10.バカなりの正義感、バカは正義漢
胸糞悪い悪党をぶっ飛ばして、違うな。かっ飛ばせ、主人公!!
ドラ1の必殺技はまさにカオス、七色の光を放つ球はそれぞれに異なる軌道を描いてグングンと走っていった。
俺の要求通り、ドラ1はジャーマニカ軍の後方を狙って投擲してくれた。
俺はその光景に純粋に感動して思わず皮肉を口にしていた。
そんな俺の本音が分かっているからこそドラ1はまたしてもバカ話と同じ口調で俺の今後について問いかけてくる。
「カーブにスライダー、フォークボールに……後はパームボールか? あれはツーシムだろ? ……後はもう分からん、ドラ1みたいに滅茶苦茶な必殺技だよ」
「なんや嫉妬かあ!? これこそがピッチャーの特権、俺はこの変化球で強打者どもを手玉に取るんじゃい!!」
「……ノーコンのくせに」
「さっきからゴチャゴチャとやかましいっちゅうねん!! それよりもドラ4はどないすんねん!!」
俺はドラ4の問いかけに両軍がぶつかり合う場所とは別に位置を睨み付けていた。
ここに到着するまでずっと心の内に押さえ込んでいた怒りの感情を花火を打ち上げるように爆発させて凝視する。
出発の際にカワズニーから「戦場に感情を持ち込んだらダメ」と忠告されているのだが、それでお俺は感情をコントロール出来ずにいた。と言うもの俺は別にジャーマニカの兵士それぞれに怒っている訳ではない。
俺の怒りは筆頭大臣のカンのみに向いていた。
大国には確かにメンツも伴われるだろう、だがそれでも一時のメンツのみで五十万もの兵士を死地に送り込む決断を下したあの禿頭が許せないのだ。
そもそもアイツはおそらく国家のメンツよりも己にそれを優先するタイプだ。だからこそ許せない。
それをカワズニーに漏らしたら「優しさだってダメ、それはそれでアンタ自身を苦しめるわよ?」と再三に渡って注意を受けてしまった訳だが。
俺はその時の記憶を掘り返して辟易していると、またしてもカワズニーの言葉を思い出してしまう。
『アンタみたいな奴は嫌いじゃないけどね』
彼女は俺と言う人間を肯定してくれた。
それだけで充分だった、だから頭で理解していようとも視線を向ける先に堂々とその姿を見せる男に憤慨しているのだ。
俺はドラ1の問いかけにゆっくりと口を開いて答えていた。メキメキと俺が握り締める拳から怒りが音となっていく。
「……俺は……本陣でふんぞり返ってやがる禿頭をぶん殴ってくるよ」
「頼むでー、あのデブはドラフト会議の時もワシらを軽く見よったから正直な話ムカツいとんのや」
「俺の分は鳩尾にブチ込むけどドラ1はどこが良い?」
「股間一択やろ!!」
俺は「エゲツないねー」とだけ言葉を残してその場から飛び出していた。
俺とドラ1だけは『走塁技術』の能力を獲得していたから常人では考えられないほどの跳躍力を得ていた。
だからこそ今回の突発的な戦争に対応出来た訳だが、可能ならばドラ2とドラ3も一緒に来て欲しかった。
アイツらは守備に特化した能力に目覚めていたから俺たちにはついて来れない、それが俺とドラ1がコンビを組んだ理由。
今もそれだけは悔やまれる。そもそもドラ2ってマネージャーだったんだよな。マネージャーよりもプレイヤーの方がドラフト順位低いってどう言うこと!?
そこだけはカワズニーに文句を言いたいところだ!!
