双子の姉として生まれました。王太子殿下が最初一目ぼれしたのは私でしたが、妹の嘘のせいで殿下の婚約者に妹が決まりました。妹の裏切りが許せません、復讐することにしたのですが…。
「約束よ、ミリアム、殿下がどちらを婚約者に選んでも恨みっこなしね!」
「ええお姉さま、どちらに決まっても祝福するということで!」
「嘘はだめよ」
「ええわかってますわ」
私とミリアム、妹は双子です。見た目はとても良く似ていて、両親ですら間違えます。
妹と私は仲が良く、いつも一緒でした。
私たちはある日、夜会で出会った王太子殿下に二人とも一目惚れし、そして私たち二人が殿下の婚約者候補に選ばれたということで二人とも浮かれました。
殿下が最終に決めるというのでどちらかと待っていましたら……。
「ミリアム、お前が殿下の婚約者に決まったぞ!」
お父様が嬉しそうに私たちに報告に来たのです。
ええ、私は最初の約束通り、妹のことを祝福しました。とても悲しかったですが、殿下が選んだのは妹なので仕方ないそうおもったのです……。
「お姉さま、ありがとう。あとごめんなさい、その髪、よければ切ってくださらない? 他の方が私と間違えるといけませんでしょう? ただの侯爵令嬢、王太子殿下の婚約者では立場が違いますもの」
私と妹は金色の長い髪をしていました。確かに髪を切れば見分けがつきますが……。
父と母にも言われて、私は泣く泣くずっと伸ばしていた髪を切りました。その時嬉しそうに妹が笑ったのです……。気のせいだと思っていたのですが。
「お姉さま、私たちはよく似てますわよね?」
「ええ、だから髪を……」
「でも、かつらをつければわかりませんわ、そんなものをつけて、私を騙ろうなんて思わないでくださいね」
にやりと妹が笑ったのです。私は口の端で笑いを刻む妹を見て、立場が違うから仕方ないと思うようにしたのです。
そしてある日、私は偶然夜会で殿下にお会いしました。妹は熱を出したとかで出ていなかったのです。
「オーレリア、髪を切ったのだね」
「殿下、ごきげんよう。ええさすがに王太子殿下の婚約者と同じ顔をした人間がいたのでは……少し」
「そうしたら見分けがつくね、最初はどちらか迷ったよ」
「ええ……そうですわね」
ミリアムにそういえば最初であったのもこんな夜会の日だったと殿下が語りだしたのです。
それを聞いて驚きました。
ええその夜会にでたのはミリアムではありません、姉の私だけでした。
あの時、体調が悪いからとあの子は欠席したのです。
「……その時にあの子に一目ぼれした……と」
「ああ、とてもきれいな人だと思ってね。婚約者選びの前にミリアムに出会って聞いてみたら、ミリアムのほうだと聞いて……」
「そう、あの子が、自分だといったのですね」
「ああそうだが」
私はあの子が嘘をついたのがわかりました。だってあの時の夜会に出たのは私、青のドレスを着ていたのは私、いとこのオスカーと踊っていたのは私……。
でもそれをいまさら言ってどうしますか? 私は自分の体が冷たくなるのを感じておりました。
だってあれは私ですといったところでもう婚約者は妹に決まったのです。
そして殿下は私たちの見分けがついていなかった……。それも私を逡巡させた一つでした。
「……気分がすぐれないので失礼します」
「大丈夫か?」
「はい……」
私の長い髪は今は肩先で切りそろえられています。ええ、長く伸ばしていた髪まで切らされて、ええ、そして殿下の婚約者の地位も奪われて……。
「あは、あははははははは!」
私はバルコニーに出てつい大笑いをしてしまいました。
だってねえ、私たちの見分けがついていなかった殿下、最初に一目ぼれしたのは私だった。
それを妹は知って、自分だと嘘をついた。
「あは、あははははは、好きな人でさえ私たちの見分けがついていなかったなんて、まあそうでしょうね!」
調べればすぐわかることなのにねえ、あの夜会に出ていたのが私だって。
あはははは、ばかばかしい。
「……うふ、うふふふ」
ひとしきり笑った後、私は妹のあの笑いを思い出して、ああ、もしかしたら殿下が最初に一目ぼれしたのは私だった。という事実を知り、鬱憤をぶつけているのかなと考えました。
ずっと16年も一緒だったのです。あの子の考えくらいはよめます。
「……ええ、嘘はいけないことですわ」
私はあの子が嘘をついたことが許せませんでした。だから復讐することにしたのです……。
「殿下、ごきげんよう」
「ああ、どうした? ミリアム? 急に会いたいなんて手紙をくれて」
「うふふ、婚約者の私が会いたいといったらおかしいです?」
「いいやそんなことはないが」
私はにこりと殿下に笑いかけました。かつらをつけ、そして妹の名前で殿下を呼び出しました。
殿下は私とあの子の見分けがやはりついていません。
「……殿下、実は、あの夜会の時であったのは、お姉さまだったのですわ」
「え?」
「私嘘をつきましたの」
私はにっこりと笑って、あの時の夜会に出ていたのは姉であるといいました。
