作者目線で「ざまぁこと先行逃げ切り型小説」について語りたい
どんな内容であれ、勝者であるにはそれなりの理由があるはず。
偶には愚痴るのでは無く前向きに人気者を分析してみたいと思います。
先行逃げ切り型小説。
なんてタイトルをつけたわけですが、言うまでもなくこれは私が適当に考えた造語です。
意味合いとしては『最序盤の掴みに全力を注いでいる小説』というところであり、なろうに親しみのある人ならばわかるように言いますと、初っぱなからいきなり大事件が起こる「婚約破棄」とか「パーティ追放」とか、本来いろいろ合った末に起こる物語の重要な場面を冒頭に持ってくる構成ってことですね。一言でいえば「ざまぁ」です。
今回はそんな話について少しばかり私見を述べようと思います。
あ、ちなみに「ざまぁものはここが面白い」とか「ざまぁものは設定に無理がある」とか、そういう話は私が語るまでも無くいろんなところでやられているでしょうし、今回は物語としてではなくあくまでも作者的なメリットデメリットについてとなります。
この手の形式が流行っているのはわかったけど、何故なのかを考察してみたので発表しますというだけですので、小学生の読書感想文でも読む気持ちでどうぞ。
目次
1.先行逃げ切り型小説の解説
2.先行逃げ切り型の長所
2-1.なろう作家の信用問題
2-2.なろうランキングの仕組み
2-3.わかりやすさの話
3.先行逃げ切り型の弱点
4.まとめ
と言う構成でお届けいたします。
1.先行逃げ切り型小説の解説
冒頭で解説しましたが、先行逃げ切り型とはとにかく最初に主人公にとって人生を変えるような大事件を、物語の核を一番最初に持ってきているというタイプの小説を総称する、私が勝手に名付けた造語です。
なろうで流行中の最強ワード「もう遅い!」を代表とする「ざまぁ」系と言い換えても概ね間違っていません。
非常に簡潔に「ざまぁ」系話の構成を分解しますと
1.主人公が理不尽な苦境に追い込まれる
2.逆境を跳ね返せるような何かを手に入れる
3.主人公を陥れた悪党をやっつける
4.ハッピーエンド
となりますね。これだけで言えば世の中の勧善懲悪の大半は当てはまります。
じゃあそんな一般的な勧善懲悪と先行逃げ切り型は何が違うのかと言いますと、本当に最初に理不尽な苦境を持ってくるため、世界観も登場人物のこともほとんどわからない冒頭からいきなり「婚約破棄だ!」とか「お前をパーティから追放する!」とかから始まるわけです。
婚約者になってそれからお互いの関係を築くのに失敗して~とか、同じパーティに入って苦楽を共にしている内に溝ができて~とか、その過程を全部すっ飛ばしていきなり苦境から始まるってことですね。
もうこのテンプレに慣れてしまった読者からすると何とも感じないですけど、第三者の目で客観的に見た場合『婚約破棄とかパーティ追放とか言ってるけど、これどっちに非があってこうなったんだろ?』すらわからない内にとんでもない重要な場面を迎えているわけです。
テンプレ慣れした読者からすれば「王子様が浮気でもして阿呆なこと言ってんだろ」と脳内で解釈し「パーティリーダーがクソ無能だから有能追い出すなんて自爆したんだろ」と事情を察するわけですが、本当のところは不明という思い込みを利用するトリック小説もチラホラ見られますね。
人生山あり谷ありと言いますが、谷の部分を冒頭に持ってきて後は全部右肩上がりって構成にしていると言えば理解しやすいでしょうか?
