表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目は口ほどに  作者: とこ
1/28

攻略対象が良かった

手元の書類に判を押した瞬間、パチン、とどこからか音がしたと同時に突如目の前が真っ白になった。

目の前の書類に書かれている内容は、推しとの結婚を確定するもの。


“私、フォードリア帝国皇太子、ミラージル・フォードリアはノワール王国の王太子ブロジット・ノワールとクリネスト公爵家令嬢、ルージュリア・クリネストの間に結ばれた婚約が無効になった際、ルージュリア・クリネストを妃として迎え入れます”




いつも通り、寝起きの重たい体を引きずってベッドから降りて洗面台へ向かう。

適当に歯を磨いて、顔を洗って髪の毛をセットすればもう家を出る時間で、慌てて着替えて昨日コンビニで買った菓子パンをかじりながら誰もいない家に向かって行ってきますと声をかけて玄関の鍵を閉める。

学校に行くまでの通学路で前を歩く友人に適当に声をかけて、くだらない話をしながら学校に向かい教室に入れば少し気になるあの子と目が合いおはよう、と言葉を交わす。

好きな教科は熱心に、嫌いな教科は適当に授業を受けて、放課後は部活に顔を出す。部活がない日はバイトして、また誰もいない家にただいまと声をかけて風呂に入って適当に作った飯を食ってゲームして寝る。


顔は良いか悪いかで言えば良いほうだし、性格も暗いか明るいかで言えば明るい、友達だって少なくない。運動神経もいいほうだし、勉強は好きな教科はクラス上位で苦手な教科は平均点。そんな可もなく不可もなく、どちらかといえば可なのが俺。


そんな俺でも人に言えない趣味があった。それが、寝る前にベッドの中でするゲーム。

男子高校生がゲームをするなんて普通かと思われるかもしれないが、それはゲームの内容によると思う。俺がプレイしているものはどちらかというと人に言いづらいもの__世間一般的には“乙女ゲーム”と称されているものだ。


その乙女ゲームのタイトルは【ラブラビリンス~魅惑の瞳に騙されて~】。通称ラブラビ。

始めたきっかけは至極単純なもので、気になっているあの子が友達と楽しそうにそのゲームの話をしていたから。友人が攻略対象をカッコいいと褒めた言葉にその子がそうだね、と笑っていたから。その顔を拝んでやろうと思ったのだ。


ラブラビは簡単に始められる無料のスマホゲームだったので早速インストールした。

最初は軽く触る程度でやめるつもりだった。のに、まんまと嵌ってしまった。

悔しいことにとても可愛かったのだ、ヒロイン__ではなく、そのヒロインの同い年の義理の姉であり王太子の婚約者、悪役令嬢と呼ばれるルージュリア・クリネストが。

可愛いと思ったきっかけは、一枚のスチルだった。もちろん悪役令嬢が主役のスチルなんて一枚もない。それは、ヒロインと王太子がお忍びで街に出かけた時のスチルで、その画面の端に小さく映ったルージュリアの姿。目深にフードを被ってはいるが1房だけ漏れた髪の色で分かった。

ほとんどの物が黒髪や茶髪で瞳の色もそれと同等のノワール国であの白金色は目立つのだ。

あくまでメインはヒロインと王太子なのでしっかりと表情は読み取れないが笑顔で街の人々と話しているようだった。


ストーリの中でヒロインが語るルージュリアは選民意識が強く、平民をバカにしているとヒロインは語っていたはずなので少し気になってしまった。


それ以来、俺はスチルがある度に画面を隅々まで確認した。すると些細なことだが色々と見つけた。騎士団長の息子とヒロインが中庭で弁当を食べるスチルの端、草むらの影から顔は見えないがその珍しい色の髪の毛に戯れる子猫とそれを優しく撫でる白い手が写っていた。

宰相の息子とヒロインが試験前に図書館で勉強するスチルでは、山積みにされた本の隣にあの白金色を見つけた。学園祭の前日、遅くまで作業をしていたヒロインを魔法学の教師が馬車まで送ってくれるスチルではまだ一つ最後まで明かりのついている教室にその色を見た。


背景の色でその髪の色はうまく隠されており、目を凝らして探さないと見つからないが、見つける度に彼女に夢中になっていった。

そして探し出そうとした。彼女が幸せになれる道はないかと。攻略本も買って、インターネット上もくまなく探すが見つからない。

彼女はどのルートでも隣国の皇太子の元に嫁いでいくのだ。

隣国の皇太子と婚約といえば、他の乙女ゲームの悪役令嬢に比べるとそこまで悪くない様に思えるがその皇太子は中身もビジュアルも最悪なのだ。

年齢こそ彼女と同い年ではあるが、低い身長にブクブクと太った体、風呂に入っていないのかべたついて濁り、艶のない濁りぼさぼさに伸びた灰色の髪。肩にはフケが積もっている。ニキビだらけの肌に、磨いていない上にたばこをよく吸う歯は黄色く黄ばんでいた。体臭も口臭もきつい。

性格が良かったらまだ救いようがあったかもしれないが、そんな見た目のまま過ごしていながら性格が良い筈もなく、運動は嫌い、勉強も嫌い。好き嫌いは多くうるさくて傲慢でわがまま。何もできないくせに自信家で、気に入ったメイドには体の関係を持ち掛け、断ればヒステリックを起こし折檻した後クビ。

ルージュリアは、毎日凌辱され、いたぶられ、皇太子が皇帝に即位した数年後、年々醜くなっていくミラージルとの子を産んだその後すぐに自死を遂げてしまう。


ミラージルは典型的なくそ野郎だったし、ルージュリアは確かに不幸だった。そんな奴に彼女を嫁がせたくなくて色々な分岐を調べるが、その夜も見つからず、翌朝がっくりしながら学校までの道を歩いているところをトラックに轢かれて死んだ。


唐突な死。そんな他人事みたいなセリフが前世で最後に浮かんだ言葉。

もう一度鏡に映る自分をみる。


そこに写っているのは醜いニキビ面、縦には低く横にはでかいからだ、べとついた髪。

ラブラビのあいつ、ミラージル・フォードリアだった。


初投稿です。

文のおかしな所や、読みにくい箇所などあればご指摘いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