同棲中の彼女を起こすのは「戦い」と言って差し支えない
春の温かさを帯びた光が窓から差し込み、気持ちよく起きる……なんてことはなく。
少し肌寒さを感じて、俺、森田京は目を覚ました。
寝る前にしっかり掛けた布団は見る影もなくなっている。
仰向けの体をのそりと横に向ける。
ベットから1メートルほどのところに掛布団を見つけた。
なぜそんなとことに?なんて驚きはない。
だって、毎朝のことだから。
ちなみに犯人は俺ではない。
一緒に寝ている同棲中の彼女だ。
掛布団から視線を下に動かすと白い素足が目に入る。
彼女の足だ。
ベッドに足だけひっかけるように残し、床に寝そべっている。
「コイツ、寝相悪すぎるだろ」
派手な寝相の彼女にツッコミ、上半身を起こす。
「おい、愛奈。もう朝だぞ、起きな」
「…ん、ん……」
愛奈は重い体を起こし、立ち上がる。
珍しい。いつもならここから20分は起きないのに。
愛奈も日々成長してるんだな。感心、感心。
だが、愛奈はぶちまけた掛布団を引きずり、俺に掛け、自身も中に潜り込んできた。
「おい!堂々と二度寝するな!」
やっぱダメだった。
この子、二度寝に躊躇がなさすぎるよ。
お互い会社に行かなきゃいけないのに。
すると愛奈が俺の服をチョンチョンと軽く引っ張る。
「……女の子を起こすにはすることがあるでしょ?」
愛奈が目を閉じたまま言う。
……ま、まさか、寝起きのキスをねだっているのか。
今日は随分、甘えん坊じゃないか。
ま、まあ、俺も嫌じゃないからな。
可愛い彼女に応えるのができる彼氏というものだろう。
顔を近づ……。
「だから、まずは水を持ってきて」
「え?」
持ってきた。
「どうぞ」
愛奈はコップの水を飲み干す。
「次はローソーンに売ってるチョコパンを買ってきて」
買ってきた。
「はい」
チョコパンを渡す。
「ありがと」
「最後にもう一回布団の中に入って、腕枕して」
トントンと布団をたたいて、言われたので、腕枕をする。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「……なんでされるがままなの!コンビニに行ってもらったあたりから罪悪感凄いよ!」
愛奈が投げつけるように言う。
「たまには言うこと聞いてみようと思って」
「もー!」
我ながら珍しく、悪ノリをしてしまった。
今日は何かがいつもと違う。
もちろん、本当にそんなことはないだろうが、そんな感じがするのだ。
今日は理性を捨て自分の感情に素直になるとしよう。
「たまには一緒に二度寝するか。30分ぐらいならまだ寝れるし」
「うん。そうしたい」
愛奈が目を閉じる。
きっと、明日も明後日そして、その先も同じようなことが繰り返されるだろう。
けど、嫌じゃない。
愛奈とのやり取りが……、こんな些細な日常が人生の彩りを与えてくれるだろうから。
そんなことを考えていると、隣からスースーっと寝息が聞こえてきた。
寝息に眠気を誘わる。
彼女の寝息を聞きながら、俺もソッと目を閉じた……。
そして、めちゃくちゃ遅刻した。