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目は口ほどに  作者: とこ
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ダイエットも楽じゃない

口臭、体臭はすぐに解決できそうだが、肌荒れとこの体系の改善は一朝一夜ではどうにもならない。

肌荒れを治すにはスキンケアも勿論重要だが、それよりも大事なのは規則正しい生活と健康的な食生活。

この世界の主食はパンが主流なようで、ゲームの中でもアイシャが攻略対象の元にもっていく弁当の中身はサンドウィッチだった。

そこで、俺は今まで食べていたふわふわの白パンをからライ麦パンへと変更してもらおうと思う。

ライ麦パンは小麦からできた白パンと比べて食物繊維や栄養素が豊富で、尚且つ硬い。必然的によく噛まないといけなくなり満腹中枢を刺激出来て一石二鳥だ。


「メアリ、ちょっといいか?」

「は、はい、皇太子殿下」


現在俺の専属侍女であるメアリに声をかける。

突然声をかけられたメアリはびくりと肩を震わせ、震える声で返事をしてきた。

それもそのはず、今まで俺がメアリへしてきた仕打ちは散々で、機嫌が悪い時には理不尽に手を上げ、紅茶がまずいと難癖をつけて湯気の立つ入れたての紅茶をひっかけたこともあるのだから、この反応は正しい。当時の俺はこの怯えるような様子にも時には苛立ち、時には優越感を抱いていたものだ。メアリには申し訳ないことをした。


「これから食事の内容を変更しようと思っているのだが、その旨を料理長へ申し伝えてくれないだろうか」


「しょ、食事の内容変更…でございますか?」


「あぁ、つい最近自身を顧みる機会があってね。まずは体型から改善していこうと思っているんだ。」


俺から告げられた要件にも、俺の態度にも驚いた様子のメアリに苦笑しながら話す。

少し訝しんだ様子の瞳に皇族付きのメイドがこんなに感情を表に出していて大丈夫なのかと些か心配になりながら言葉を続ける。


「これからは野菜と脂質の少ない肉か魚を使った食事にして、主食は白パンからライ麦パンに変更してほしい」


そのほかいくつかの要点を書いたメモを渡しながら告げ、畏まりました、と少し慌てた様子でキッチンへと向かおうとするメアリの背中に声をかける。


「メアリ…その、今まで色々と酷い扱いをしてすまなかった」


「殿下!頭をお上げください!」


深々の頭を下げた俺にメアリは慌てて声をかける。皇族が他人、ましてや従者に頭を下げるなどあってはならないことに等しい。


しかし、今までのメアリへの対応を考えれば頭を下げるくらい当然すべきだと今の俺は思う。本来なら今まで俺の専属からクビにしたり、自ら辞めていった侍女一人ひとりに謝罪したいがそれは無理な話なので今、現実的に手の届く範囲であるメアリに意見をもらい改善することで還元できればと思う。


「今後は今までの様に苦痛を強いるようなことはしないと誓おう。もし何か不便があったら教えてほしい、メアリだけでなく他の女中達の意見でもいい。何か些細なことでも不満や気が付いたことがあったならこの若輩な俺に教えてくれないだろうか。」


「いえ…そんな。元はと言えば殿下のご要望にお応えできない私の力不足が招いたことなのです。ですが、殿下のお心遣い感謝いたします。何か気づきがございましたら殿下にご報告いたします。」


俺の伝えた言葉に驚きつつも意見を伝えてくれることを約束した彼女は一度深く頭を下げ、厨房へ向かうため俺の前を辞した。

完全に怯えが消えたわけではないが、これから少しずつ今の俺に慣れてくれたらよいと思う。


__さて、食生活改善の目途が立ったら次は運動だ。前世では走ることが好きだったが今のここ数年運動をしていない体で走れば痩せる前に俺の膝が砕けるので、無難にまずは散歩程度のウォーキングから始めよう。

そうと決まれば、クローゼットから動きやすい服を探す。

良かった、ずっと引きこもり生活をしていたせいで流石にスポーツウェアはないが動きにくい服のほうが少ないので、運動着には困らないだろう。

さっそく、シンプルなシャツと動きやすそうなズボンに履き替えればちょうど料理長の元へ言伝に言ったメアリが戻ってきたので後で庭にタオルとレモン水を持ってくることと運動着を購入しておくように頼んで庭へと足を向ける。


