01.落ちこぼれ高校球児と異世界転移業者
『ボーイミーツロリっ娘ババア』、のジャンルに挑戦したく書き上げてみました。
イイ女は年をとってもイイ女、イイ男はガキでもイイ男を描きたく綴りました、後まで読んで頂けたら幸いです。(2話目もすぐに投稿する予定です)
汗だくで白球を追いかける。
高校球児ならば誰もが甲子園を目指してガムシャラに突っ走る。泥だらけになって守備練習に汗を流して、毎日素振りを繰り返す。
雨の日も風の日も、雪の日だろうと関係ない、彼らには目指すべき場所があるから必死になって繰り返す。
ただ後悔しないように全力で努力を繰り返すのみ。
だが当然ながら夢は儚いもので、その努力は必ずしも叶う訳ではない。
こんな事は誰にだって分かる事だし、誰もが密かに受け入れたくない事実。
甲子園と言う夢の前に崩れ落ちるものたちがいる。予選の決勝で敗北したもの、初戦で敗北したもの、怪我で涙ながらに諦めたもの。そもそもレギュラーとして試合に出れなかったものなど、多種に渡る。
かく言う俺は野球部の一軍に昇格できなかったものだ。
万年二軍の公式試合ではアルプススタンドが俺の指定席だった。
つまり俺は球児としてはカースト底辺、夢を追う資格すら得ていない。
俺は神奈川県の強豪・日大最高所属の野球部員、全国区の強豪だけに埋もれる才能は多い。これならまだ弱小校でレギュラーになった方が幾分かマシだったかも知れない。
それでも努力をしなかった訳ではない。俺も夢の舞台に一度くらいは立ちたかった。
毎日欠かさず素振りを千回3セット、走り込みのダッシュは一万回。
タイヤを腰に巻いてグラウンドを走りもした。
俺の人生は己の愛する野球と共にあり、一日の睡眠時間は三時間、野球の練習は二十時間。残りの一時間に食事や風呂など雑務を全てを注ぎ込んだ。
高校三年間に一度も授業を受けなかったから俺は高校三年の時点で掛け算だってまともに出来やしない。
ならば高校を卒業した後の人生はどうするべきか?
野球選手としては控えめに言って下の上、頭は小学生以下。当然ながらプロ野球選手への夢は望めない、進学も就職も勉強して来なかったツケが回って全滅。
そんな高校球児はザラにいる。
と思う。
多分、いる筈だ。
高校三年生にして既に人生に絶望した俺だったが、そんな俺に一通の手紙が届く。
差出人は高野連の進路相談課となっている。
俺は首を傾げながら手紙を凝視して悩んでしまった。
そもそも高野連が並以下の一球児である俺に進路の心配などするのだろうか?
これは何か新手の詐欺では無いかと心配をするも、その手紙は俺を惹きつけるだけの魅力が詰まっていた。
何しろ俺はまともな進路を望めないのだから、そしてそれは己の努力では既に覆せないところまで進行していた。ならば他人に縋ってみるのも一つの手かと思い俺は手紙を読んでみた。
『球児の諸君、どん底の君たちに人生浮上の策を与えよう。我こそはと思うものは裸一貫で明日の正午指定の場所に集合したまえ。 ー 高ヤ連 ー』
なんだこれは?
集合を求めておきながら明日などとあまりにも急な集合を求めるだなんて如何に高野連とて傲慢じゃないのか?
そもそも『高ヤ連』なんて誤字を綴って恥ずかしげもなく手紙を送りつけるなど俺は憤慨した。
だが俺の人生は高校生にして既にボロボロで修繕の余地もないことは確かだ。そこは否定のしようがない。俺はこの手紙について即座に監督に相談をした。
「…………どうしても持ち込みたいものがあったら胃袋の中に隠しておけ」
「なんかグリンベレーの潜入作戦みたいっすね?」
「それと集合場所には迎えのバスが来る筈だから遅刻だけはするなよ?」
「ラジャーっす。ご助言ありがとうございます」
俺は神妙な表情を浮かばせる監督の助言に従って手紙に記載された集合場所へと足を運ぶのだった。
俺こと新浦和良はとんでもない事件に巻き込まれていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「テメエらは人間の底辺だ!!」
バスの中に怒声が鳴り響くとそれに反するように静寂が走る。
紫のスーツにサングラス、そしてオールバックと言った一昔前のヤクザの如き風貌の男が俺を含めた集合者に怒鳴り散らしているのだ。
その全員は男の迫力に反論出来ずガクガクと全身を振るわせながら黙って話に耳を傾けた。
「良いかあ、一言一句漏らさずしっかりと聞けよ? 俺らはテメエらみてえな野球もオツムも底辺のバカ共を救ってやろうって言う慈善事業をしようってんじゃあねえ。……それは分かるな?」
全員がコクコクと高速の動きで首を縦に振っている。
するとその反応を見て男は大きくため息を吐きながらどこから取り出したのか竹刀を担いで話を続けた。
これって完全にヤクザだよね?
