結婚とは妥協なのか?
「お前さ、なんで美穂さんと結婚したの?」
通い慣れた会社の近くのうどん屋で、2人の若いビジネスマンが話していた。
「だってさ、お前の元カノすっげえ可愛かったじゃん。なんで美穂なわけ?」
3ヶ月前に結婚式を挙げた同僚の加藤諒に対して、飯田天馬は質問攻めにしていた。
「お前さ、結婚したばっかの俺にそんな事聞く?笑 好きだからに決まってんじゃん」
「いや……わかんないわ。だってさ、美穂さんよりも性格良くて可愛くて、もっと好きになる人にこれから出会うかもしれないじゃん。おれらまだ27歳だよ。その可能性捨てちゃっていいわけ?」
同期で仲の良い友人でもあった諒には、ひねくれた恋愛観でも気兼ねなくぶつけることができた。
「う〜ん、まぁ服を買う時と同じような気持ちなのかな〜。」
口の中のうどんを飲み込んだ諒は、そう言うとまたうどんを啜った。
「服を買うときってどゆこと?」
「服なんてさ、無限にあるじゃん。いくら自分に似合うシャツを買おう!って思ってもさ、全てのアパレルショップを巡って、値段とか着心地とかを確かめるとかできないじゃん。恋愛も同じでさ、女子全員と付き合ってみてとか無理じゃん。
だから、どうしても欲しい要素とかでラインを決めてさ。それを超えたから結婚した感じかな。
お前も早く結婚しないと、良い人売り切れちゃうぜ」
「……。じゃあもしさ、好きな女優に告白されたら不倫する?」
「それは〜……。するかなぁ笑」
諒は少しだけ考えて、あっさりとそう白状した。
「そこなんだよ!!!妥協して結婚なんてできねえよ〜。」
つい、声を張ってしまった天馬は、後ろの席で若いOLが自分たちに睨みを効かせていたことに気がついた。
「………。やべえな、早く食って出んぞ」
二人は残りのうどんをかきこんで、店を出た。
-
天馬はこれまで4人の女性と付き合ってきたが、どれも長くは続かなかった。
どうしょうもなく好きな瞬間は確かにあるのだけど、数ヶ月したらその気持ちは薄れていってしまう。
それがどうしても行動に表れてしまうみたいで、毎回振られるのは天馬の方だった。
Q.日本にはたくさんの女性がいる中で、心から好きで居続けられる相手はどうすれば見つけることが出来るか?
天馬はずっとこの問題を解けずにいた。
結婚は妥協なのだろうか。
20年以上生きていれば、運命的な出会いが待っていることを期待していたのだが、まだその奇跡は巡ってこない。いや、こんな考えをしてるから、俺が見逃しちゃってんのかな〜。
駅前を通り過ぎて会社へと変える途中で、諒は言った。
「まじか……」
駅前のスクリーンには、天馬がデビュー当時から好きだった推しメンのアイドルが一般男性と結婚発表をしたとの報道が流れていた。
「まじか……」
少し遅れてそれを見た天馬の目からは、自然に涙が溢れていた。