最終的な勝利の場面が冒頭でイメージできるというのが最大の特徴。
冒頭から「続きが気になる(続きを読んでスッキリしたい)!」という気持ちにさせる構成と言えば、ある種の理想系とも言えるかもしれませんね。
まあとにかく、今のなろうの流行はこんな感じですよねって解説でした。
次は、何故この形式が流行るのかという話です。
2.先行逃げ切り型の長所
先行逃げ切り型の小説が日間ランキングを制圧している以上、この形式特有のメリットがあるはずです。
それは何かと考えた結果、以下の三つが主な理由ではないかと私は結論しました。
2-1.なろう作家の信用問題
まずはこれ。なろう作家全体のお話なのですが……大前提として、我々なろう作家は執筆活動を行っても賃金などは発生しないアマチュアです。
当然、書き上げた話にアドバイスや指摘をしてくれる編集などもおらず、欲しい資料を用意してくれる相手も居なければそのための金もないわけで、完成した話が文字通り素人の仕事であるということが当たり前の世界です。
まあ中にはなろうで活動するプロ作家さんや素人からプロにクラスチェンジした書籍化作家さんもいますが、それは例外としてください。
全体で見れば素人の未熟な仕事ばかりの場所と言われても文句は言えないでしょう。だって素人の集まりなんですもん。
となると……当然ながら、素人作品の品質、面白さに保証などあるはずもありません。
プロの作品でも「これは自分には合わないな」なんてよくある話なのに、素人が一人でまともな準備もなく作った話とか、ぶっちゃけ大体ハズレって思われているんだと思います。
それでも、希に才能があって波長も合う素人もいると信じて精神力の怪物、スコッパーの皆様が日夜無名作家のほとんど誰も知らない作品を読みあさってくれるわけですが、やはり『ある程度読み進めないと盛り上がらない話』というのは敬遠されてしまうと思うわけですよ。
何せ、時間をかけて読み進めた先にある『面白くなるところ(のつもりで作者は書いている)』が実際に面白くなるとは限らないわけですし。
物語が動き出すまでの平坦な場所にも、読んでいて楽しい小粋なジョークを混ぜるような技量は私のような素人衆には難易度が高すぎるわけで、結果読むための時間と労力を無駄にしたとため息を吐くことになるケースは多々あると思います。
……そう、なろう作家の信用問題とは、物語に対する『期待』のハードルが低いってことなのです。
最初に目を通す読者方は「これからどうなっていくんだろう?」と終盤の盛り上がりを期待しワクワクしてページをめくるのではなく、「どうせ大して盛り上がらないだろうしもういいや」と少し読んだだけで去って行ってしまうわけです。
これに更新停止、エターみたいな問題まで含めると、少しでも期待できそうな話に目が向くのは自然の摂理となり、結果最速で読者に期待を持たせられる「冒頭の掴みが強い」小説が上に行くようになるわけです。
舞台に上がって五秒で笑いを取れる芸人だけが生き残ることができる世界になるわけですね。
その考えで冒頭の魅力に特化していったのが『先行逃げ切り型の小説』なのだと私は考えました。
2-2.なろうランキングの仕組み
先行逃げ切り型強い理由としては、なろうのシステムにもあります。
なろう内で名声を得ようとすれば、絶対に避けられないのが「ランキング」です。
ランキングのことは今更詳しく説明するまでもないと思いますが、その一歩目は『24時間以内に何ポイント得たかを高い順に並べる』日間ランキングでしょう。
ぶっちゃけ、読者の大半はここしか見ていないと思います。他の大勢がポイントを入れた=面白いと評価したのだから、読む価値があるのだろうってことですね。素人軍団の見るに堪えない小説を一つ一つ探すよりも、他の誰かが見いだした光る作品だけを読む方が圧倒的に楽で確実ですから。
そうなれば読者数は飛躍的に伸び、更にポイントが入りよりランキングの上に名前が載り、更に読者のアクセス数が増える。このサイクルなしで劇的にポイントを増やすことなど不可能と言っても過言ではありません。
ですが……この日間ランキング、純粋に24時間で入ったポイント(以下P)しか参照しないので
『昨日は0Pだったけど今日は200P入った小説A』と『二日続けて100P入った小説B』では大きな差が出ることになります。
小説Aも小説Bもどちらも二日で200Pという結果は変わらないのですが、小説Aは日間200Pで総合ランキングに乗り、小説Bは日間100ポイント止まりで総合には入らないってことになるわけです。
もしジャンル別の壁が分厚いハイファンタジーだったりすれば、100Pではタイミングによってはジャンル別ランキングにすら載れないでしょう。
だったら二日分計算される週間ランキングを目指せばいいだろうって?
