人は本気で言っていないのだ、それは彼女が鼻くそを穿りながら適当に案を出す様子から良く分かると言うものだ。
この人はハッタリとか脅しで話を纏めるのが得意なのは知っている。だからこそ俺たち転移者はジャパポネーゼの逆指名に成功したのだから。
その反動だろうか、彼女は常時の発案が狂っているように思う。
「カ、カワズニー? もう少しだけ真面目に話し合わない?」
俺は流石にこれはマズいと感じて護衛役と言う立場ながらカワズニーのやる気を促す。
と言うもの実は俺は護衛役とは名ばかりのお守り役なのだ。こう言った事態を予見したセレソン、ハイエニスタらによって事前に依頼されてしまったのだ。
本来ならば会議は代表者一人での参加が暗黙のルールなのだが、それを捻じ曲げてまで俺はお守りとしてここにいる。
出来る男は一味違うぜ、と二人の要人を評価しつつも俺は自国の代表に苦労させられっぱなしだ。そして案の定、カワズニーは脱線に脱線を重ねていく。
「私とアンタの家族計画の話?」
「カンのクソ野郎にどうやって落とし前をつけさせるかって話だよ!!」
「とは言ってもねー。家臣の失態は主人の責任じゃん? 結局はベッキーをぶん殴って終わるのが一番早いんだけど」
「そこを国家間のメリットとかデメリットを考慮して精査するのがアンタの役割だろうが!!」
俺の精一杯の誘導も虚しくカワズニーは「えー? めんどくさい」とかほざくからセレソンからは「俺、今日は定時上がりしないと子供の幼稚園のお迎えに間に合わない」などと愚痴られてしまった。
クソが、お前は管理職以上なんだから定時なんて概念が通用すると思うなよ?
だが、こう言った本当に不毛なやり取りが一時間ほど続いた辺りで議題の中心人物であるジャーマニカ皇帝は、本当に申し訳なさそうに挙手をし始めた。
散々にカワズニーから無理難題を吹っかけられて彼も発言しづらかったのだろう。
一国の国主が情けなくも肩を落として手を上げる様にカワズニーを除く全ての人間がため息と共に「どうぞ」と手を差し伸べる。
するとこれまたようやくと言うべきか、初めてまともな進展があったのだ。
俺はここに辿り着くまで何時間かけているのかと、手腕を一切発揮しない四人の要人に「主婦の井戸端会議かよ」と毒を吐いてしまった。
これまたカワズニーを除く三人は「グサッ!!」と効果音を口にして精神的なダメージを主張する。
するとジャーマニカ皇帝は更にショボンと落ち込みながらボソボソと小声で語り始めた。
「あのー、さっきも言った通りウチの問題なんだけどさ……最近どうも王宮内で他国の密偵の匂いがするんだよね。他の国はどうなの?」
ピクッと要人らが強張りを見せる、当然時間が停止する。
そして停止した時間は何の前触れもなく一気に動くものだ、セレソンにハイエニスタ、この両名が鋭い眼光になってジャーマニカ皇帝に視線を向けた。
これは本格的な話し合いに発展するぞ、と俺は安堵するも今度は別の心配が生まれる。
こんな雰囲気の中に俺がいて良いのだろうか、と言う心配だ。俺はただの護衛だからと気を遣おうとした訳だ。だがそんな俺にハイエニスタは「気を遣わんでいい」と軽く手を出してステイを要求してきた。
俺はその要求で身動きが取れなくなり、会議の進行を見守っていくことになった。
因みにカワズニーは鼻くそを穿りながら興味無さげにしていました。ジャパポネーゼって本当に代表者が彼女で良いのか? と頭を抱えつつ俺は不穏な空気に不安を募らせて行くことになる。




