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目は口ほどに  作者: とこ
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さらば、鮮やか過ぎる日々

何とか今日の分の運動を終わらせ、軽くシャワーを浴び、新しい服に着替えて俺は自室を見渡していた。


「なぁ、この調度品と家具、夕方までに全部運びだして入れ替え終わるか?」


部屋の隅に控えているメアリに問いかける。


「さようでございますね…家具の入れ替えの為、風魔法を使える使用人を5名ほど選んでくださると皇后陛下がおっしゃっておりましたので…日が暮れる前には可能かと思います」


「そういえば新しい家具をまだ見に行ってないけどいつ行くんだ?」


「新しい物ではなく、誰もお使いになられていない家具を再利用されたいと仰せだったため、今ある家財を搬出している間に家具がまとめて置かれているお部屋へとご一緒させていただきたいと考えておりますがいかがでしょうか?」


「そうか、ありがとう。その通りで大丈夫だ」


俺が伝えた礼にメアリがとんでもないと首を横に振っていると、ドアをノックする音が聞こえた。さっき言われた風魔法の使える使用人だろうか?


「皇太子殿下、お待たせいたしました。家財の入れ替えをされるとのことで皇后陛下より召し使いました。」


ドアの向こうからそう声が聞こえればメアリがすぐにドアを開けに駆け寄った。

前世での引っ越し業者などのガタイの良い男性を無意識に思い浮かべたため、ドアを開けた先にいる男性たちが皆スマートな一般的な使用人だったことに一瞬驚いてしまった。


それもそのはず、先のメアリの説明でも出てきたようにこの世界、とくにこの国は魔法が発展している。だから貴族以上の人間は重たい荷物やこういった引っ越し作業を行う際には風魔法を使うのが一般的だ。風の力で家具を浮かし運ぶのならば、筋肉は無くても何も問題ないため、全員スマートなのも納得である。


「殿下、ご指示を頂戴したく存じます」


部屋に招き入れた5人のうち先頭にいた一人が恭しく頭を下げたのち口を開いた。確かに具体的に何を持ち出すか伝えないと使用人も困ってしまうだろう。再度部屋を見渡し少し考える。


「んー、それじゃあ、まず調度品は全部売ってしまっていいよ、ひとつ残らず。あとは家具も全部。あ、クローゼットは最後に残しておいてくれ、新しいものと詰め替えるから。」


それから…と俺は言葉を続けて、最終的にはカーペットやカーテンまですべて持ち出すよう指示を出した。

ミラージルはとにかく高く派手ならばよいと思っていたようで、すべて目が痛くなるような柄物で、組み合わせも最悪だったためなにも残せるものがなかったのだ。


「かしこまりました。それでは、すべて運び出した後、お声かけいたしますのでごゆっくり新しい家具をお選びくださいませ」


「分かった、何かあったら手伝うからいってくれ」


「滅相もございません。皇太子殿下のお手を煩わせるわけにはまいりませんので。」


ここにいる誰よりも魔力の多い自分が手伝えば、早く終わるかと思い言ってみたが、やはり断られてしまった。仕方ない、家具を選び終わっても終わっていないようだったら勝手に手伝うとして、ここはひとまず使用人達に任せ俺は新しい家具を選びに行こう。



メアリに案内してもらい到着した部屋は入ってみると大きな体育館程のスペースには所狭しと家具たちが置かれていた。

どうやら家具ごとに大まかにスペースが分けられているようで、一番手前にあるベッドだけでも豪華で派手なものからシンプルなものまで多種多様だ。


「こちらは元々、先代や先々代の時に他国や他家に行かれた皇子殿下や皇女殿下方が使用していたものでございます。すべて職人にオーダーメイドで作らせた物になりますので、どれを選んでいただいても一級品でございます。」


メアリから説明を受けながら一番近くにあったあまり装飾のない黒い天蓋付きのベッドフレームを見てみる。素人目で見てもわかる程、洗練された美しさがあるような気がする。目立つ装飾はないが、今までミラージルの使っていたベッドよりも高級そうだ。


今までミラージルが使っていた家具はオーダーメイドでは無く既製品だった。それはなぜかと言えば、世間知らずのミラージルが商人のついた「オーダーメイド販売までの経費が抑えられていて安価になるので、それよりもウチの店で買ったほうが箔がつく」というでたらめに騙されていたからだ。


確かに、貴族向けの既製品の方が輸送コストや人件費、商人の取り分などを合わせたら平民街の小さな家具屋にオーダーメイドで頼むよりも費用は嵩み、対面的な箔はつくかもしれない。しかし、皇族からの依頼を受注する家具屋が小さな家具屋な訳がなく、メアリが先ほど言ったようにその腕、技術、デザイン性自体に価値がある、本人がブランドともいえる一流の職人なのだ。そんな職人にオーダーしてオリジナルの家具を素材から考えデザインしてもらうのに、全て作り方の決まっている既製品が敵うわけがないのだが。


「うん、一通り見てみたけど、ベッドは最初に見たこれにしよう」


置いてあるベッドを一通り確認して、最初に見た黒のベッドの前に戻ってくる。天蓋はついているものの、デザインもシンプルだし触り心地も好みだ。


「かしこまりました。それでは他の家具もお気に召すものがあるかご確認くださいませ。」


メアリに促され一通り家具を見て回り、俺は割と短い時間で好みに合う家具をそれぞれ見繕うことができた。今までも家具のデザインにこだわりが強くなかったほうなので、できるだけシンプルで使い勝手のいいもの、となると大分種類は絞られたからだ。


俺が最後にカーテンとカーペットを選び終えた時、丁度部屋のドアがノックされた。おそらく引っ越し作業担当の使用人だろう、と入ってくるよう声をかける。


「皇太子殿下、お部屋の家具や調度品の搬出作業が終わりました。すでに新しい家具がお決まりでしたら運ばせていただきますがいかがでございましょう」


「ああ、お願いしよう。丁度今全て選び終わったところだから、タイミングが良かったよ」


使用人たちに希望の家財を伝え、運んでもらうように頼む。これで今夜からは煌びやかな自室による視界への暴力から解放されると思うと思わずスキップしてしまいそうだ。身体が重くてできそうにもないけど。

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