俺はこのまま五体満足に生きて帰れるのだろうか? と心拍数を上昇させながら己の身を心配してしまった。
「我々『高級ヤクザ連盟株式会社』はーーーーー!! テメエらみてえな落ちこぼれを異世界で再利用してやろうって言う最先端の事業を生業とする一般企業でーーーーーっす!!」
高級……ヤクザ……連盟、だと?
つまり略して『高ヤ連』。
あれは誤字ではなかったのか、手紙に書かれた文字は全て事実だと男は言う。
この男の態度を見るに彼は完全にヤクザだ。
それもかなり気合の入った筋金入りの狂犬だと思う、それくらいはバカな高校生でも肌で感じ取れる。
あ!!
手紙を見直してみたら『高ヤ連』の後ろに小さく『(株)』って書いてあった!!
こんなやり口をするのは悪徳金融業者くらいのものじゃないか……。
しかしそうか、だから俺が相談した時に監督は持ち込みたいものは胃袋に隠せと言ったのか。そうなれば監督はこれを知っていたことになる。
俺は思わず頭を抱えてしまった、つまり俺は全てを知りながらも監督にさえも見捨てられたことになるからだ。
だが如何に俺が頭を抱えようとも男の説明は続く。
今度は竹刀を床に叩きつけてパーン!! と甲高い音を響かせながらバスの中で堂々とタバコを吸って俺たちにメンチを切り男は口を開いていった。
「幸いにも出発の時点でスムーズにこの誓約書に諸君らの母印も貰ったことだしーーーー!? じゃあテメエらは我々に逆らえないわけだ!! そこはバカでも理解出来るよなーーーーーー!?」
男は集合者全員の母印が押された誓約書をピラピラと見せつけてくる。
あれがスムーズだと?
俺たち集合者は全員がヤクザに銃口を口内に突き付けられて強引に押韻を迫られたと言うのに、それをこの男はスムーズと言うのか?
ならばこの後がどうなるかなど想像すらしたくないのだが。
「と言うわけでーーーーー!! お前らは全員異世界に転移して貰いまっす!! 以上、質問は一切受け付けねえ!!」
え!? こんな雑な説明で俺たちに異世界へ行けと言うのか!?
そもそも異世界転移なんて漫画やアニメの世界だけの話じゃないのか!?
もしかしてこれは……異世界とは名ばかりの海の底的な話じゃなくて?
俺は物騒な疑問が脳裏に浮かんで慌ててしまった。
更に男の迫力にビビってしまい、この場の誰もが男の言う通りに質問を口にする事さえ出来ない。
すると男は恥ずかしげもなく言い忘れていたと困惑する俺たちに説明を追加してきた。
「あ、忘れてわ!! 俺たち『高ヤ連』は厚生労働省と文部科学省からの補助金で賄ってる公共事業でーーーーーーっす!!」
男は狭いバスの中でまたしてもどこからか取り出した金属バットで素振りをしながら衝撃の事実を口走っていた。
嘘つけよ、お前らが公共事業だったら闇金融とかが可愛く見えるわ!!
俺が顔を引き攣らせながら心の中でツッコミをすると突如として男がスーツの胸元から拳銃を取り出して天井に銃口を向けていた。
そしてこれまたなんの前触れもなく発砲して最後の言葉を俺たちに送ってくるのだ。
「じゃあ俺たちの仕事はここまでだ!! 後は各自で勝手に野垂れ死ぬなりしぶとく生きるなりしてくれやーーーーー!!」
小学校の運動会で催される徒競走か!!
こうして俺の不満など一切として考慮されることなく集合者はまるで社会主義国家の非人道的なやり口の如く強制的に男の準備したと言う異世界転移装置なる怪しげなドアを潜ることになった。
そして男はドアを潜る俺たちの雑な感じで一枚の紙を手渡して言葉を送ってきた。
おそらく彼らなりの応援のつもりなのだろうが、もう少しだけまともな言葉をかけてくれと大きくため息を吐いて異世界に転移していったのだった。
「テメエら、どうしようもねえ時は球を無心で追いかけた日々を思い出せ!! 俺らヤクザもタマの取り合いだ!! そう言う経験はぜってえにどこかで役に立つ!!」
男はついに己をヤクザと口にしてしまった。
頼むから素振りをしながらそう言う物騒な発言は控えて欲しいものだと俺がガックリと大きく項垂れながらドアを潜っていくことになった。