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約束

 調整目的の練習試合だけに、投げる投手はきっちり決まっていた。雨宮のあとに投げる予定だった投手は総勢6名。2軍3軍合併のために投手は溢れかえっている。

 投げさせたい投手はいくらでもいるなか、山吉弟のつまらない意地のために、絶対負けられない戦いになってしまったこの試合、試したい投手よりも絶対抑える投手を起用せざるをなくなくなった投手コーチ立野は半ばやけになって2番手投手をマウンドに送り込む。

 背番号49のずんぐりむっくりな左腕投手。

 呉持は平均球速が130キロ台でこれといった変化球もない中堅左腕。典型的な1軍半で昨シーズンは一軍登板19試合、2軍18試合と目まぐるしく職場を変えていた。


「どうってことのない左腕だが、左に好投手がいない社会人相手にはこのレベルで十分通用するんだ」


 目に穴が開くほどみた産業石油の動画。立野がやっとの思いで発見した弱点は、とにかく産業石油は左の変化球に手も足も出ないことだった。

「特にチェンジアップはまったく打てない。呉持のチェンジアップは高く浮きがちな質の低いボール。それでもタイミングさえ狂わせばまず産業石油相手には打たれんだろう。2回から7回までは呉持でいく。おそらく打順2まわりまでは完璧に抑え込める……。いくら我が2軍とはいえ1点ビハインドくらいはひっくり返せるだろう。あの2回は本来投げるはずの6人の投手を惜しみなくつぎ込んでなんとか凌ぐ……」

 なんとか投手リレーの計算が立ちそうと安堵のため息を漏らす立野だが、よくよく考えるとどうして練習試合程度で日本シリーズ最終戦のようなスクランブル体制を敷かなきゃならないのかの当然な疑問が浮かんでくる。


「これも全部山吉のくだらん意地の張り合いのせいだ。産業石油に負けるなどもはやニュースにもならん。2軍はただでさえ社会人と勝ったり負けたりなんだしな。絶対勝つという足かせがうざすぎる……。あれはオレが高卒6年目で山吉が大卒2年目の頃だ。すっかり意気投合したオレたちは飲みの席である約束をした。山吉が監督になった暁にはコーチとして絶対呼ぶという。あいつは大卒2年目ながら将来監督になるコースが敷かれてたいわば幹部候補生。そのとおり、山吉はまずは2軍監督就任。次期一軍監督の有力候補の一人と言われ、オレは約束どおりコーチで呼ばれた。ここまでは描いた夢のままだが、あの山吉のワガママぶりに果たしてオレがついていけるかどうかがも問題となる……監督コーチの主従関係を我慢しきれくなったとき……オレのコーチ人生はをそこで終わりだ。まあそれはいいかもしれん。前どおりに山吉と親友関係に戻れるならな……」


 山吉弟は一人テンションが違う。一球一球のボールストライクの判定でブチ切れんばかりに主審に野次を飛ばす。

 監督の熱は選手に今一つ伝わってないようだ。それどころか場違いの熱量にしらける選手も出てくる。3番はベテランで主力の青銅。まだ調整段階とはいえ、監督のテンションに化学反応を起こせば簡単に安打くらいは打てる実力派が淡白な打席内容であっさり凡退する。

 

「おい青銅……!! 今のボール、お前ならホームラン打てるだろ!!」


 監督の怒声に青銅は素知らぬ顔だ。一軍レギュラー当確の選手、2軍監督に切れらたところで何一つダメージはない。

 悪くなる一方の雰囲気に結果を出したい2軍選手も意識過剰になって、真ん中のコースも打ち損じる悪循環。呉持は立野投手コーチの想定通り、チェンジアップを武器に産業石油打線を追い込む。

 初回得点のみの1−0のいわゆるスミイチ状態のままゲームは停滞。中盤を過ぎても白縞の出番はない。

 

 白縞応援団である白縞母親と妹はお目当ての白縞がいつまでたっても出てこずにすっかり意気消沈している。

 妹のうるさすぎるほどの兄への声援は4回くらいかまったく聞かれなくなっていた。

 絶対負けられないと一人燃える山吉弟は白縞に晴れ舞台を用意することを忘れてしまったのか。


「一打逆転の場面が来たら待ってましたの代打白縞と行きたいところだが、そのチャンスすらねーんだからな……。おい! 打線どもなんとかしろよ!」


 白縞に対してなぜか必要以上に好意的な山吉弟は、肝心の野球能力がないと断じる白縞に見分不相応な晴れ舞台を用意したいらしい。その場面がなくイライラする山吉弟だが、彼は監督である。監督として野手に適切な指示をするとか、手足・頭脳である打撃コーチに意見を仰ぐなどゲームを動かす努力が必要なはずだが、ただ山吉弟は苦虫を噛んでいるだけだ。


 停滞する試合に見かねたのはコーチでも経験豊富な選手でもなく、高卒新人にすぎない白縞だった。

「試合が動かなければ動かせばいい……」

 横にいた市島(総勢50人に迫る大所帯のため新人にベンチに座る余地はなく二人は立ちっぱなし)は白縞のつぶやきにハッとする。

「ただの控えの新人の分際なお前に何ができると言いたいところだが、それでもお前ならなんとかするか……」


 

ジャンルがわからないけど

コメディーでいいのかな……異世界でも恋愛でもないし


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― 新着の感想 ―
[良い点] 野球モノの創作物では大抵1軍での話ばかりなので、2軍や3軍の試合は新鮮に感じます。 [気になる点] 白縞君にモデルはいらっしゃるのでしょうか? [一言] 白縞君を見ていると水口選手(近鉄、…
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