日間でポイント爆上がりしている連中にランキングブーストなしで勝てるわけないでしょと。
二日では200Pで同点でも、三日目には1000P対250Pくらいの差がついてるから。
つまり、なろうのシステム上ランキングに載るには『24時間以内に』ランキングに載れるポイントを得る必要があるってことですね。
となると、自然と話数(文字数)が少ない方が有利になります。ポイントを入れるタイミング(ブクマしたり後書き下の☆☆☆☆☆で評価したり)は人それぞれでしょうが、やはり最新話まで読み終わったところで続きを期待してブクマしたり評価したり……ということが多いと思います。
でも、話数が増えれば増えるほど読むのが速い人と遅い人の読了時間に差ができ、一日に大量のポイントが集中……ということが起こりづらくなってしまいます。
読了に一時間かかる話と十時間かかる話では、タイミングズレまくりますからね。
新規読者が現れるタイミングの多くは投稿直後だと思いますが、読書に一日十時間かける人の評価はその日の内に、一日一時間の人は最高評価をしてくれたとしても入るの10日後になってしまうわけです。
しかし読了一時間ならどっちの人もその日の内にポイントが入る。となれば、どちらが日間に載れるポイントを稼ぎやすいかは言うまでもありません。
なろうは毎日更新が基本。という通説も、このブレによる票の拡散を少しでも抑える(今日来た速読派と十日前のじっくり派のタイミングが合えばいい)って意味もあると思いますし。
まあ、そんな事実上毎日ランキング入りできるようなポイント稼げるならそもそも苦労しないので、多くの作者は『偶々数日前に読者になったじっくり派が集まって一斉にポイント入るタイミングで、偶然速読派が沢山来い!』という奇跡を待っているわけです。
この仕様からも、先行逃げ切り型が強いというのがわかるかと思います。
最序盤、つまり文字数が少なく評価してくれる人達のタイミングのブレが少ない内に『うわぁこいつマジむかつく。こいつぶちのめすシーン見ないとスッキリできないからそこまで読まなきゃ』と思わせるということですね。
冒頭の掴みに全力を注ぐというのは、なろうという戦場で戦い続けた内に生まれた当然の戦略と言えるかもしれません。
2-3.わかりやすさの話
先行逃げ切り型メリットの最後の一つが、今までも言っていたとおり、物語全体のわかりやすさです。
「これは全体を通してどんな話になりますか?」
という問いの答えが第一話にほとんど書いてあると言えますからね。
要するに『調子に乗った無能を真の有能がねじ伏せる話』であり、その配役も一話目で大体理解できるようになっておりますので。
悪く言えば意外性がない話ってことですけど、作者の狙いを隠さず冒頭で全部ぶちまけるに等しいエネルギーを注いでいますので、読者の期待を裏切りにくいってことですね。
期待以上、にはなりづらいですが、期待外れにもなりにくい構成と言えるでしょう。
所詮テンプレ、二番煎じ三番煎じ、どこかで見たような話だ~などなど、物申したい方も大勢いるでしょうが、そもそもこの手の話を読みに来る読者方はそんなことは百も承知で来ているので問題になりませんし。
それに、これは読者側からすればデメリットというか悪習になりますが、ターゲット層が非常にわかりやすい構成上、見切りをつけるのも早いんですよ。
普通に山あり谷ありの構成の物語ですと『今は鳴かず飛ばずだけど、あそこまで行けば面白くなるからアクセス増えるかも』的な期待を作者側は常に持っているわけですが、先行逃げ切り型はその名の通り序盤で加速してそのまま勝利することしか考えていないので、スタートダッシュに失敗すれば切り捨てという判断が楽なんでしょうね。
一度連載って名目で出したんだからどんな形にせよ完結させるべきなのですが……短編詐欺とか長編放置で新作出しまくるとか、そういう戦略でやっている人にとっても相性がいい構成なのかと思います。
3.先行逃げ切り型の弱点
と、ここまでざまぁこと先行逃げ切り型のメリット(一部問題点)を喋ってきたわけですが、最後に作者的なデメリットについて述べておきます。
先行逃げ切り型のメリットでもいいましたが、この形式は序盤で物語の目的のほとんどが出て来ます。
それは書きやすさ、アピールポイントの明瞭さという面から見ればプラスですが、話の自由度という面から見れば大きなマイナスにもなり得るのです。
一言で言うと『スケールがちっちゃい』という課題が常にあるんですよ……ざまぁって。
読者に対して「この話は阿呆王子を言い負かす話ね」とか「主人公を追放した無能に一泡吹かせるのが目的だな」と話の着地点まで全部伝えてしまっているので、後はそこに向かう以外のルートがありません。
そして、ざまぁという性質上、倒すべき敵は例外なく阿呆で馬鹿でクズです。調子に乗った無能を本当は凄い主人公が見返して潰す、というのがコンセプトである以上賢く強い相手だとざまぁになりませんし、自業自得な展開に持って行くのが難しいので。
要するに、チンケな小悪党を倒すお話。これで物語の全てが完結してしまうわけで、なんというか……全体のしょぼさが拭えません。
俺を追放した無能勇者を出し抜いて魔王を倒して顔を潰してやった~みたいに過程のスケールを大きくすることはできますが、物語としてのラスボスは結局魔王ではなく無能勇者なので、まあ着地点は結局お察しなところになってしまいます。
ならば、ざまぁ対象ではない更なる強敵とか用意しますか?