だが俺がカワズニーへの不満を脳内でグルグルと掻き混ぜていると、その僅か数秒でジャーマニカの本陣に差し迫っていた。
軍勢の更に奥、ドラ1が爆撃を繰り返している場所から約10キロのポイントに本陣は敷かれていた。
高台で優雅にティータイムを嗜むカンを視認出来た。
今回に限ってカンは奴自身が軍勢に混じっていると情報が入っていたからそれを視覚で捉えても驚きはしないが、それでも近付くに連れて徐々に頭が狂いそうになる。
文官のくせに己のプライドを掛けた戦いならば前線に出ることも厭わない、と言った態度が気に入らねえ。
テメエの下らない価値観で五十万飛んで五千の人間を死地に送りやがって。
もはや俺は考えよりも行動が先走っていた、背中からスラッと金属バットを抜いて移動しながら己の能力を解放した。
『一本足打法オーラぶった斬り』でまずは威嚇の火蓋を切ったのだ。
俺が訓練場でカワズニーに披露した時と同様に爆音が走った、ズササー!! と言う音と共に本陣が置かれている高台が紙っぺらでも切るように横に斬撃が走った。
するとだるま落としの如く高台がズシンと音を立てて低くなる。
カンめ、こっちを見たな。
テメエの醜い禿頭が怯える様はもはや18禁レベルだよ、テレビの前のお子様に教育上悪いから見せつけるな!!
今度はカンと奴を護衛する二人を高台に取り残すように縦に二本の斬撃を入れた。
攻撃してるこっちが胸糞悪くなるくらいにカンとその護衛は震えている。そんな醜態を晒すならそもそも最初から前線に出てくるなと俺は近付きながらカンを咆哮しながら睨む。
「テメエみたいな傍観者が一番ムカつくんだよおおおおお!!」
そして走塁技術で一気に距離を詰めて握りしめた拳をカンの頬に向かって放り込んだ。
「ぎゃはあああああああ!?」
「「カン大臣!?」」
カンは目が飛び出るほどに苦痛の表情を浮かべながら叫んでいた。
それこそ全てを吐き出さんばかりに大声をあげて前のめりに倒れ込もうとする。だがそんなことは俺が許さない。
この一撃はカワズニーから頼まれていた分であって、まだ俺とドラ1の分が残ってるんだ。
それまではダウンなど許さないと俺は睨み付けてカンの肩を押し返す。そして右手をアッパー気味に股間へ放り込み、標的を地獄に叩き落とした。
するとまたしてもカンは醜い悲鳴をあげ、今度はギャグ漫画の如く舌で渦を巻いて己の苦痛をアピールしてくるのだ。
これは流石に覚悟が足らないだろうと俺は己の怒りが地獄に届くのでは? と思えるほどに負の感情を深めていった。
そして噛み締めるように股間を押さえて悶絶するカンに静かに歩み寄る。
その途中で護衛に一応の警告を口にし、歩きながら拳が割れんばかりに力を込めていった。
「俺の標的はその禿頭だけだ、他は見逃してやるからとっとと失せろ」
すると護衛らは「ヒイイ!!」と悲鳴を上げて一目散に逃亡を図る。
とは言え俺が本陣が敷かれた高台をズタズタにしてやったから逃げるとなれば飛び降りるしか方法がない訳だが。
下から悲鳴と落下音が聞こえるが知ったことではない。
俺はもはや命乞いさえ許さずにトドメの一撃をカンに放り込んで戦争を終結させるのだった。
「テメエの人間性はストライクゾーンに掠ってすらいねえんだよ!!」
「来るな、来るな来るな!! 来るなああああああああ!!」
「テメエに金属バットなんて勿体ねえ、この拳は俺の分だあああああああ!!」
「ほっぎょおおおおおおおおおお!?」
ジャーマニカの総大将、カン筆頭大臣は俺の拳を鳩尾に受けてフラつくように後退すると先ほどの護衛と同様に地面へと落下していった。
俺はその光景を見下ろしながら勝鬨をあげていた。
「勝鬨だああああああああ!! ジャパポネーゼが大国ジャーマニカを破ったぞ!! 我らが女神・カワズニーの懐刀が悪党カンを球場の外までかっ飛ばしてやったぜええええええ!!」
自国の防衛を担っていた警備隊はプロ野球選手のホームランに歓喜するように勝利に沸き上がり酔いしれるのだった。