長い廊下を歩き漸く外に出てみれば無駄にだだっ広い庭はきちんと整備されており、芝生が生い茂る草原の様なスペースもあれば、色とりどりの花が咲く庭園も存在する。

まずは屋敷の周りをぐるりと少し歩こう、と足を進めるも1/3にも満たない距離で息が上がり、早々に足も痛いし、確かに日差しは温かいが未だ冷たい風が吹き完全に春とは言えない季節だというのにだらだらと汗が噴き出てくる。


根気で1/2の距離まで来たが最早足に力が入らずがくがくと笑う膝に限界を悟り、崩れるように腰を下ろす。いつの間に来ていたのかメアリが僅かに委縮しながらもタオルを差し出してくれた。タオルを受け取り、次に手渡された冷たいレモン水を口にすれば喉の渇きも伴って、史上の美味しさにごくごくと喉を鳴らして飲み干してしまった。軽く礼を告げコップを返せば驚きからかメアリは目を見開いた。

時折吹く冷たい風が火照った体を冷やしてくれる。


10分程そのまま休んでいれば体の火照りも冷め、汗も引き、何ならかいた汗が風に冷やされて寒くなってきたので、再度歩きだすため手に持っていたタオルをメアリに渡そうとして固まってしまう。こんな俺の汗が染みこんだタオルを渡していいものなのだろうか…。

しかし、この汗に濡れたタオルを持ち歩きながら歩くのも気持ちが悪いと、タオルを持ちながら固まってしまう。


「…殿下、そちらのタオルはお預かりしてもよろしいのでしょうか?」


タオルを中途半端に差し出したまま固まってしまった俺に戸惑いがちにメアリが問いかけてくる。


「あ、あぁ。お願いしていいか?…触れるのはあまり気分が良くないだろうから、何か袋に入れよう」


「っ…、滅相もございません。そのようなこと…気にいたしませんので、どうぞお渡しくださいませ」


俺がそんなことを気にしていると思ってもみなかったのか、一瞬言葉を詰まらせるもすぐに控えめに手を差し出してきた。「いや、でも…」と躊躇うが、引かない様子の相手に負けて、結局タオルをメアリに渡した。心の中で土下座する。


タオルを渡して身軽になった俺が再度歩を進めてみれば、先ほどの体の冷えが嘘のようにやはり一瞬で息は上がり汗が噴き出した。少しも走ってすらおらず、ただただ歩いているだけなのにこれとは、なんとも厄介な体である。

いくら休憩をしたとは言え、疲れが完全に癒えていた訳ではなかったようで、最初の1/2より後半の1/2の方が明らかに疲労度が高い。

最後の方では、脂肪の地下深くに埋まった脚の筋肉が引きつり口の中は鉄の味がして、白目を剥きながらゴールした。こみ上げる吐き気を必死に抑え、最早座る気力も無く膝から崩れるようにその場に寝転がった。ひんやりとした芝生が気持ちいい。


「どうぞ、よろしければ、お使いくださいませ」


「…っ、はあ、ありがと…っ」


「落ち着かれましたら、お声かけくださいませ。レモン水をお出しいたします。」


俺が歩く後ろからゆっくりとついてきていたメアリが新しいタオルを手渡してくれる。今度は怯えが殆どなくなってきているようにも感じられる。起き上がる余裕すらない俺は息も絶え絶えお礼を言う。

少し下を向けば風船のように膨らんだ腹が激しく上下に揺れていて、疲労で朦朧とした意識の中で最早この腹は腹ではなく小さな山なのではないかと思ってしまうほどの存在感だ。


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