でも、序盤で引きつけた後に「ここらで作者オリジナルの味付けを!」なんて変化球投げようものならよほどの切れ味がないと『テンプレじゃないの? じゃあいいや』と安心安全の約束された面白さを求めてきた読者達が去って行ってしまいますし、ならばと「冒頭で出した阿呆は成敗して第一章完! 後はここから作者オリジナルの新ストーリーを!」と話を続けようとしてもやっぱり『主人公追放したカスは倒したんだし、成功者になったなら後やることないじゃん。と言うか主人公とヒロイン(あるいは女主人公とヒーロー)のキャラ自体はそこら中に転がっている大量生産品だし、そいつらの物語とか興味ない』となり、一章から二章に繋げる手腕がよほど優れていないと、結局読者は離れてしまうでしょう。話の展開のわかりやすさが先行逃げ切り型の肝なので、その中心人物達もドテンプレ直球になりやすいですから。
先行逃げ切りの代表格として最初に言いました『もう遅い!』は、ざまぁされる奴をどれだけ気分爽快に倒すかってところで期待を持たせたわけですから、それが退場した後は在り来たりな主人公に都合のいい出来事ばかりが起きるよくある話にしかならないってことはあちこちで見られますからね……先行逃げ切り型にスタミナを求めてはいけない。
要するに、テンプレで引きつけてからのオリジナルを~ってのは戦略としてはわかるのですが、先行逃げ切り型はコテコテのテンプレ冒頭を見せることでなろう内で最大勢力を誇る『テンプレのファン』を引き寄せ、代償として素人のオリジナル要素に期待してくれるような層は去ってしまうわけです。
その状態でオリジナル路線とかがどれだけ無謀なのかはまあ、さほど考えるまでもないかと。テンプレもオリジナル要素もいける雑食読者様なら続けて読んでくれるかもしれませんが「そのオリジナル展開、テンプレ時代ほどの魅力ある?」って問いを常に投げかけられるハードモードに移行するのでとても大変です。
とにかく、読者はざまぁ見に来ているので、それが終わったら帰ってしまうってことですね。
ざまぁもの真の主役はざまぁされるやられ役であり、量産型主人公の成功やら幸せやらには読者はさほど興味ないのであるってところを忘れてはいけない。
寿司屋に来た客は寿司を食べに来ているのであり、食事が終わった後に『板前カラオケショー』とか始められても大半は帰るでしょって話です。
まあ、結局は作者の腕しだいなので、ざまぁするまでの間に話に矛盾が出ないような個性を主人公達に付与し、超絶魅力的なキャラに育てることができれば何も問題は無いのですがね……それができるならこんなエッセイ読む必要全くないのでじゃんじゃん続きを書いてくださいってな話ですが。
板前の歌声は思わず足を止めてしまうレベルなのかってことですな。
4.まとめ
ここまで述べたことをまとめますと、私が勝手に先行逃げ切り型と名付けました「ざまぁ」とはなろうの環境に適応した優秀なテンプレであり、しかし作者の個性を出しづらいジャンルであるということですね。
序盤に話の筋のほとんどが決定する(倒すべき敵とその理由が確定)ため、変化球が投げづらい。個性を出せるのはせいぜいざまぁする理由くらいなものです。
読者はざまぁ対象が無様に泣き叫ぶシーンにしか興味が無いため、改心とか救済みたいな方向に舵を取ることも難しいですし、ざまぁが終わってしまえば主人公にも興味はほとんどないことが大半なので、作者的に本当に書きたいことを書いても反応は鈍いと。
タイトルがあらすじ状態、あらすじはネタバレのオンパレードと同じく、読者達の目にとまる僅かな時間で魅力を伝えられるように工夫した末に生まれたものなので、なろう内では強い。しかし自由がない。
これを打破するには、奇抜な発想とテンプレを無理なく融合させる達人的技量が必要になるとなります。その達人が極希に誕生するからテンプレであっても読むのを止められない。
そんな結論を持って、最後に私から言うことは……
「序盤で受けなかったからと言って放置したり短編と言いながらただのプロローグだったり、そういうことは止めとけ!」
ってことでよろしく。
以上。
短編なのに虐められて捨てられただけだったとか激しくモヤモヤしたので、いろいろカモフラージュして愚痴りました。ごめんなさい。
そしてそんなことで7000字も書いてしまう事実に、何故小学校時代の読書感想文であんなに規定最低文字数に苦労したのだろうといつも思う。
よければ感想、評価(↓の☆☆☆☆☆)をよろしくお願いします。
現在連載中の、もう40万字を越えてなろう文字数基準では読了に14時間かかることになっている長編
『魔王道―千年前の魔王が復活したら最弱魔物のコボルトだったが、知識経験に衰え無し。神と正義の名の下にやりたい放題している人間共を躾けてやるとしよう』
https://ncode.syosetu.com/n5480gp/
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