そしていとこのオスカーが恐れるように出てきて「間違いありません、あの時の夜会に出ていたのはオーレリアです」と証言したのです。
ええ、私が脅して証言させたのですが、心苦しかったのですが、彼の秘密を皆にばらすといいまして。
「私、私が最初に一目ぼれしたのが……オーレリア」
「ええ、そうですわね」
「どうして、君はそんな嘘を……」
「お、お姉さま、どうして私のふりをして殿下とあいびきなんて!」
中庭に向かう扉から出てきたのは妹、驚いた顔をして、こちらに走り寄ってきます。
頃合いを見てあの子を呼び出すように侍女に伝えておいたのですが、なかなかいいタイミングでした。
「……え、二人、ミリアムが……」
きょろきょろと私と妹を見比べる殿下、私がミリアムですわとにっこりと笑って私が答えると、お姉さま、それはかつらですよね! と私の髪を強引に引っ張るミリアム。
「いた、痛い、痛い、あなたがお姉さまですわよね! 嘘はいけませんわ!」
「うそ、取れない……」
ええ、私は切った自分の髪でつくったかつらを強くつけていました。とても地毛に絡まり痛かったのですがちょっとやそっとのことでは取れないようにしたのです。
「……殿下、あちらがお姉さまですわ。私をふりをしているのです!」
「殿下、嘘ですわ、私がミリアムです!」
二人同時に言われて殿下が混乱をしているのがわかりました。同じような声、同じようなしぐさ、見分けがつかないのは当然かもしれませんわ。
「……わ、わたしにはどちらがミリアムなのか……」
「……殿下、私がミリアムですわ!」
「いいえ、お姉さま、嘘をつかないでくださいまし、私がミリアムですわ!」
混乱する殿下、オスカーはどうしようとおろおろしています。
ええ、そして……。
「オーレリア、なんてことをしてくれたんだ! 殿下が婚約を破棄するといってきたぞ!」
「ええそうでしょうね」
「ミリアムと二人で殿下どちらが自分かといってからかったそうだな! 殿下はとてもご立腹だった。しかも嘘つきは嫌いだと……」
私はミリアムが憮然とした顔でこちらを見ているのを、無視しています。
ええ、あの子は婚約を解消されて、家に戻されました。
嘘つきは嫌いだそうですわ殿下は!
私も嘘つきは嫌いですわ。あの子が嘘さえつかなければあんなことしなかったですのに。
「お姉さまのせいですわ!」
「……あなたが最初、殿下が夜会で一目ぼれしたのは私だったのに、自分だと嘘をついたのが悪いのですわ」
「……う、そ、それは……でもあの方私たちの見分けがついてませんでしたわ!]
「ええ、そうですわね」
私はばかばかしくなってきました。見分けがつかない双子、取り違えて一目ぼれしたと言う王太子殿下、嘘つきの妹。
「私、嘘つきは嫌いですの、あなた、オスカーに自分が夜会で殿下と踊ったことにしてくれと金品で買収して口止めしていたそうね」
「オスカー……話したわね」
「少し脅したら、あの子ペラペラ話しましたわよ」
ええ、私は強い目で妹をにらみました。嘘つき女は殿下は嫌いだそうですわとにっこりと笑って言います。
「……どちらかを処分しろと殿下に言われているが……」
「「どうされますお父様?」」
「話を聞いたところ、ミリアムに非があるようだ。ミリアム、修道院にお前を送る。すぐ支度をするんだ!」
「そんな、お父様、お姉さまだって嘘つきですわ!」
「……最初に嘘をついたのはお前だ、我が家の家訓は、嘘をつくな、正直であれだ忘れたのか? オーレリアも復讐方法として、殿下を混乱させるようなことをしたのはだめだ。だがミリアムのほうに今回は非がある」
お父様は公明正大でしたわ。嘘をつくな、正直であれが我が家の家訓ですもの。
私は申し訳ありませんと頭を下げます。
ミリアムがどうして、どうしてよ! と怒鳴りながらもお父様に抗議をしています。
ええ、ミリアムが修道院送りになりました。
でもこれから先嘘をつくことがあったら、罰を与えるとお父様に言われてしまいましたわ。
一目ぼれなんて儚いものですわ……。
「オスカー、あなた、私たちの見分けがついているのですわねえ」
「ああ、だって小さいころからずっと見てきたし」
「へえ、あの子に脅されて、嘘をついたのに?」
私はいとこのオスカーとお茶をしています。オスカーはごめんと頭を掻きました。
「悪かった、だってミリアムが殿下の婚約者になればいいかなって君に決まったら……僕は」
「え?」
「君が好きなんだよオーレリア」
頼りないと思っていた年下のいとこに告白されてしまいましたわ。
私はふうと一つため息をついて、私年下は嫌いですのといいますと、あわてたようにえ? 一つだけじゃないかとオスカーが言います。
うふふ、あなたが嘘をついたことが許せませんから、しばらくこのネタで遊んであげましょう。
私はあわてるオスカーを見て、お茶がおいしいですわねえとにっこりと笑いかけたのでありました。
読了ありがとうございました。
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